第5話「こんなはずじゃなかったのに~♪」(追放サイド)

「うわーーーー!!」


 ドカーーーンッ!


 すさまじい爆音が響き、新進気鋭のSランクパーティ『牙狼の群れウルフパック』のリーダーのカッシュが転がっていく。


「うぐぐぐ……。な、 なんでだ? なんでただのオーガくらいにこんなぁ……!」


 ゲホゲホと血反吐を吐くカッシュを追い詰めんとしてオーガが迫る。


「何をしているのよ! オーガなんて雑魚に──」

 そういうメリッサも最初の一撃を食らって以来まともに発てない始末だった。


「ま、まってください。今魔法攻撃を──……」

「おい! ノーリス?! いつまで詠唱してんだよッ! しかも、何だその魔法……そんな威力じゃオーガは倒せねぇぞ!」


 ギャーギャーと騒がしいのは黒魔術師ノーリスと盗賊ルーク。

 ノーリスはいつもの高速詠唱がうまくいかないばかりか、魔力の総力がなぜかいつもより少なく高位魔術を想ったように使えず困惑していた。

 そして、ルークにいたっては支援として売った弓がことごとく外れるわ、当たっても弾かれるわで全く戦力になっていない。


「ど、どうなってんだよ……! Aランクモンスターとはいえ、前戦ったときは群れだって薙ぎ倒したのに……」


 モーラに助け起こされたカッシュが忌々しそうに毒づく。

 そして、その矛先はモーラにも向いた。


「お前は何をやっているんだ?! さっさと、バフをかけろよッ」

「か、かえてますよ! 全員に、バフをずっっっとかけてます!!」


 そういって魔力切れを起こしそうな体に鞭を打ってカッシュを絶たせると、さらに支援魔法を練り上げ、カッシュにバフを施していく。


「──カハッ……。もう魔力がありませんが、これでステータスはいつもの倍はあるはず」

「ば、倍か?! ならいけるな! うぉぉぉおおおおおお!」


 回復もそこそこに、カッシュはステータスが倍になったと聞いて、大剣を手にオーガに突っ込んでいく。


「死ねぇぇぇえ! 雑魚モンスターがぁぁあ!」


 俺たちはSランクだぞぉ!!


『うがが?』


 しかし、オーガは余裕でカッシュの一撃を止める。片手で……。


「ば、バカな?! お、俺の一撃を……?!」


 ギリギリと押し込む大剣。

 しかし、押し込むどころか、鼻くそをほじるオーガが指でチョインと跳ね返すと、


『うっががぁ♪』

 ピィン。

「うぐわーーーーーーーー!」


 物凄い勢いで吹っ飛ばされたカッシュが再びゴロゴロと転がる。

 そして、満身創痍で立ち上がると、ものすごい形相で支援術師モーラを睨みつけると言った。


「この、出来損ない支援術師が!!! なにがバフが得意だ! 何がステータスが2倍だ! この役立たずがぁぁあ!」

「な?!」


 これにはさすがにモーラも反発を覚える。

 というか、カッシュ達が弱すぎるのだ。


「あ、アンタねぇ! 最初バフなんていらない。ベヒモス戦までとっておくとかいってたじゃない!」

「うるさい! うるさいうるさい! お前のバフは出来損ないだ!」


 カッチーーーーン。


「だったら、やってあげるわよ! たしか、前の人が残していったデバフアイテムがあったわよね? それを使えばオーガを弱体化できるわ」

「なんだと?! ゲイルの呪具を使うつもりか!」


「だって、聞いたわよ。アタシが来る前は戦闘前に呪具でデバフをかけてから戦ってたって!」


 一応引継ぎとしてゲイルが几帳面にもモーラに書置きを残してくれていたのだ。

 その中には今までのゲイルの戦い方やパーティの傾向などが記されており、念のためとして幾つかの呪具も残されていた。

 モーラはそれを使おうという。


「ぐ……。だ、だまれぇぇぇ! そうかわかったぞ」

 胸倉をつかんでいたモーラを放り捨てるとカッシュは馴染みの仲間たちに言う。

「これはゲイルの仕業だ! この前の【解呪】!! きっとあれは解呪じゃなくて『呪い』だったんだ」


 そうに違いないと言い張るカッシュに、仲間たちも同調する。


「そ、そうよ! そうに決まってる! ゲイルの奴ぅぅ」

「な、なるほど……! 呪いのせいで魔力が少ないのですね! あのハズレ職業のカスめが!」

「へっ! 俺は最初から知ってたぜ。だ、だからよぉ、今日は出直そうぜ!」


 ベヒモスの住むという山までまだまだ距離がある。

 というか、普通に上級冒険者がよく使うというだけの街道だ。

 たしかにA級のモンスターが湧くなど危険な街道ではあるのだが……。


「そ、そうだな! 呪いのせいでは仕方ない! よし、撤退だ!」

「賛成~」

「か、【加速スピード】の魔法なら任せてください」

「おい、新入り──わかってんだろうな!」


 次々に撤退準備に入る『牙狼の群れ』を見て、ポカンと口を開けたモーラ。


「え?……うそ、もう撤退? だって、Sランクパーティじゃ……」


 期待のパーティと聞いていただけに、そこに加入できることを嬉しく思っていたモーラだが、蓋を開けてみればこの体たらく。

 それどころか、


「そうそう。新入りはほとんど戦ってねぇ! おい、モーラてめぇは殿しんがりだ!」

「はぁ?!」


 突然、オーガの矢面に立てと言われて面喰うモーラ。

 これは相当に無茶だ。なにせモーラはただの後方職で、しかも攻撃手段をほとんど持たない支援術師。


「ちょ、ちょっと、それは──」


「よし! 行くぞ、皆!」

「「「おーう!」」」



 ザザザザザザザザ!!


 ※ カッシュ達は逃げだした ※



 そして、あっという間に走り去るカッシュ達4人。

 あとにはポツンとモーラとオーガが残された。


「あ、あ、あ、」





 アンタらぁぁぁあああああああああああああああ!!





 街道上にモーラに悲痛な叫びが木霊したとか。


『がうがうー(大変だな、アンタも)』




 こうして、Sランクになったばかりの『牙狼の群れウルフパック』は早々にして、クエストの達成が困難になったという。

 だが、もちろんカッシュ達は納得していない。


 こうなったのはゲイルのせいだと考えて虎視眈々と彼に報復しようと考え始めるのだった。


 しかし、この時点でまだカッシュ達は気づいていない。

 自分たちが今まで敵なしと思っていた強さは、ゲイルの施した規格外の『呪い』の上昇効果と、戦闘前に彼が使っていた呪具によるデバフ効果によるものであったということに……。


 ゲイルひとり、敵の能力を低下させるデバフと、

 パーティの能力を大幅に上昇させるバフを行っていたなど、カッシュ達は知る由もなかった────。





 …………ちなみに、モーラはゲイルが残した呪具を使って何とか逃げ延びたとかなんとか。

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