第4話「初露店」
「さーて、売るぞー」
商人ギルドにショバ代を払って露店街の一角を借りたゲイル。
カッシュ達に言われた通りに露店なりでお金を稼ぐのは少し業腹であったが、そんなことも言っていられないほど金欠だったので背に腹は代えられない。
「さて、とりあえず余ってる呪具と、インテリア向きの装備を売ろうかな」
呪具師であるゲイルは、様々な呪具を自作する。
また、呪印を施すことで装備に呪いなどを付与できる。
今日露店に並べていくのはそういった品の数々だ。
「っと、相場がわからないな……。ま、いいや。材料費くらいに稼げれば採算は合うでしょ」
とんとんとーん、と呪符や呪いのアイテムを並べていくゲイル。
【
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その他、
複合型の香油タイプや遅効性の噴霧型呪具。
ゲイルは、消耗品で元のパーティで使っていたものをどんどん並べていく。
カッシュには材料が効果だと言われていたが、実際はアンデッドなどの素材やお手製の薬品から作っているのでほとんど材料費はかかっていない。
どちらかというと技術料? ゲイルの制作苦労時間はプライスレス。
「よし! ジャンジャン売るぞ。商売はなんだかんだで初めてだからドキドキするな」
露店街を行く街の人々を見ながらゲイルは期待でわくわくする。
この王都の人たちに、ゲイルの呪具はどんな風に受け入れられるだろうか。
一抹の不安と、大きた期待をもってゲイルは声を張り上げるのだった。
「さぁ。いらっしゃい、いらっしゃい! 冒険者御用達のデバフアイテムだよ! お安くしとくよー」
王都中の人が集まると言われる露店街にゲイルの声が響くのだった。
※ ※
「お? 呪符か、めずらしいな」
「いらっしゃい!」
ゲイルが商品を並べていく間にも幾人もの冒険者が足を止めて呪具を見てくれる。
呪具は消耗品であるがゆえ、デバフ魔法を使える魔術師などに比べると一等下に見られがちであるが、その性能や誰でも扱えること、また魔力を使用しないなどの利点もあるため、一部の冒険者には需要がある。
今回も価格設定が功を奏したようだ。
「へー。【猛毒】の呪符が銅貨5枚?! やっすいなー」
「はいはい。そちらオススメですよ」
他にも様々な状態異常を起こす呪符や、ステータス低下のデバフ効果をもった呪具がいっぱい。
お値段も、その辺のお店より安い。
「よし、性能はともかく、安い買っとくかな」
「まいどー!」
そんな感じで次々に呪具は売れていく。
在庫はたっぷりあるので惜しみなく売りさばいていくゲイル。
「それは?」
「呪いの短剣です。装備すると敏捷が少し下がりますが、かわりに【
「あ゛?! なんつった?」
「えっと? 【防御低下】ですか?」
「いや、最後」
「……呪われています」
冒険者がジト目でゲイルを睨む。
「兄ちゃん。……正直なのはいいけどよー。呪いのアイテムなんて誰が買うんだよ」
「そ、そうですよね。えっと……なので、インテリアとして。ほら握り部分とかカッコよくないですか?」
ゾンビウルフの骨を加工して作った短剣だ。製作時間1時間。お値段銀貨1枚。
「ふんッ。インテリアか……。ま、悪趣味だが、俺は嫌いじゃね~デザインだ。いいぜ、安い買ってやる──家の魔よけの飾りによさそうだ」
「ありがとうございます! これ、オマケの【解呪】の呪符です。3枚つけときますね」
「お、気が利くじゃねーか。ありがとよ」
そん感じで、呪いの装備もいくつかはインテリアとして売れていく。
例えば、
「あ、それは呪いのネックレスでして。全ステータスが1.5倍になる代わりに、呪われます」
……デザインが悪趣味でいいとかで売れた。【解呪】の呪符はもちろんオマケする。
「お、それは呪いの靴ですね。敏捷が2.5倍になる代わりに、呪われます」
……奴隷に履かせるとかで売れた。【解呪】? もちろんオマケした。
「はい、それは呪いのボウガンですね。全ステータスが1.3倍、【必中】の効果付きですが、呪われます」
……年に一度の狩り大会で使うそうで、売れた。いいのかそれ? 【解呪】?? 当然つけたよ、5枚ほど。
そして、消耗品、装備品問わずバンバン売れていく。
もちろんお客様には誠実に説明し、呪いの影響や解呪の方法。そして、呪いの副産物である上昇効果も推しで説明。
呪われたアイテムは、呪いの代わりに付与される効果が凄いのが特徴だ。
常に使うならともかく、ここぞという時に使うととても有用だゲイルは思っている。だから、ちゃんと【解呪】の呪符もセットでわたしている。
伝説の勇者の相棒には、狂戦士がいたと伝わっており、彼は呪われた鎧を愛用していたというくらいに、呪いの装備は強いのだ。
もっとも、はやり呪いというところで忌避感情が働くみたいだけどね。
「さぁお安いよー。【解呪】付きで、呪いの装備も扱っておりまーす!」
元パーティでは致命的デザインと言われていたゲイルの呪いの装備も、見る人吾見れば「デスメタル的」でいいらしい。
……なんだよ、デスメタルって??
いつの間にか盛況も盛況。大盛況でゲイルの呪具は売れていった。
以外にもオマケの【解呪】の呪符が人気商品だったんだけど……。なんで??
ゲイルにもよくわからない理由で次々に呪具は売れていき、その日は完売御礼隣売り上げも上々であった。
これでゲイルの懐も、結構ホクホク。なにせ、材料はほとんど見向きもされないアンデッド素材や毒薬やゴミだからね。
「今日はありがとうございましたー! また、あしたきまーす!」
そういって、呪具を買い求める冒険者の皆さんをかき分けてゲイルは宿に帰るのだった。
※ ※
「おいおい、これスゲーぞ」
「うわ……なんだこれ? マジでステータスが1.5倍だぞ?!」
「ひえええ、指輪でこんなにいい効果ついていいの? 別に
ゲイルが去った後、試しに呪いの装備を付けた冒険者たちが驚愕している。
冗談のつもりで装備した呪われた装備に数々は、ちょっとの呪いの効果に目をつぶればその他の性能は破格のものであったのだ。
しかも、神殿でやると滅茶苦茶高価な【解呪】がオマケとしてタダでついてきた。
「おいおい……。解呪の呪符、転売したらそれだけで儲かるんじゃないのか?」
「しぃー! 滅多なこと言うんじゃねーよ。神殿の奴らが怒り狂うぞ? アイツ等【解呪】に金貨を要求しやがるからな」
「いや、とんでもねぇ【呪具師】がいたもんだ。こりゃ、どこのギルドもパーティも見逃さねーぞ」
「っていうか、アイツ誰だよ? どっかで見たことある気がするんだけどなー」
「あんな溌溂とした【呪具師】いたっけか?」
ヒソヒソと噂し合う冒険者たち。
まさか彼らは気づかない。
今の今まで4人分の呪いを背負って体調を常に崩していた呪具師がいたなど……。
ましてや、Sランクに上り詰める程のすさまじい効果を秘めた『呪具』をバーゲン並みに売りさばく規格外の呪具師がパーティを追放されているなど思いもよらなかっただろう。
この日を境に、たまに露店を開く神出鬼没の呪具師が王都で密かに噂になる……。
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