第7話「あっれれーおっかし~な~?」(追放サイド)
なんとか、かんとか這う這うの体で逃げ出してきたカッシュ達。
街道上を走ってきただけでもう汗だくだ。
「おえええええ……」
「うっぷ、気持ち悪い──」
「くそぉ……お気に入りの杖落としてしまいました」
「ひぃひぃ……。死ぬかと思ったぜー」
小高い丘を登り切り、ようやく下り坂が見えたというところでドサリと──。
誰ともなく、倒れ込むと残りの3人もつられるようにして地面にへたり込む。
「ちっくしょー……。オーガごときに不覚を取ってしまったな」
項垂れるカッシュに、
「ほんとよー! もう、なんなの!! あのモーラって新人はー!」
ぷりぷりと怒り出したメリッサは、モーラの不手際だと騒ぎ出す。
「たしかに、いつもはオーガなんて何匹相手にしても問題なかったはず──ですが今日は……」
「そうだぜ。なんかおかしい? 俺っち、こんな距離走っただけで疲れるはずなんだけどなー?」
戦闘を振り返り、どうにも本調子じゃなかったと言い出したのは黒魔術師ノーリスと盗賊ルークの二人。
「ふん! そんなことは、わかりきっているだろう」
「そーそー! あのモーラのせいよ! きー……デッカイおぱい見せびらかしちゃってー」
いやそれは関係ない……。
と、男三人は思い。メリッサのささやかなふくらみを見て、そっと目をそらす。
「それだけでは説明がつきませんよ。なにせ、支援魔法を貰う前から皆の動きに精細さがありませんでした」
「そーそー。ノーリスなんて、魔力練り上げるのに倍近く時間かけてたんだぜ? モーラのバフ以前の問題さ」
つまり……。
「「「「ゲイルの仕業だ!」」」」
「そうに決まってるさ」
「そ、そうよ! アイツがなんか呪いを掛けたんだわ! この前の解呪の魔法陣みたでしょ!」
「か、解呪で呪いが掛かるのも変な話ですが……。タイミング的にゲイルの仕業なのは間違いないでしょうね。でなければ、Sランクの我々が雑魚モンスターに負けるはずがありません」
「なるほど……やっぱりゲイルのやろうか。見つけたら、指をへし折ってやるぜ!」
そーだそーだ! と気炎を上げる4人のもとに全身に負のオーラを纏ったモーラが漸く追いついてきた。
肩で息をする彼女は、なんとかしてオーガを巻いてきたのだろう──…………。
「あ、アンタらぁ……!」
「お、モーラ遅かったな。うまく巻けたみたいじゃないか」
「おっそいのよ、アンタぁ! そのデッカイもののせいでしょ、切り取っちゃいなさいよ」
こえーよ!(男三人の心の声)
「ま、まぁ、無事に戻ってこれてよかったよかった。さぁ、これで帰れますねー」
「へっ。新入りにはいい勉強になっただろ。さぁ、今日は出直しだ出直し────あれ?」
ぜいぜいぜい……。
荒い息をついたモーラであったが、まだ何か…………?
「ま、巻いてきたわけないでしょ……!」
「「「「え?」」」」
ずんずんずん……。
小高い丘の反対にいたものだから見えなかったけど──。
モーラの背後から生えるようにオーガの巨体がニョッキリ。
『うっが(よッ)!』
なんか、また会ったね?
みたいな感じで軽く挨拶するオーガさん。
「「「「んな?!」」」」
「アタシ一人でどうにかできるかぁぁぁああ!」
そういうが早いか、モーラは再びダッシュ。
坂道を利用してわき目もふらず町を目指す────。
「こ、このくそアマぁ! なんとかしろぉぉお!」
「きゃー! あ、アタシがガリガリだから美味しくないわよ!──男3人をさきにしてよぉおおお!」
「何言ってんですかアナタは?! 女性の方が肉が柔らかいに決まってるでしょ!」
「そーだそーだ! よっし、逃げるべ!」
へたり込んでいたくせに、びょーん! と飛び上がったカッシュ達四人は逃走開始。
その速度たるや先ほどのそれとは比べものにならないくらい、早い早い!!
これにはさすがにオーガもポカン……。
『うががぁ?(いや、俺ベジタリアンなんだけど)』
ばひゅーーーーん! と風を切る速度で逃げていくカッシュ達をみて、オーガは頭をかいてそのまま引き返したとかなんとか……。
※ ※ ※
そして、ようやくたどり着いた宿の食堂で全員が魂が抜けたようにチーン……と沈み込んでいた。
「うー…………水ぅ」
「誰かお湯貰ってきてよー。お風呂入りたーい」
汗だくで、異臭を放つ5人を見て宿の店主が実に迷惑そうな顔をしている。
飯時ではないとはいえ、酒を目当てに来ていた少数の客もあまりの匂いにそそくさと逃げていく始末。
「ちょっと、店主。さっさと、水かタオルくらいだしたらどうなんです?」
「そーだぜぇ、サービス悪いぞ」
ぶーぶー騒ぐ4人を白けた目で見ているモーラ。
彼女だけはちゃっかり自分のハンカチで顔の汗をぬぐっていた。
そこに、
「水は一杯だけだ。タダじゃないんでな」
ドンッ! と木のグラスに水を置いてサッサとカウンターに戻る店主を見てカッシュがかみつく。
「おい! どういうことだ?!──俺たちを誰だと思ってる!」
「………………宿代を払わない、たちの悪い客だ」
「「「あ゛あ゛んッ?!」」」
カッシュに続いて、3人もすさまじい形相で店主を睨むが、彼も鋭い目つきで睨み返す。
「先払いで貰ったのは昨日までだ。今日は、もう、その水を飲んだら部屋で出てくれないか? それとも、1日分の超過料金を払ってくれるのか?」
「な! てめぇ……!」
苛立つカッシュは懐の財布を取り出すが、
「あ…………。やべ」
「どーしたのよ? さっさと払っちゃいなさいよ」
「そうですよ。店主ごときに舐められてどーするんです。金貨で横っ面を叩いてやりましょう」
「……カッシュ? 顔が青いぜ?」
チャリン……。
転がり落ちる銅貨が4枚。
それがパパーティの共用財布の中身全てだった。
「へ? ど、ど、どどど、どーしたのこれ?」
「カッシュさん? これで全部ですか?」
「おいおい。ゲイルを追い出してだいぶ出費が浮いたんだろ?」
サーと顔を青くするカッシュ。
「いや、ほら────……」
チラリと全員の顔を見て、手に持つ装備に視線を泳がす。
メリッサ。新品の小型弓と短剣。
ノーリス。新しい魔法書と、今日紛失した魔法杖
ルーク。装備一式の手入れ……。
カッシュ────オーダーメイドした大剣。
「「「あ……」」」
そうだった。
ゲイル追い出し記念として、装備を一新。
新しいパーティの構成のためそれぞれが新体制を構築していたのだ。
そのためのクエストで。
そのために遠征してお金を稼ごうとしていたのだ。
「…………どうなんだ? 超過料金、5人で一泊銀貨5枚。飯付きなら6枚だ。…………知ってんだろ?」
たらーり、と汗を流すカッシュ。
そして、全員が金がないという事実に──────。
「もーらい!」
メリッサ、神速の速度でコップの水を飲み干す。
「あ、ちょっと?!」
「てめぇ!」
なけなしのサービスの一杯の水を飲み干すメリッサ。
そして、ケラケラと笑うクソアマに、全員の怒りがたまるところ────……。
「店主。アタシにはエールを一杯。あと、何か食べるものを」
モーラが一人注文し、自分の財布から代金を払って食べ始めた。
「…………? 何か?」
そして、4人の視線に気づいて首をかしげる。
「モーラぁぁ……」
「ちょっと、アンタぁ」
「これは困りましたねー」
「へー。共有の財布に一文も出さないとはこりゃ驚いたぜぇ」
「は?…………これは私の個人的なお金であって、パーティの資金はクエストの報酬からプールするんでしょ?」
パーティに加入するにあたってモーラはそう説明を受けている。
しかし、
「バッカ言うんじゃないよ、モーラ」
さっと、髪をかき上げ無意味にポーズを取るカッシュ。
「そーよぉ、お前のものはパーティのもの、パーティのものはパーティのもの」
ニッコリ笑ったメリッサ。
「一人はみんなのために」
「財布もみんなのために」
「……え? ちょ────ちょちょちょちょ?!」
グワシ。
「恨むならゲイルを恨めよー」
「そーそー。こうなったのも全部ゲイルのせいなんだから」
「お、モーラさん、結構持ってますねー」
「ひゅ~♪ このお姉さん、たいした金持ちだぜぇ」
勝手に財布を奪い取るとやんややんやと大騒ぎ。
「か、返しなさい!…………返せっつってんだろ、ごらっぁああ!」
プッチンと切れたモーラさん、割と本気でカッシュをぶん殴る。
「はは。支援術師の攻撃なんて蚊に刺され────えぶらぼぉぉ?!」
なぜか、モーラの一撃でぶっ飛ぶカッシュ。
「ちょ?! カッシュぅぅ?────てめ、デカいからって調子に」
「憤怒ッ!」
モーラの返す一撃!
「後衛のアンタの攻撃なんか当たる──────はぎゃぁぁああ?!」
メリリとめり込むモーラの拳。
「ちょ! モーラさん?! お、おおお、落ち着いて」
「そ、そーそー。あ、ほら────これ返す」
「死ねボケぇぇぇえええ!」
女性らしからぬダイナマイトキック!!
「し、支援術師の攻撃なんて、たいした────げぼらぁぁぁあ?!」
「盗賊の速度に敵うわけねーだろ、躱して────あべしーーーーー?!」
ドガッシャーーーーーーーーーン!!
両足顔面直撃、&踏みつけ。
「死ねッ! ザーーーーーーーコ」
ふぅふぅ、と肩で息をするモーラは財布を取り返すと、迷惑料として銀貨を2枚店主に払う。
「汚したわね」
「いやー……綺麗になったよ」
黙って銀貨を受け取ると、そっとモーラに荷物を差し出す店主。
「アンタならまた来ていいぜ」
「そのうちね。ご飯美味しかったわ」
それだけ言うと、さっさとカッシュ達に背を向ける。
「──あ、パーティ抜けるわね。今日のクエストのお給料はいらないから」
それだけ言うと、さっさと宿を出発したモーラ。
もう、降り返りもしないし、カッシュ達に声をかけることもなかった。
もっとも、支援術師にボッコボコにされたカッシュ達は完全沈黙中であったが……。
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