4話:悪事の片棒を担いでみよう
「死の偽装って……ティコがまだ生きてるように見せかけてほしいってことですか?」
「そう、その通りだ」
依頼の内容を聞いて、この部屋に入る前のギュンター卿の言葉を思い出した。
なるほど、死者蘇生とか死体処理とかっていうのは、このティコの死体をどうにかしてもらいたいということだったのか。
しかし、死体を偽装か……。
「ギュンター卿、お言葉ですが、死体を生きているように動かすなら、高位のネクロマンサーに依頼した方が確実だと思うんですけど……」
恐る恐る提案する。
ネクロマンサーとは、魔法使いの中でも死体を操る術に特化した者たちだ。
俗に死霊術師とよばれる彼らは、死体を生前と全く変わらない状態まで再生させ、意のままに動かすことができるのである。
俺もこの術はできなくはないけれど、専攻して学んだわけではないから専門家には劣ってしまう。
「いいや、ネクロマンサーではこの問題に対処はできないのだよ……」
「と、いいますと?」
はあ……とため息をつくギュンター卿。
どうやらもっと複雑な事情があるらしい。
「問題というのは、娘の方に起きていてね。レナータはティコを含めて三匹の魔物をを全て死なせてしまった。だから、国の法律によって学校を退学しなければならないんだ……」
「退学ですか……。つまり、そうならないようにするには」
「そう、幸いにもティコの具合が悪くなった時に私が一時的に引き取ったおかげで、ティコが死んだ事を知っているのは私と医者しかいない。もちろんレナータもこのことは知らない。だから、ティコの死を偽装することさえできれば、何も問題はなかったことになる」
最初に想像していたものとは違うものの、確かにこれはヤバイ依頼である。
魔物使いの国の法律をすり抜けるための、死体偽装。
もしバレてしまえば、確実に罪に問われるだろう。
「それで、ネクロマンサーに依頼が出せなかったんですね。正規のギルドじゃあ取り扱ってもらえないでしょうし」
「その通りだ。それに、もう一つ技術的な問題もある」
「技術的な?」
「ああ、ティコの死を偽装した上で。ティコにはこれからも「いつも通りの日常を送ってもらわなければいけない」からだ。四六時中ネクロマンサーが操ることは不可能だろう?」
言われてみれば確かにそうだ。
いくらネクロマンサーでも、死体を操ったりするのに魔力を使う。
いくら魔力量が高くても、一日中魔法を使いっぱなしでは体が持たないだろう。
それに、死霊魔術を使うために常にネクロマンサーがティコのそばに居続けることにもなってしまう。
依頼の内容をまとめてみると、こうだ。
・マンティコアの死体を、生きているように見せかける
・死を偽造した上で、長期間その状態を維持し続ける
・術者が姿を見せるなど、偽装がバレそうな要素を排除する
「確かに厳しいですね。バレた時のリスクも大きい」
「ダグラス君にも、ケイさんにも、お礼ならいくらでもする。 どうか、私と娘を助けてはもらえないだろうか……!」
「ギュンター卿! あ、頭をあげてください! だ、ダグラス、正直父さんもここまで深刻な話とは思ってなかったけど実際はどうなんだい!?」
ギュンター卿が頭を深々と下げて、父さんは大慌てしている。
内心は罪悪感でいっぱいなのだろう、ギュンター卿の声には余裕がなかった。
父さんも犯罪に関わるとは思わなかったのだろう、恩人に報いたいが、同時に恐れが顔に出ている。
そんな二人を前にして俺はというと……。
(マンティコアの死体偽装かぁ。つまり、最上位クラスの魔物の体を好き勝手に弄って良いってことだよな。条件は厳しいけど上手くやればお小遣いまでもらえるし……)
たいへん下種なことを考えてました。
いや、だって魔物の体って、色んな部位が質のいいマジックアイテムに加工できるんだよ。
例えばドラゴンの爪とか牙なんかは、それ自体が魔力を蓄えているお陰で魔力がない人間でも魔法を扱える杖なんかになったりするし。
ましてやマンティコアなんてドラゴンより希少な魔物だ、さぞかし良いマジックアイテムに加工できるに違いない!
魔法使いとしては法を犯してでも引き受けたい、あわよくば死骸からマジックアイテムを……?
「……くふ、くっひっひっひ。 正直言って、たった今ぴきーんときちゃいました! いいでしょう! マンティコアの死体偽装、ちょちょいとやらせていただきましょう!」
マンティコアの死体を前に、あれこれマジックアイテムを作る算段を考えていると、頭の中で何かがはじけるような感覚が迸った。
そう、まさに天啓ともいえるアイディアが舞い降りたのであった。
後に、俺はこの天啓とは名ばかりの悪魔的アイディアに生涯後悔する事となる。
つい、衝動的に、考えなしに、あんなことするんじゃあなかったと……。
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