チェンジ レオパルドン

 この親子の仲はかなりいい方だ。新聞を広げて時事について語り合うこともあれば、前売り券を持って二人で映画を観にいくこともある。そんな仲の親子でも、時に語り難い悩みを抱える。今から語る夜は、ちょうどそういうドライブだった。一般に、父と息子の関係は、第三者が考えるよりずっと難しい。どんなに仲が良くても、腹を割って話すにはそれ相応の状況がいる。この親子にとっては、夜のドライブがそういう場所だった。

 息子は元気がないように見えた。実際、食事もあまり取らず、浅い眠りにうなされて、若者らしくなにかを成し遂げようというエネルギーを感じられなかった。生気のない息子を見ることは、母にとって耐え難いことだった。日に日に暗くなる我が家に帰ることは、父にとって苦しいことだった。

 夜のドライブでのいくつかの会話ののち、父は合点がいった。この青年は確かに自分の息子なのだと。身の覚えのある、20の頃の無気力。自己の中の矛盾する価値観。捉え難いあるべき姿。よくあることだと知っていた。時間が解決することもわかっていた。しかし、かける言葉は見つからない。

 

 行くあてのない道。長い沈黙。手持ち無沙汰にスマホを見ていた息子が、不意に口を開いた。

「レオパルドンって知ってる?」

 彼はなぜ自分が東映とマーベルの古い特撮番組のことを話題にしたのか分かっていなかった。父はなぜ息子が東映とマーベルの古い特撮番組のことを知っているのか分かっていなかった。

 父は探るように話し始めた。

「いや。それってなに?」

 息子はほとんど無意識に

「昔、東映がスパイダーマンを作ったことがあって。君はなぜ、君はなぜ、って歌詞のオープニングで」

 このときようやく、親子の間に解決すべき問題はないことに二人は気づいた。


「ビルの 谷間の暗闇に きらりと 光る怒りの目」

「安らぎ捨てて 全てを 捨てて 悪を追って 空駆ける」


「チェーンジ レオパルドーン!」


「君はなぜ 君はなぜ 戦い続けるのか 命をかけて」

「一筋に 一筋に 無敵の男」


「スパイダマーン!」

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