第2話「解呪と回収」

「くそ……。なんて奴らだ! あんなに長いこと一緒にやってきたのに……!」


 オマケに、ほぼ無一文で放り出された。


「カッシュの野郎。自分たちだけでここまでこれたと思ってんだな……。まったく、どうなっても知らないからな?」


 クサクサした気分で、その日のうちに荷物をまとめたゲイルは、朝を待つことなく宿を発った。

 今日一日分の宿代は払ってあるというが、もううんざりだ。


 女将さんにチェックアウトを告げて、宿を出るときに酒場をチラリとのぞいたが、ゲラゲラと笑うカッシュ達を見ると、本当に他人になったんだなと実感できた。


「じゃぁ、これも解除しとかないとな……」

 ゲイルは懐に入れていた、呪具の解呪アイテム──呪符を使用した。

 これはカッシュ達の装備に施していた呪具を解除する道具で、使用すれば彼らの装備はゲイルの呪具の効果から解放されることだろう。



「【解呪ディスペル】!」


 パァ────と、解呪の呪符を使用すると、一瞬だけ中空に呪印が浮かび上がり、パァンと砕け散った。

 それで、彼らの装備は元の状態に戻ることだろう。余計なこととは思いつつも、呪いの効果で貢献していたつもりだったのだ。


「う……」


 ガクンと膝をつくゲイル。

 今まで自分にバッドステータスが跳ね返ってくるようにしていた『呪い』を解呪したのだ。何らかの悪影響はあるかと思っていたのだが──。


 カッシュ達に装備に施していた『呪い』。

 性能を2~3倍に引き上げる代わりに、経験値の吸収率低下や、弱い状態異常にかかるというもの。


 呪われた装備品というものは、『呪い』という枷を負うが、その分、性能が破格なものが多い。

 能力値だけを見るなら、そこらの聖遺物にすら勝るほどだ。


※ ちなみに、聖なる装備とされている。伝説の勇者が使っていた装備装飾の数々の中で最も強力な部類のものでさえ、元の能力を2倍ほど引き上げる程度にとどまる。これだけでも、呪具の性能がどれ程優れているかわかるだろう。


 そして、それら『呪い』のバッドステータス部分をゲイルが全て肩代わりすることで彼らの装備品に破格の性能を与えていたのだ。

 だが、追放されてまでその義務を負う必要もないだろう。……そもそも、ゲイルのお節介でやっていたことだ。


「ちょっと、反動が来たけど────やっぱり体が軽くなった気がするな」


 コキコキと肩を鳴らすゲイルはどこかスッキリした顔をしていた。

 破格の性能を与える代わりに4人分のバッドステータスを引き受けていたのだ。いくら呪具師の力で呪いを弱めてはいても、さすがに厳しかったようだ。


「これでカッシュ達には呪具の恩恵はなくなったけど。……まぁ、新しい支援術師を仲間にしたみたいだし、彼女に任せておけば大丈夫かな。どっちみち俺が気にすることじゃないしな」


 ステータスを確認すると、驚くほど跳ね上がっている。

 経験値の吸収率が低かった分や、低下していたステータスも正常値に戻ってみればなんというか、結構高い気がする。


 カッシュ達のレベルが50前後だから──。

 そして、彼らの低下分のステータスをそれぞれ2割程度引き受けていたから……。



 ブゥン……。



 ※ ※ ※

レベル:48(UP!)

名 前:ゲイル・ハミルトン

職 業:呪具師


●ゲインの能力値


体 力:1311(UP!)

筋 力: 980(UP!)

防御力:1024(UP!)

魔 力:3402(UP!)

敏 捷: 835(UP!)

抵抗力:4509(UP!)


残ステータスポイント「+875」(UP!)


スロット1:呪具生成Lv10

スロット2:呪具改造Lv10

スロット3:呪具練成Lv10

スロット4:呪具合成Lv10

スロット5:解呪Lv10

スロット6:罠設置Lv4

スロット7:短剣術Lv2

スロット8:投擲Lv3


 ※ ※ ※


 あ、やっぱり……。


 確認してみれば、カッシュ達にそん色ないほどのステータスを誇っていたゲイル。

 今までは、彼らに使っていた呪具のせいでステータスが下がっていたけど、その分がなくなればゲイルもそこそこの強さだったのだ。


 パーティの攻撃力の要であるカッシュのステータスで、攻撃力5000、防御力が3000なので、支援職としてはゲイルはかなり高い方だとわかる。


 もちろん、これは何もステータス上昇アイテムを装備していない状態だ。

 以前までのカッシュ達は、そこにゲイル製の『呪具』の恩恵を受けていたはずなので、ステータスがかなり高かったはず。


 その不足分を補うための支援術師なのだろう。


「さて……。これで本当にカッシュ達とは縁が切れちゃったな」

 晴れ晴れした顔でゲイルは空を仰ぐ。


「どうせ追放された身だ。……あいつらが言うように露店や店でもやるかな?」


 ステータスはSランク並にあるし、

 お金はないけど、今まで作った呪具がたくさんある。


「他にも、田舎のほうで道具屋なんてのもいいかもな──」

 そして、兼業で冒険者をやりつつ、材料をゲットして呪具を作成し、売ってお金を稼ぐ。

 手先は器用なつもりなので、普通の雑貨だって作れるはずだ。


「よーし! なんだかワクワクしてきたぞ」


 ちょっと前まで落ち込んでいたけど、解呪とともに縁も切ってしまえば何ということはない。

 ゲイルは自由を手に入れたのだ。


 好きな時に寝て、

 好きな時にご飯を食べる。


 そして、

 好きな呪具を作って、

 好きな研究に費やす。


 『牙狼の群れウルフパック』では散々使えないだのなんだのと言われていたことを思い出せば、なぜもっと早く自分から出て行かなかったのか疑問に感じるくらいだ。


 よし!

「──まずは、露店で路銀を稼ごう!」


 生産系職業クラフトジョブなら、誰でも夢見る自分のお店。

 その第一歩としてゲイルは昔から一度はやってみたかった露店を始めることにした。





 …………その、ぶっ飛んだ性能を誇る呪具を本人はまだよくわかっていないかったのだが────。

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