コンパイラより愛を込めて
この世には数百を超えるプログラミング言語があるという。プログラミング言語はコンピュータのアプリケーションを記述するための人工言語であり、この言語を使ってアプリケーションを執筆する職業をプログラマと呼ぶ。
現代社会において、コンピュータは経済的にも文化的にもエコシステム的にも極めて重要な存在である。そのため、コンピュータとの対話のプロフェッショナルであるプログラマの社会的地位も高い。
一方で、私のようなコンパイラはそれほど人気の職業とはいえない。アルコール飲料を飲んで酔っ払うたびに、これは職業的差別である、と主張する悪癖を持った同僚もいる。私の意見では、コンパイラという職は(対外的には)あまりにも地味すぎるのだ。
あまり知られていないが、コンピュータはプログラミング言語で書かれた文章をそのまま理解することができない。コンピュータが理解するのは機械語と呼ばれる難解な暗号めいた言語のみである。ではどうしてプログラミング言語が存在しうるのかというと、我々のようなコンパイラが、プログラミング言語で書かれた文章を機械語に翻訳してコンピュータに伝えているからである。
我々は機械語への翻訳が専門だから、プログラマのように優れた文章は書けない。かといって、コンパイラがいなくなればプログラマとコンピュータの意思疎通は不可能あるいは極めて困難となるだろう。本書では、そんな縁の下の力持ちであるコンパイラという職業の魅力や面白さをできる限り伝えたい。
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