終業後の『特殊な部隊』

第4話 『公文書偽造』問題

 夕方。終業時間を迎えた誠は、まだ提出が終わっていない前回の出動のレポートの手を止めて伸びをした。


「神前!上がっていいぞ。アタシも今日は帰るわ」


 機動部隊長の大きな机に座っているちっちゃな幼女、『偉大なる中佐殿』と隊では呼ばれているクバルカ・ラン中佐がそう言いながら立ち上がった。


「いいんですか?もう一週間になりますけど」


 そう言って再びキーボードに手を伸ばそうとする誠だった。


 しかし、誠が不意に向けた視線の先に、小隊長カウラ・ベルガー大尉は珍しく柔らかい笑みを浮かべているのが見えた。


「いいんだ、このところの報道を見てみろ。『法術』と言う超能力が遼州人に備わっているということで大混乱だ。遼州同盟は隊長経由で今回の貴様の法術発動を知っていたが、加盟国や地球圏などは我々と接触を取りたくて仕方がないらしい……」 


「でも、それならなおのこと僕の報告書が必要なんじゃないですか!」


 カウラの言葉に今一つ納得できない誠はそう反論した。


「そんなことは分かってんだよ、叔父貴も。正規の報告書はすでに叔父貴が代筆して提出済みだ。オメエのは内部的な書類として処理されるだけ。いつまでだっていいんだよ、そんなの」


 カウラの正面に座っている西園寺かなめ大尉はそう言って薄ら笑いを浮かべていた。


「そんな!公文書偽造じゃないですか!僕は嫌ですよ!そんなの!」


 社会的な常識に疎い誠でも『公文書偽造』と言う言葉は知っている。誠の自筆の報告書として上層部に出されたそれの内容を誠が知らなければ問題になることくらい誠にも分かった。


 うろたえている誠の隣まで来た帰り支度のランはほほ笑みながら彼の肩を叩いた。


「心配すんじゃねーよ。オメーは所詮下士官の下っ端だからな。アタシ等が全責任を負うって言ってんだから、気にすんな」


 8歳女児のようなちっちゃな顔に笑みを浮かべるとランは部屋を出て行った。


「本当に……いいんですか?」


 誠は部隊長、嵯峨惟基の姪に当たるかなめに目を向けた。


「いいんだよ、それが軍事警察ってもんだ。政治家のヤバい案件とか……一兵卒の関知するところじゃねえだろ?全責任は叔父貴が取るって言ってるんだから……安心しろよ」


 そう言って笑うかなめを見ながら、誠はしょうがないというように目の前のモニターの電源を落とした。

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