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 生きられない時期があった。

 どこを回っても原因不明で。立ち上がることもできず、眠ることもできず。ただただ、何もせずに日々を過ごす。そんな感じだった。結局、何かの研究に使わせてほしいと言われて毎日腕時計みたいなのでバイタルを測ってどこかに送信するだけで日々を生活していた。消費カロリーがどうこうと言っていたけど、たしかに1日1食ほんの少し何かを食べるだけで生きていた。

 そうやって、ずっと何もせず、ただ生きていた。というか、しんでいた。眠ることもなく。かといって起きているわけでもなく。

 そんな日々のなかで、夜中。そう。あれは、夜。窓の外。ひとりぼっちで歩く彼に、惹かれた。同じひとがいると思った。まるで、わたしみたいに。いきているけど、しんでいる。そこに存在していない。

 彼のことが知りたくなって。彼に会いたくなって。少しだけ、立って動いた。そうしたら、学校に行かせてもらえることになった。先生は研究員の人がやってくれているから、いつもペアになるときにわたしと組んでくれたり、何か変化があったら対応してくれる。こどもたちのなかにひとりだけ大人の自分がいても、まったく浮かない。研究員の人が凄いんだなと、なんとなく思う。わたしは何もしてない。

 彼の気を引きたくて、しゃがんでお酒を呑んだ。そうしたら彼が声をかけてくれて。


 初めて会ったのも、こんな感じの仕事帰りだった。

 道端にしゃがんで、彼女は酒を呑んでいて。仕事柄通報するかどうか迷ったのを覚えている。


「どうしたの。急に嬉しそうにして」


「いや」


「そっか。話したくなったら聞かせて」


 彼。あまり迷わなかった。


「初めて会ったときのことを考えていた」


「あ、ああ。そこで酒呑んでたんだっけわたし」


 実はあんまり覚えてないです。


「言ってやったんだよね。わたしは成人ですっ。人より遅れているだけですっ、て」


 そのあとの記憶がないです。


「いきなりだったな」


「通報されたら面倒じゃん。何もわるいことしてないのに」


「そうだな」


 彼は、いつもこんな感じ。暗いけど、そのなかに、大きな何か、暖かい何かがある。そしてそれが、暗さのなかで見え隠れする。


「楽しいか、学校」


「うん。たのしい」


 せいいっぱいの笑顔で、応える。たのしい。あなたのおかげで。


「友達はできたか」


「友達はできない」


 あなたに会うために外に出てるから。研究員の人は、もともと友達だし。


「作れよ。友達」


「今のところは、いらないかなあ。あなたひとりいれば別に」


「そういう問題じゃない。損得勘定で作れって話だよ。学生生活が円滑に進むぞ」


「いつも先生とペアだけど」


 先生と友達だって言ってしまおうか。


「あっ。いまばかにしたでしょ」


「してない」


「顔に出てるよ。違うもん。先生が見本とかを見せるためにわたしと組んでるってだけだもん」


「なら、そういうことにしておくよ」


 あなたのおかげで。わたしは生きてるの。あなたのとなりにいるから。言いたいけど、言えない言葉。

 そう。わたしは、いつまた、前のように動けない状態になるか分からないし。あなたのとなりに、いられないかもしれない。

 だから、いま。

 あなたのとなりにいる。せいいっぱいの笑顔で。明るく。あなたの暗さに、寄り添えるように。

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