第3話

 初めて会ったのも、こんな感じの仕事帰りだった。

 道端にしゃがんで、彼女は酒を呑んでいて。仕事柄通報するかどうか迷ったのを覚えている。


「どうしたの。急に嬉しそうにして」


「いや」


「そっか。話したくなったら聞かせて」


 あまり迷わなかった。


「初めて会ったときのことを考えていた」


「あ、ああ。そこで酒呑んでたんだっけわたし」


 こちらを見て、彼女は。


「言ってやったんだよね。わたしは成人ですっ。人より遅れているだけですっ、て」


「いきなりだったな」


「通報されたら面倒じゃん。何もわるいことしてないのに」


「そうだな」


 彼女は、口には出さないが、何かがあって学校に通っていなかった。そしてその日々を取り戻すために、いま、学校に行っている。

 仕事柄、その気になれば彼女の素性も隠していることも検索できるが、しなかった。もし不都合があれば官邸から連絡が来るだろう。


「楽しいか、学校」


「うん。たのしい」


 明るい。はつらつとしていて、周りがよく見えている。


「友達はできたか」


「友達はできない」


 明るそうに話す。


「作れよ。友達」


「今のところは、いらないかなあ。あなたひとりいれば別に」


「そういう問題じゃない。損得勘定で作れって話だよ。学生生活が円滑に進むぞ」


「いつも先生とペアだけど」


 ひとりだけ大人だから、か。


「あっ。いまばかにしたでしょ」


「してない」


「顔に出てるよ。違うもん。先生が見本とかを見せるためにわたしと組んでるってだけだもん」


「なら、そういうことにしておくよ」

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