第3話「追放したあと──」(追放サイド)

「いやースッキリしたぜー」

「ほーんと、あいつがいなくなって清々したわー」


 カッシュとメリッサが宿の食堂で酒を飲みながら管を巻いている。


「初期メンバーだからってカッシュが甘やかしてるからですよ」

「そーそー。もっと早く支援術師を入れるべきだったんだよ」


 ノーリスとルークも酒を飲みながら、美人のモーラに鼻を伸ばす。


「悪い、悪い。アイツとはパーティ結成の頃の付き合いだからな、ついついな」

 全く悪びれていないカッシュはメリッサとイチャイチャしながらゲイルをこき下ろす。


「ほんと使えないやつだったぜ。日中は呪具ばっか作ってやがるし、たまに働いても、なーんかいっつも顔色悪くてよー」

「そーそー! しかも、知ってるぅ? アイツ、おまじないとか言って皆の装備にたまに変なことしてたのよ」


 きもちわるーいと、舌を出してアピールするメリッサ。

 その時、



 パァ……。



 と、中空に薄い魔法陣のようなものが現れる。それも4つほど。


「これは……解呪?」

 その魔法陣に一番に気付いたのは、新人のモーラだった。


「な、なんだこれ?」

「うわ……! 俺の短剣が光ってるぞ?」


 ノーリスとルークが自分の装備を確かめて驚く。

 慌てて、カッシュとメリッサも装備を確かめるとそれぞれ武器、防具など部位の異なるそれらが淡く輝き…………そして、消えて元の冷たい装備に戻っていった。


「な、なんだ今の?」

「わ、分からないわ?」


 カッシュとメリッサは気味が悪そうに装備を眺める。

 そして、


「あ、あれ? なんですかね? 魔力が薄くなったような……」

「お、俺も体が重いような──なんだこれ?」


 まさか、呪具の恩恵を受けていたなど思いもよらないカッシュ達。

 突然ステータスが下がり、今まで破格の性能を誇る装備を持っていたとなかなか気づけない。


「い、今のはなんですか? かなり高度な解呪の術式に見えましたが──」

 モーラだけは同じような支援系統の職業ということで、ゲイルの呪具のそれに気付いたらしい。

 しかし、まさか彼女もゲイルがこっそり『呪い』の高性能部分だけを仲間に施し、バッドステータスをすべて自分で引き受けていたとは思いもよらなかったようだ。


「か、解呪?…………ま、まさか」

「あ、ありうるわよー。きっとゲイルが何かしたんだわ!」


「むむむ。あの呪具師──まさか、追放された腹いせに何か仕掛けてきたのでしょうか?」

「ち……。やっぱり殺しとけばよかったんだ!」


 口々にゲイルを罵る4人。

 しかし、モーラだけはそんなことがあり得ないと思っていた。


 『呪い』を駆けるならまだしも、『解呪』によって不利益を被るなど普通はあり得ない。

 しかも、4人同時ということは術者側から解呪したということだろう。常識的に考えるなら、呪いを解いた────ということ。


 だが、カッシュ達はまるでゲイルに呪いを仕掛けられたとでも言いたげである。


「ち……! 何が何だか知らねぇが、ゲイルごときに今さら何ができるってんだ」

「そ、そうね。アイツが何か仕掛けてきても、アタシたちなら余裕で反撃できるわ!」


「い、いえ……ちょっと待ってください。今のは解呪なので──悪いことなど一つも、」


 モーラが4人を諫めようとするも、カッシュ達の中ではすでにゲイルからの嫌がらせ攻撃だと決めつけられてしまったらしい。


「今度、どこかで会ったら、魔法で焼き殺してやりましょうか」

「おーういいねぇ! 俺はアイツの指を切り落として二度と呪具を作れなくしてやるぜ」


 ギヒヒヒ

 ゲヘヘヘ


 と、下品に笑う黒魔術師ノーリスと盗賊ルーク。

 その姿にドン引きしているモーラであったが、一方で4人同時に【解呪】を行ったゲイルに興味をもった。


(どういうこと?……まるで、解呪した途端に彼らが弱くなったように感じたんだけど。そんなことありうる?)

 モーラは支援術師として後方からバフをかけることをメインにしているため、なんとなくパーティメンバーのステータスが肌で感じることができるのだが、その彼女の感覚からすれば、目の前の4人が一気に弱くなったように見えたのだ。

 それも解呪を境にして……。




「まるで、常時バフをうけていたみたいだったけど……。まさかね」




 呪具師にバフは使えない。

 もし、呪具にそんな便利な機能があったら、それは破格の性能で──並みの呪具師のそれではない。


 だがそれができたなら?


 そして、それをなしていた呪具師がこの場にいないなら、『牙狼の群れウルフパック』というパーティはそもそもSランクに相当する腕前なのだろうか、と。モーラは考えた。


 だけど……。

 まさか、呪具師に──??


「まぁ、アイツのことは、いまはどうでもいいや」

「そうね。それよりも明日からいよいよ、Sランクのクエストよ!」

「そうでしたそうでした! Sランク初クエスト──腕がなりますね!」

「へへへ。ゲイルのおかげで中々ランクアップできなかったけど、いよいよ俺たちの真の力をギルド中に知らしめることができるな!」


「「「「まずは、災害級モンスター、ベヒモスの討伐だー!」」」」

 乾杯ッッッ!



 わーーーはっはっはははは!



 モーラの抱いた疑問と懸念をよそにさらにさらに酒を痛飲し、カッシュ達は明日以降のクエストに思いを馳せるのだった。





 だが、支援術師モーラの抱いた懸念は後日現実のものとなる。


 ゲイルの施していた破格の性能を誇る呪具の恩恵から【解呪】された『牙狼の群れ』は、はたしてSランクに相当する強さを持っているのだろうか────……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る