第5話 いつものような『飲み会』
「それより、神前。オメエはアタシの『ペット』だよな」
女王様気質で遼州外惑星系第四惑星を構成する『大正ロマンあふれる国』、甲武国の名家の当主でもあるかなめは、いつも誠を『ペット』と呼んだ。
甲武国の貴族最高位の官位『太閤』である彼女にとって、この東和共和国の庶民の出である誠は『下々の出』の当たり前の青年にすぎなかった。
「いい加減『ペット』扱いはやめてくれませんか?一応、人間なんで」
誠はそう言って反論するが、かなめは脇に吊るしたホルスターの中の愛銃『スプリングフィールドXDM40』を撫でながらにこにこと笑っている。
「そんなこと関係ねえんだよ!オメエは気に入ったからアタシの『ペット』にしたんだ!光栄だろ?甲武の貴族主義者の士族の連中なら飛び上がって喜ぶぞ」
かなめは誠の意思とは関係なく笑っている。
「僕は……嫌です。それより、何か用があるんじゃないですか?」
そう言って誠は『ペット』の話題から離れようとした。
「実は……」
「飲みに行くぞ」
かなめが話始めようとしたところで、今度は小隊長のカウラ・ベルガー大尉が声をかけてきた。
「飲み会ですか?先週も行ったじゃないですか……」
エメラルドグリーンのポニーテールが似合う長身の女性のカウラは、全く酒が飲めないくせに飲み会の雰囲気が好きなタイプだった。
「そんなもん、今度の海に行くことについて話し合うに決まってんだろ!今回はアタシとカウラ、それにアメリアだけだ。島田達やサラ達はなんでもカラオケに行くらしいからな。アタシ等が遊びに行かなくてどうするんだよ!」
上機嫌のかなめはたれ目を光らせながら、意味の分からない理屈をこねる。
誠はかなめに逆らうといつも彼女の愛銃の銃口を向けられるので、ここは黙ってうなづいた。
「分かりました……でも、今日は僕は寮からバイクで来てるんで……」
「大丈夫だ。貴様は私の『ハコスカ』で送ってやる。明日の朝は寮長の島田のバイクの後ろに乗ってくればいい。決まりだな」
なんとか言い逃れをしようとした誠だが、カウラは笑顔で誠の逃げ道を封じた。
「ふう……」
いつものように誠は女性上司達の気まぐれに付き合わされる。自分が彼女達の色気に騙されていることは十分承知だが、久しく彼女のいない誠はただ苦笑いを浮かべてそれに付き合うより他の道を知らなかった。
「じゃあ、着替えてきますんで」
それだけ言って誠は機動部隊詰め所を後にした。
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