2話:恩人からのお願い
「さて到着と。すすめるくんも無事機能したな」
「ひぃぃ〜。……は、半分じゃないよね?」
「なってない、なってない」
怯える父さんと一緒に移動した先は家よりも遥かにお金持ちそうな、高貴さ溢れる部屋だった。
まず床が大理石だったり、高そうな肖像画とか壺とか、こった装飾のテーブルやら……とにかく、ウチの父さんの部屋なんかよりずっとピカピカしてる。
「おお……! ケイさん、戻られたのですね」
そしてこの部屋の主らしき男性が俺たちを歓迎してくれていた。
ちなみにケイは父さんの名前である。
「はは、息子のお陰でこの通り、あっという間でした」
「ではそちらが、ご子息の」
「ええ、ダグラスです。ほらダグラス、ギュンター卿に挨拶しなさい」
目の前の男性はギュンター卿というらしい。
浅黒い肌に赤い瞳が特徴的な、銀髪のダンディズム溢れる美おじさまだ。
ひょろひょろな父さんとは大違いである。
「え、えっとお初にかかります……、ギュンター卿。私はダグラス・ユビキタスと申します、この度は父を通してご依頼があると伺いましたので参上いたしました」
「ダグラス君。そこまで畏まらなくていいよ、私とケイさんは古い友人同士だからね」
いかん、身内以外の人間と会話するのが久しぶりすぎて緊張してしまう。
と、ここでなにがが引っかかる感覚が。
はて、ギュンター卿、どこかで聞いたような……。
「つ、つかぬ事をお聞きしますが。もしかして、ギュンター卿って、いつぞや商会が潰れかかった時にお世話になった……?」
「はは、たまたま巡り合わせが良かっただけだよ。私の仕事に必要な商品を、ちょうどよく君のお父様は大量に持っていたというだけの話さ」
やっぱりだ、昔父さんに聞かされたことがある。
父さんが若い頃、商会ギルドがなんとか軌道に乗っていた時期に大失敗しかけたことがあった。
これは売れると予測して大量に仕入れた商品が、当時の魔法使いの国では全く売れなくて、ギルドが潰れる一歩手前まで追い込まれたらしい。
それでも父さんはなんとか商品を売ろうと遠い国まで移動して、その商品を買ってくれた貴族の名前がギュンター卿だって……。
「本当にあの時は助かりました。おかげさまで商会も今日まで存続していますし……」
「ケイさん、もういいんだって。会う度にお礼ばかりされては私もこそばゆい。それに、今回は私が助けてもらう立場だからね」
父さんがペコペコと頭を下げるも、ギュンター卿は恥ずかしそうにそれを制止する。
生まれていなかった頃とはいえ、恩人からの依頼とあれば俺も断る気分にはなれない。
「では、二人ともついて来てくれ。依頼の事で見てもらいたいものがあるんだ」
ギュンター卿に案内されて、お屋敷を歩いていく。
途中で階段を3回ほど降りたのだが、どれだけ広いのだろうか。
そこからさらに、地下へ通じる扉も潜ったりした。
どうやらギュンター卿のお屋敷内でもあまり知られたくないものが、今回の依頼に関係しているようだ。
「あのー、ギュンター卿。今回の依頼って、いったいどんな内容なんでしょうか?」
コツン、コツン、コツン、とひたすら3人で地下への階段を降りるだけの空気に耐えられなかったので、気晴らしに依頼について聞いてみる。
流石にこの空間で聞き耳を立てるような奴はいないだろう。
「ああ、すまなかったね。できれば「実物」を見てもらってからと考えていたのだが、そうだな……ヒントぐらいなら話そうか」
今回の依頼はよほど内密にしなければいけないのだろうか。
ただ、流石にここまで来て話さないというのも気まずいようだ。
「君は………死体の偽装とか、経験したことはあるかな?」
「ちょっとまって思いっきりヤバイくないですかー!?」
こんな薄暗い地下まできて、もしやとは思ってましたけど!?
え? 本当に死体処理的なあれなんですか!? こう貴族間の後ろ暗い抗争的な奴に関わらないといけないんですかー!?
「だ、大丈夫だよダグラス。 ギュンター卿も人が悪いなあ。そんな危険な仕事じゃなかったでしょう?」
「はっはっは、たしかに言い方が悪かった。うーん、なら…………死者蘇生とかなら、経験あるかな?」
「ますますヤバイじゃないですかー!?」
そんな成功不可能な禁術中の禁術を使う依頼なの!? 俺もう帰っていいですか!?
内心戦々恐々としながら、今更帰るわけにもいかず地下へと連行されていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます