20話:mission unkossible 後編

(学校の場所は知ってたとはいえ、ここはクソでかいからなぁ。まさか、裏手にあるコレが魔物宿舎だったとは……)


 博物館に迷い込み、脱獄を阻止し、強盗犯を叩きのめしながらマンティコアを探すこと数時間。

 助けた店員さんから情報を聞き出した俺は、ついにマンティコアが確実に飼われている場所、魔物使いの学校にたどり着いたのだ。


 本校に負けず劣らずの巨大さを誇るその建物は、大きさ以外はいたって普通の建造物に見える。


「キョェェェ……」「ゴウゥゥゥ……!」「……っジュル、ジュルルル」

(うひーっ、なんか聞いたことない声がするんですけど)


 しかし、気を抜いてはいけない。

 この国1番の魔物宿舎であるここは、あらゆる魔物が巣食っている魔窟に等しい。

 さっきから屋根伝いに聞こえてくるおっそろしい唸り声に、背筋がゾクゾクする。


(で、でも怖がってる場合じゃない! そろそろ時間にも余裕が無いし、早くマンティコアが居るところを見つけないと!)


 そう、俺にはもう時間もない。

 ここを見つけるまでにかかった時間もそうだが、魔物宿舎でマンティコアを見つける時間も、どれくらいかかるか見当がつかない。

 俺は恐怖を押さえて、侵入しやすい窓がないか、屋根の端から覗き込む。


(見たところ頑丈そう、ってだけの建物だ。これならどこから入っても……あっ)


 ジロジロと建物の壁面を眺めていると、魔法陣を発見した。

 普段からマジックアイテムを作ってる身であるからにして魔法陣には目聡く気付ける俺である、当然、一目見ただけでその魔法陣が何のために描かれたものなのかも看破できる。


(基本は音魔法だな、服従の首輪が付いた生き物が魔法陣に触れたら、首輪が魔法陣に魔力を流して音が出る……ってことは、魔物が逃げ出した時の警報か)


 流石魔物を飼育している場所、万が一の緊急事態にもすぐ気づけるように対策はしてあるらしい。

 とはいえ、逃したくないなら結界魔法で閉じ込めた方がいい気がするが……まあ、魔法使いの国じゃないし、そこまで出来なかったんだろう。


(そうだ、俺も首輪してるんだった)


 レナータちゃんのお部屋にいるときは外されているものの、今回のミッションに当たってわざわざ首輪を着けていたことを思い出す。

 危ない危ない、危うく侵入と同時に警報を鳴らすとこである。


 ガチャガチャ、と爪で服従の首輪を外して着ぐるみの中に収納する。

 この首輪の解析もとうの昔に済ませている、この首輪が効力を発揮するのは、装着している時だけだ。

 こうして外してしまえばただの首輪、魔法陣の上を通っても警報を鳴らすことはない。


(よし、いこう!)


 こうして準備を済ませ、俺は窓から宿舎へと侵入するのであった。



(うわっ、うわーっ!? すっげえ! ここすっげえ!?)


 そうして魔物宿舎へと潜入した俺であったが、キラキラと瞳を輝かせてあちこちを見回していた。

 マンティコアを熱心に探している……と言うわけではない、いや、本当はそうしないといけないんだけど。


(すげー! カーバンクルだっ!)

「き、キュピーっ!?」


 黄金色の体毛に赤く輝く石を額につけたゴージャスな魔物、カーバンクル。

 猫とも、うさぎとも、犬のどれにも当てはまらない不思議な姿をした可愛らしい生物、あえてあげるなら……全て合体させたら近い生き物ができそうな感じか。

 その可愛らしさ、額の宝石の価値の高さから乱獲され、数を減らしてしまった幻の魔物である。


(うわーっ、あの宝石、魔力を無尽蔵にため込めるんだよなー! 加工してぇー、アレがあれば実現不可能なマジックアイテムだって作れるっつのにー!)

「キュ、キュウウゥゥ……」


 もちろん、俺はマジックアイテムの素材としてよだれダラッダラである。

 カーバンクルが飼われている檻にむしゃぶりつかんばかりに接近し、いいなーマジックアイテムに加工してーなと眺めてしまった。


(うおーっ! こっちもヤベェ! バジリコックだっ!)

「コケーッ!?」


 また別の檻には、ごく普通の鶏に、尻尾部分に蛇の頭が生えた珍妙な魔物、バジリコック。

 貴重さで言えばカーバンクルに劣るものの、こいつはその尻尾に秘めた石化毒、そして鶏の方の瞳から石化光線を発射させる超危険魔物だ。

 こんな奴まで飼育してるとは、流石魔物使いの国。


(こいつを解剖して、瞳と毒腺を分析できたらなー。未だ人類が成し遂げていない、石化魔法とか開発できるのになー!)

「コケケケケ……!?」


 ああ解剖したい、その羽一本残らずマジックアイテムに加工してやりたい……!


(おいおいおい! これクラーケンだよな!? こ、こんなサイズの水槽まで用意してあるのかこの国は、まるで湖じゃないか!?)

「……」


 サイズにして軽く10メートルは超える巨大イカ、クラーケン。

 広々とした空間に出たと思ったら、湖の中に巨大な触手が揺らめくのを見てしまった。

 船乗りの間で伝説になるレベルの魔物だ、伝説すぎて、俺がどんなマジックアイテムにできるのか想像すらできないほどに。


(さ、流石にこれは近寄らんとこ……下手するとこっちが引き込まれて食べられちゃいそう)


 しかしうーん、イカ、イカか。

 水棲系の魔物を使ったマジックアイテムなんて今まで考えたことなかったなー。

 ブヨブヨの皮膚に魔法陣が書き込めるか分からないけど、一考の価値はあるに違いない!



(って、そうじゃなぁぁぁぁい!!! 何普通に観光してるんだ俺っ! )


 あっちこっちと見たいところを見て回って、思いっきり頭を抱えて後悔タイムである。

 そうじゃない、そうじゃないんだ。

 子供みたいに目を輝かせ、魔物を見学しに来たんじゃないのだ。


(マンティコアがいる場所を探さないといけないのにー! 分かってたけど広すぎてどこかわかんないし! 良いマジックアイテムになりそうな奴ばっかり飼育されてるから目移りするし!)


 しかも外見がマンティコアのままだから、檻の中にいる魔物たちを無駄に怖がらせてしまってる。

 クラーケン以外の魔物たちはみんな檻越しに怯えきっていた、あれで騒ぎを察知して人が来なかったのは奇跡だろう。


 こうしてるうちに時間はドンドン過ぎていく。

 くそぅ、マンティコアが飼育されているのはどこなんだ?

 どこか見取り図でもあればすぐにわかるのに……!

 いちいち宿舎を回って確認する時間はもうないんだ、考えろ、考えろ俺!


(あれだけ珍しい魔物たちがいたんだ、マンティコアだっていても可笑しくない。――そうだ、魔物たちだ。カーバンクルもバジリコックもクラーケンも、飼育環境がしっかり整えてあった。それなら!)


 今まで見て回った魔物たちを思い出す。

 カーバンクルの檻は、草や木が生い茂っていた。

 バジリコックは岩だらけの暗い洞窟みたいな環境。

 クラーケンに至っては湖と見まごうほどの巨大プール。

 それなら、密林に住んでるマンティコアは、カーバンクルの檻の近くにいるかもしれない!

 

 早速カーバンクルがいた場所まで戻る。

 多分、予想は当たってるはずだ、この宿舎は魔物の住んでる場所にエリア分けしている気がする。



 カーバンクルの檻に戻るまで、幸いにも人と鉢合わせることはなかった。

 辺りを見回すとどの檻も植物が生い茂っている。

 予想通り、この周辺には森林に生息する魔物たちが集中して飼育されてるらしい。


(えーっと、こいつは森オオカマキリ、幻惑ツノジカ……)


 どれもマンティコアと同じ地域に住む魔物だ。

 いいぞ、近づいてる気がする。

 こうして周辺を巡っていると――――


(―――あった!)


 ついに見つけた「マンティコア」の文字盤。

 他の魔物たちより大きめの檻が、4部屋分ほど並んでいる。

 この檻1つにつき1頭のマンティコアを飼育しているようだ。

 つまりマンティコアは最大4匹、ウ○コも最大4個手に入る可能性がある!

 ……ウ○コは4個もいらないなあ。


(さっそく中に入ろう! ラフ、ラム、この身をボード望む場所へプレゼスポート


 転移魔法を唱えて、難なく檻の中へと侵入する。

 マンティコアが用を足している砂場はどこにある?

 草木をかき分けて、中を探索しようとする俺だったが――――


 ぞくり、と背筋を走る怖気に体が固まった。


「ガ、ァ」


 震えた声が、思わず口から洩れる。

 最初にティコの死骸を一目見た時以来、いや、その時以上に本能が警鐘を鳴らす。


 (居る、よな。そりゃそうだよ。ここで飼育されてるんだから、当たり前だ)


 視界にその姿はない、だが確実に近くにいる。

 例えばそう、ちょうど目の前にある大木の上に。


「ゴルルルルルゥゥゥ……!!!」


 居た。

 輝く眼が憤怒の光を携えて、俺を睨み付けている。

 深紅の魔獣マンティコアが住処を荒らす者を抹殺するべく、頭上で牙を剥いていた。


(こ、怖っ、いや落ち着け。ひとまず、ゆっくり下がろう)


 初めて目にする、生きた本物のマンティコア。

 迫力は死体だったティコとは比べ物にならない。

 巨体で木に上ることができる身体能力、それを可能にする四肢は太くたくましい。

 足先に生える爪はまるでナイフだ、しかもナイフより遥かに切れ味は鋭そう。

 極め付けにはむき出しにしているあの牙、あの大顎に噛みつかれればどんな生物だろうと食い破られてしまうだろう。


 俺とて同じ姿をしているが、あちらは純度100パーセントのマンティコアである、恐ろしさでいえば段違いだ。

 しかも、今の状況……頭上を取られている状態は既に先手を取られているも同然だ、ここは速やかに引くべきである。

 

(でも、引いてどうする。用があるのはコイツのウ○コであってコイツじゃない、だけどこうも威嚇されたら探すのも――あっ!)


 後ろに引きつつどうするか思案していると、大木の奥に砂場が見えた。

 間違いない! 砂浴び兼トイレ用の砂場だ!

 でもあんな場所にあるんじゃ……。


「グルルルル……!」


 俺が後ろを引くのを見て、向こうのマンティコアは大木から飛び降りてきた。

 ぶわさっ、と翼を広げて着地する姿には威厳すら感じられる。

 っと、見とれている場合ではない。

 あの砂場までの道を完全に塞がれてしまっている、非常にまずいことになってしまった。


(あそこまで侵入は……とても無事じゃすまないかも)


 大木から降りてきたものの、依然として向こうは威嚇を続けている。

 どいてくれそうな雰囲気じゃない、これ以上一歩も踏み込むことも許してくれなさそうだ。

 こ、こうなったら、無理やりにでも通るしかないのか……!?


(やるしかないのか、本物のマンティコアと)


 この着ぐるみマンティコアくんは、俺が作ったマジックアイテムの中でも最高傑作。

 スペックは生前のティコと全く同じ、目の前のマンティコアにだって引けは取らない……はずだ。

 

 身体能力は互角と考えて、中の俺が魔法を使えばどうにかなるかもしれない。

 よし、腕力で暴れられないように牽制して、魔法で縛り付けて完全に動けなくしてやる。


「ガフ、ガウ――」(ラフ、ラム――)


 魔法を詠唱しながら両手を広げ、相手に抱きつくつもりで突っ込む。

 しかしその戦略は、余りにも安直で、遅すぎた。


「シャァッッ!!!」

「――ガッ……!?」(――ひっ……!?)


 一歩を踏み出した直後だった。

 宿舎のマンティコアは、突如つばさを広げ、鋭く咆哮する。

 行為としては唯それだけだったのだ。

 それだけで、怯んでしまったのだ。

 目の前のマンティコアが、倍以上の大きさに錯覚するほどの恐怖を、叩きつけられた。


 そして魔法の詠唱を中断するという醜態を晒した一瞬のうちに。


 ヴゥンッ……! という風切り音と、横っ面に拳をぶち当てられた。


「ッガ……ァ」


 目の前が見えない。

 痛みを感じるより先に、意識が闇に沈んだのだ。


 何のこともない、向こうからすればほんの牽制程度の一撃だっただろう。

 しかしその衝撃は、着ぐるみに傷こそつけられなくとも、中にいる俺の頭を、筋肉代わりに詰め込んだ結界魔法をいともたやすくぶち抜いて、揺らした。


(――――着用者の意識消失を確認。強制覚醒を行います)


 意識が薄れる最中、頭の中で感情の読み取れない音声が鳴り響く。

 着ぐるみマンティコアくんに仕込んだ魔法陣の一つで、睡眠時以外で気絶してしまった場合に、電撃魔法でショックを与えてくれるものだ。

 バヂチ! と鋭く、重い衝撃が背中に走る。


(っくはぁ!? な、なんてネコパンチだっ……!?)


 無理やり覚醒し、戦慄する。

 崩れかけた体を立て直して、距離を離そう――――


「グ オ オ ッ!!!」


 ―――そう、思考を巡らしていた時には既に奴の狩りは終わっていた。

 俺が意識を失いかけた一瞬は、宿舎のマンティコアが飛びかかるには十分すぎる時間だった。

 マンティコアの巨体が、剛腕が、咢が、もうすぐそこまで迫っていて。


「ガッ、ア!?」


 俺はあっという間に組み倒され、喉笛に牙を突き立てたれてしまったのである。



「かっ、ハッ……ア」(くる、し……!)


 牙は着ぐるみマンティコアくんの皮を突き破ることはなかった、俺の首まで牙が達していれば、あっという間に食いちぎられて出血多量で死んでいたかもしれない。

 しかし食いちぎられなくとも、マンティコアの咬筋力が俺の気道をギリギリと締め上げていく。


 目一杯暴れようにも、宿舎のマンティコアは俺のマウントを取っていて、手足を完全に押さえつけてしまっていた。


(まず……い!)


 動けない、息もできない。

 このままじゃ、死ぬ。


 今更ながら、俺は後悔した。

 本物のマンティコアを完全に舐めきっていた。

 着ぐるみマンティコアはパワーもスピードも再現できる、だから本物相手でも勝負になる筈。


 あまりにも、見当違いだった。

 パワーの扱いも、スピードの活かし方も、そして狩りで発揮される本能からの戦術も、俺を遥かに上回っていた。

 魔獣マンティコアとして生きてきた年季が、俺とこいつの間に絶対的な壁として立ちはだかっていたのだ。


「ウウウウウウ」

「ヒュー……っ、ハッ……!」


 息ができない以上、口から魔法を詠唱することができない。

 頭に酸素が足りない、頭の中で詠唱することも難しい。

 本当にダメかもしれない。


 首に喰らいつく宿舎のマンティコア、それが俺の見る最期の光景になってしまうのか……。



(こ、れは……!?)


 朦朧とする意識の中、俺はあるもののを見つける。

 宿舎のマンティコアが身につけているそれを。


(腕を……「ひきぬいて」……)


 ずぽっ、と俺は着ぐるみに通している腕を、なんとか抜き出した。

 着ぐるみの手足はうごかせなくても、俺本来の腕はまだ動いてくれる。


(と、届けっ……!!!)

「ウウ――ウグッ!?」


 着ぐるみの口部分から両手を突き出し、宿舎のマンティコアにむかって伸ばす。

 宿舎のマンティコアは一瞬だが驚きで身を固めている。

 そりゃそうだ、同族かと思っていたやつの口から、人間の手が伸びてきたんだから。


 お陰で、「それ」に触れることができる。


(服従の首輪! 発、動っ!!!)


 宿舎のマンティコアが首につけている、「服従の首輪」に。


「――飼い主への攻撃を確認、お仕置きモードにはいります」

「ガッ……ピギャアアアアアアア!!?」


 無感情な音声が首輪から発せられて、宿舎のマンティコアは悲鳴をあげながらのたうち回りだした。

 あれは服従の首輪から発生するお仕置き魔法によって、耐え難い苦痛を味わっているのだ。


 ちなみに今執行されてるのは幻覚魔法の一種で、強制味覚刺激ゲキニガの刑である、何も食べてないのに口の中で広がる苦味が、宿舎のマンティコアを苦しめているのだ


 服従の首輪はすでに解析している。

 それがマジックアイテムなら、触れさえすれば意のままに発動させる事は容易かった。


「ぷはぁっ!? はぁ、はぁ……危なかった」


 噛みつきから解放されて、思いっきり息を吸う。

 声変換の魔法陣すら発動するのも惜しいほど、息を吸うのに集中したかった。

 本当にあぶなかった、あと少しで死んでしまうところだったよ。


 それでも、紙一重で俺が勝利した。

 たとえマンティコアとして負けていても、魔法使いとしてなら勝つことはできるのだ。


「オォォオォオオオオ!!?」

「はっ、そ、そうだ。ウ○コ、ウ○コは……!」


 宿舎のマンティコアは、もう襲いかかってくることはないだろう。

 未だに悶えているヤツをその場に放置して、俺は住処の奥、トイレとして使っているだろう砂場へと急ぐ。


「あ、あった、あったぞ!」


 砂場から漂う芳しいかほり。

 巨大で黒々としたマンティコアのウ○コが、そこにはあった。


「よし、はやくコレをもって帰ろ……う……」


 早速ブツを結界魔法でラッピングして持ち帰ろうとしたが、あることに思い当たった。


(……毎度毎度、ここからウ○コを盗むのか?)


 たしかにこのウ○コを持ち帰れば、一旦はレナータちゃんの目を誤魔化すことは出来るだろう。

 しかしそれも一時的だ、排泄とは毎日行うものであり、それを忠実に守るなら、毎日ウ○コを供給し続ける必要がある。


 俺は、このウ○コを手にするまでに通った苦難を思い出す。

 今こうして、誰にも見つからずにいることすら奇跡なのに、コレを毎日繰り返せと?

 無理だ、絶対に失敗する日がきてしまうだろう。


(……ここに、魔法陣を仕込もう。転移魔法と空間魔法、あと時間魔法を組み合わせれば、好きな時に好きな場所へウ○コを転移できる)


 大きな紙を取り出して、俺は魔法陣を書き込む。

 この砂場の真下に魔法陣を書いた紙を埋め込めば、上に置かれたウ○コを転移させることができる。


 具体的に魔法の内容を説明すると、この魔法陣の上にのったウ○コは、一度空間魔法で作られた異空間に飛ばされてストックされる。

 あとはレナータちゃんの部屋にある砂場に出口となる魔法陣を仕込めば、任意の時間にストックしたウ○コを出すことができるのだ。


 ただし、魔法陣を使ったやり方にも限界がある。

 毎日、このマンティコアのウ○コを盗み続ければ、今度はこいつが便秘だと勘違いされてしまうだろう。


(「マンティコアの檻は全部で4つ」その全部の砂場に魔法陣を仕込めば、1匹のマンティコアにたいしてウ○コを盗む頻度は4日に1度になる)


 これなら誰にも不自然には思われないだろう。


 「あと3回もマンティコアの檻に侵入しなければならない」ことを除けば、何も問題はない。


(やってやる……! ああやってやるさ! こんなところで犯罪者になってたまるか!)


 今のように、服従の首輪を利用すればできないことはないはずだ!

 残るマンティコアの檻は3つ。

 その全ての砂場に魔法陣を刻み込むべく、俺は絶望の中へと飛び込んでいくのであった。




 そして、翌朝……。


「……ん、ふわあっ」


 レナータはいつも通りの時間に目覚める。

 朝早く起きて、1番に相棒の世話を始めるのが彼女の日課であった。


「あれ? 私、昨日はソファで寝てたのに……」


 ふと、自分が目覚めた場所に疑問を抱く。

 最近はティコの調子が悪いようなので、自分が一緒に寝ているようにしていたはずなのだが、目覚めた場所はベッドの上であった。

 それに、不安でよく眠れなかったはずなのに、不思議と今日はよく眠れた気もする。


 ……もっとも、それがダグラスによる睡眠魔法の効力であることは彼女の知る由ではないのだが。


「ティコが運んでくれたのかな。……そうだ、ティコは?」


 ソファには相棒の姿はない。

 最近のお気に入りの場所に居ないことに、少しだけ不安になる。


 しかし、その不安もすぐに吹き飛ぶ事になった。


「――あっ!」


 ティコは砂場にいた。

 砂場の上で、疲れ切った様子で眠りこけていたのだ。


 レナータの頰が思わず緩む。

 安堵もあるが、それ以上に喜ぶべき事柄がティコの近くにあった。


「ティコ、よかった……! 頑張ったんだねっ……!」

「グゥゥゥ……」


 ティコの近くにあった、出来立てホヤホヤのウ○コ。

 柔らかすぎることもなく、液状になっていることもなく、しっかりとした形を保った排泄物。

 文句なしの、健康なウ○コそのものであった。


「よかったよう……!」

「ガァァァ……」


 満面の笑みでティコを抱きしめるレナータ。

 惜しむらくは、美少女に抱きしめられていることを、疲れ果てた中のダグラスは知ることができなかったことだろうか。


 mission unkossibleこれにて、ミッションコンプリート!

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