3話:問題のブツ

「問題のものはこの先にある」


ギュンター卿に案内されて到着したのは、地下倉庫と思わしき場所だった。

入口の扉には厳重な鍵がかけられていて、更に魔法で固く封じられている。


「中に入る前に、ダグラス君も中にあるものについては一切他言無用としてもらいたい。扉をくぐった瞬間、自動的に契約の魔法が成立するようになっているから口にしたくともできなくなるがね」

「そこまで重要なものなんですね……」


呪いじみた契約魔法を使ってまで隠すほどとは、随分とお金をかけている。

なんだか緊張してきたぞ……そんなトップシークレットに俺が関わっていいものなのか?


「さあ、入りたまえ」


全ての鍵が解かれて、ゴゴゴ……と扉が勝手に開いていく。

恐る恐る中へ入っていくと、開けた場所にでて、その中心には……


「これは……!」


ゾワリと背筋に悪寒が走る感覚がして、思わず身構えた。

部屋の中心にいるソレに、本能的な危険を感じ取ったのだ。


端的に表現するなら、それは大の大人ほどの大きさを誇る怪物。

炎のように赤く立派なたてがみに、人の胴以上の太さだろう強靭な四肢が、見るものを威圧して萎縮させる。

その尻尾は節くれていて、先端にはサソリのように鋭い毒針がぎらりと生えている。

背中には大きな翼が一対あって、どこまで逃げようともソイツの餌食になるという、絶望感を敵対者に与えるだろう。

ソイツは密林に住む絶対的強者、その赤い双眸をみて生きて帰ったものはいないと言われる、魔獣……。


「マンティコア……の、死体!?」


世にも珍しいマンティコアが、死んでいた。



「ああ、この子はマンティコアの「ティコ」という。つい三日ほど前に死んだばかりだ」


ギュンター卿が苦々しい表情でマンティコア……ティコを見つめている。


「ティコって、このマンティコア、ギュンター卿が飼っていたんですか!?」


この世界には魔物と呼ばれる、人間とは違う生物が存在している。

ドラゴンからスライムまで幅広い種類が存在していて、それらは時に人間に害を及ぼしたり、高い知能をもって友好を築いたりしているのだ。

その中でもマンティコアはトップクラスに危険な魔物である。


「いや、私ではない。この子は私の娘が学校で飼育していたんだ」


娘さんが!?

しかも学校で飼育ってもしかして……。


「ギュンター卿の娘さんは、魔物使いの国の学生なんだよ」

「な、なるほど……」


父さんが補足してくれたので、理解ができた。

この世界には、あっちこっちに人間の国があって、それぞれ特徴的な技術を持って発展してきた。

魔物使いの国はその名の通り、魔物を使役する術をつかって発展してきた国である。

ちなみに俺は魔法使いの国出身である。

その名の通り魔法で発展してきた国だ。


「いやそれでもマンティコアって、めちゃくちゃ凶暴だったような」


まだ学生の身でそんな危険な魔物を育てているということは、ギュンター卿の娘さんは相当優秀な学生に違いないだろう。


「私が言うのもなんだが、娘のレナータは優秀でね。ティコ以外にもあと二匹、魔物を育成していたんだ」


ギュンター卿が誇らしげに語るものの、その顔はすぐに暗くなる。


「……その二匹も、数週間前に死んでしまったのだがね」

「偶然にしては、あまりにも不自然ですね……」


優秀な魔物使いが、立て続けに魔物を死なせる、それも三匹も。

レナータ嬢のことは知らないけれど、ギュンター卿の娘さんだけあって、手違いで死なせてしまうとはとても思えなかった。

もしかして、毒殺でもされたのではないだろうか。


「たしかに不自然だった。けれど腕のいい医者に診てもらっても、原因がわからずじまいでね……」


なるほど、だんだん読めてきたぞ。

つまり、今回ギュンター卿が俺に依頼するのは。


「わかりました、ギュンター卿は俺にモンスターの死因を調べて欲しいということですね?」

「あ、違う違う。そうじゃないんだ」


あれ、違った?

なんか流れ的にそんな気がしたんだけど。


「勘違いさせてすまない。確かにティコに関係してることだけど、ダグラス君には別の事をやってもらいたかったんだ」

「別の事?」


そう言うと、ギュンター卿はティコの亡骸を指差して……。


「ティコの死を、周囲にバレないように偽装することはできないかな?」

「偽装ですか?」


俺に、ティコの死を偽装できるか、聞いてきたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る