Act:01-6 スパイス・ウィンド 1

 レストランでの業務はカールのおかげで何事も無く遂行していた。

 作業内容を細分化し、細かく指示をしてくれる。そのおかげでわたしでもなんとかできている。



 今日もまた、早朝から『仕込み』に参加。

 フライドチキンとコーヒーの準備を実施、忙しい午前が終わり、午後に移り変わろうとしていた。


 だが、今日はどこかいつもと違った。

 全員が緊張感を持ち、ストレスを抱えているように思える。

 おまけに、今日は全員が揃っていた。普段はカールか妹――ルカのどちらかが不在になることが多い。

 しかも、通常は店にいない父親――アントニオまでもが店内で配膳や雑用をしていた。


 時刻が午後に切り替わり、ランチを終えた客がぞろぞろと出て行くと、キッチンにいるカールとルカが貯蔵庫のある方へ向かっていった。


 ――妙だな……?


 妹のルカはキッチンと接客を兼任していた。キッチンにいる時は、カールの代わりに現場を指揮する立場だ

 キッチンから離れる際には、誰かがキッチンに留まっていたように思える。


 普段、母とカールかルカがキッチンで作業している。

 つまり、この3人の誰かが必ずキッチンにいるはずだった。 

 だが、今日は父のアントニオと母のモニカが店内の接客と清掃を行っている。朝からキッチン内での作業はカールとルカが実施していた。


 その2人がキッチンから離れて、貯蔵庫に入る。

 貯蔵庫の密閉はかなり完璧だ、中に入ってしまうとキッチンや店の外から一切干渉できないし、中の様子はわからない。

 もしかしたら、2人で秘匿したい内容の会話をしているのかもしれない――


 

 ――もしかして、わたしの素性が……?  



 妹のルカが偽装に気付いた可能性もある。

 初日から不自然な言動をしてしまっている以上、疑われても当然だ。

 それをカールと共有し、通報する計画を練っている可能性もある。


 もし、そうだとしたら――が必要になるだろう。


 キッチンに誰もいなくなってしまうと不審に思われるかもしれないが、それでも通報されるよりはマシだ。


 作業台から調理用のナイフを手に取り、逆手で持って背に隠す。

 そのまま貯蔵庫へ向かう。

 

 貯蔵庫の気密扉の前まで来たが、やはり中の音は聞こえない。

 中で密談していても、誰にもわからないだろう。

 


 ドアの開閉レバーに手を掛けようとした瞬間、レバーが勝手に動く。


 ――しまった!?


 ドアが開き、荷物が大量に積んだ台車が現れる。

 咄嗟に飛び退き、台車の前から離れた。

 

 すると、台車と共に怪訝な表情をしたカールとルカが貯蔵庫から出てくる。



「どうしたの、クロエ?」


 手には凶器を握り締め、指示をされてもいないのに持ち場から離れる。

 明らかに不審行動だ。

 これでは間違いなく通報されてしまう――!








「ダメだよー、包丁持って歩き回るのは」


 カールの後ろにいたルカがわたしの前に出てくる。

 そして、そっとわたしの手からナイフを奪った。

 


「アニキー、包丁持ったまま移動しないって指導した? ちゃんとしてよねー?」


「ごめん、クロエが調理台に立つ時は僕が傍にいるから大丈夫だと思ってた……」

「もー、そういうとこだよアニキ。そんなんだから、訓練もヘタッピなんだよ」


「うーん、もうしわけない……」



 ――どういうことなんだ……?


 刃物を持った人間がいたら、自分に敵意があると思うのが普通ではないのか?

 それとも、ここがレストランだからことが起こりえないと過信しているのだろうか。

 彼らがどう考えたのかわからないが、ともかく対処せずに済んだということだ。


 台車と共にキッチンに戻ってくると、2人は作業台に積んでいた荷物を移動させる。

 それは様々な植物らしき物体――彼らが言う『野菜』というものだった。

 植物の葉に調味液をかけた『サラダ』や、ポテトと呼ばれる丸い物をカットしてフライした『フライドポテト』は食べたことがある。

 しかし、調理台の上に置かれたものはそれらに使うような物には見えない――――と思ったが、一部はポテトの入った箱があった。




「しーけー、これは何だ?」


「あれ、言ってなかった? 今日はカレーの日だよ」



「……かれー」


「そうそう、カレー」



 ――なんだそれは?


 彼の言うものは、おそらく料理の名前なのだろう。

 この大量の野菜を使うもの、どんなものになるのか少しも想像できない。



「はぁ? アニキ、説明してなかったの?! 忙しくなる日だってのに」


「いやいや、昼前には伝えるつもりだったんだけど……」

「どうせ、自分の仕事に集中してて伝え忘れてたんでしょ。朝の仕込み前に伝達事項は共有するってルール決め、今から始めてもいいんだけど?」


「それやっても母さんと父さんは参加しないんじゃ、意味無いだろ」


 2人が言い争いを始めたので、作業台に置かれた箱を開封してみる。

 『野菜』と言われても、わたしにはその全容が想像できない。

 そもそも、植物プラントで育てるものが食用になるとは少しも思わなかった。


 わたしが知っている植物というのは、艦内環境を整備するためのバイオプラントしかない。酸素や水を作り出すための設備の1つだ。

 

 だが、ここにあるのはそうしたものとは大きく異なる。

 植物というよりは、その一部――もしくは本質そのものというような見た目をしている。

 

 白っぽくて丸い――ポテトはわかる。

 しかし、このオレンジ色で細長いものと茶色の丸いものはこれまで見たことが無かった。


 


「クロエさんには、アタシと一緒に野菜の加工やってもらうから」

 

 すぐ横にルカがやってきた。 

 そして、ポテトの入った箱を抱えて移動する。

 水道台のすぐ横の作業台に箱を降ろし、大きな鍋を水道台の中に設置。中に水を注ぎ始めた。


「最初はジャガイモの皮むきね」


「かわむき……?」

「まぁ、アニキは皮剥かない主義だけど、今日はアタシの仕切りだから」


 そう言って、ルカは調理用のナイフを手に取り、ポテトの表面に刃を当てる。

 そして、ポテトを回転させるとナイフの刃が表面を薄く削ぎ取っていき、外皮と思われる部分が水道台の中に落ちていく。

 ほんの数秒で、ポテトは丸裸になった。それを水道水が入った鍋の中に落とす。



「こんな感じ。最初はこれくらい薄くならなくてもいいから、ケガしないようにだけ注意してね」


 ルカが水道台に落ちた皮をわたしに見せる。

 それはロープのように繋がっていて、とても球体に近いものを削ってできたもののようには見えなかった。


 

「おい、食材で遊ぶなよ?」


「馬鹿言わないで、アニキよりはマシな遊び方してるわよ」


 

 わたしもナイフを用意し、ポテトを手に取る。

 思っていたよりも表面の凹凸が激しい。球状だと思っていたが、想像以上に皮むきというのは難しそうだ。


「時間掛かってもいいから、ゆっくりやっていいよ。遅くてもママみたいに怒らないから」


「わかった」


 彼女のやっていたように表面にナイフの刃を当てて、ポテトを回転させる。 

 しかし、彼女のやっていたように上手く表面が削れない。部分的にしか削ぎ落とせず、ルカのスムーズな流れにはとても遠かった。


 ――刃物の扱いには慣れている自信があったのだが……


 ナイフファイト、接近戦での投擲、奇襲、実戦でわたしの技術は磨かれていると思っていた。 

 だが、それは間違いだったらしい。

 こうして、自分の手元が思い通りにコントロール出来ていないのが証拠だ。



「大丈夫、初めてにしては上手な方だから」


 なんとか終えて、ルカが加工したものと比較する。

 彼女が手を付けたものは見事に輪郭を保っていた。一方、わたしが加工したものは角張っていており、どこから刃を入れてどこで止まったかが一目瞭然だ。

 皮以外の部分も大きく削り取ってしまったため、元の体積より小さくなっている。



「すまない」


「ホント、大丈夫だって。これからカットするし、煮込んで崩れたりするからこれくらいの差があってもお客さんは気付かないよ」

 そう言ってルカはわたしの手元からポテトを取り上げ、鍋の中に入れた。

 そして、次のポテトを握らされる。


 箱の中は溢れんばかりのポテトがあった。



「聞いてもいいだろうか?」

「ええ、もちろん」


「その箱、全部やるのか?」

「そうよ、今日一晩でこれ全部なくなるの」



 ――何かの冗談か……?


 見たところ、ポテトだけでなく他の野菜も大量にある。 

 これを加工して、大量の料理を作ったとして――それを提供しきるだけの客が来るというのだろうか?

 わたしには、その様子が少しも想像できなかった。


「急かすつもりはないけど、気持ちだけは急いでね。でもケガはしないように」



 ポテトの皮むきを再開。

 さすがに1個や2個をこなした程度では大して上手くはならない。

 集中して作業を続けていると、箱の中からポテトが消えていた。

 そして、水道台の中にはポテトの皮が大量に散らばっている。


 ルカの指示でポテトの皮をゴミ箱に捨てていると、新しい鍋が水道台に置かれる。

 次は細長いオレンジ色の野菜を加工するようだ。


「ニンジンはポテトより簡単だよ、こんな感じで」

 早速、1本を手に取って皮むきを始めるルカ。ポテトの時と同じように表皮が繋がったまま剥かれていく。

 その動きは自然でなめらかだ。手付きに迷いが無く、長年の経験を感じさせる。


 わたしもニンジンと呼ばれているオレンジの野菜に手を付けてみる。

 ポテトほど凹凸が激しくないため、作業自体は難しくないように思えた。

 だが、一目で剥けたかどうかがわからない。皮を削いでも同じ色では判断ができない。

 それでもやれないことではない。

 難無く作業を進めていると、物音と共に刺激臭がキッチンに広がっていることに気付いた。



 ――なんだ、この匂いは……?


 皮むきが終わったニンジンを鍋の中に放ってから、周囲を見回す。

 不審物や手榴弾のようなものは見当たらない。誰かが攻撃してきている様子は無かった。

 なら、この匂いはなんだろうか。


 訓練で催涙ガスや致死性の毒ガスの臭気を確認したことがある。

 もちろん本物ではないが、ガス系の装備は支給されている物品からも作れるため、そうした内容の訓練があるのだ。

 

 しかし、キッチンに漂っている匂いはそれらとは全く違う――

 

 刺激臭のように感じるが、どこか違う。

 様々な匂いが混ざっているようなそれの中に、パンケーキを食べた時に感じた『甘い』が紛れているように思える。

 


 そういえば、さっきからカールは加熱調理器――コンロ台で何か作業している。

 それがこの匂いの正体なのだろうか。




「んー? いいよ、アニキのとこ行っても」 

 手が止まっていたせいか、ルカがわたしの様子を確認していた。

 

「いいのか?」

「大丈夫、こっちはアタシが全部終わらしとくからさ」 

 

 わたしはナイフを作業台の上に置き、カールの元へ向かう。

 カールはコンロ台で『フライパン』を使って何かを加熱していた。しきりにヘラでかき混ぜている。


 フライパンの中を覗き込んでみると、透明な液体の中に何かの粒のようなものや葉の一部が入っていた。

 透明な液体は――おそらく、食用油だろう。



「――どうしたの、クロエ?」


「しーけーは何をやっている」

「これ? これはね、テンパリングって作業なんだ」

 そう言いながらも、彼はフライパンの中身をヘラで混ぜ続ける。

 

 油の中に入っているのは、植物に関するものではないだろうか?

 何かの資料で、植物には『葉』と『種子』を生成すると見たことがある。その様相にとても近いように思えた。



「これは?」


「スパイスって言うんだ。植物の種とか皮とか、色んなものを加工したものだよ。とても高価だから、あんまり使えないんだけどね……」


 ――スパイス……? そんな植物があるのだろうか?


 わたしは植物に詳しいわけではない。

 多種多様なそれは同じ植物――同一の存在の断片とは思えなかった。

 それくらい、植物というのは複雑なものなのだろう。



「この作業で香りを出すんだ、これをやらないと美味しいカレーは作れないんだよ」


 理屈は分からないが、この作業は重要な工程らしい。

 油の中で小さな破裂音を鳴らしながら加熱されている種子や葉が、こんなに臭気を出すとは――植物というのは、不思議なものだ。




 突然、カールが作業台から何かを持ってくる。

 カットボードまな板の上には切り刻まれた白い物体が乗せられていた。それをフライパンの中へ流し入れる。

 

 ――これも野菜の一種なのか?

 

 また、カールはフライパンの中をヘラで混ぜながら加熱を始めた。

 カレーという食べ物は、恐ろしく手間の掛かるものらしい。



 

 ルカの元に戻ると、また新しい野菜が用意されていた。

 ポテトのような球状の形をしている茶色のものだ。


 水道台の中には鍋ではなく、ボウルが置かれている。


「今度はオニオン、皮剥くのは簡単だけど、今回は刻んでもらうね」

 ルカがオニオンという野菜をカッドボードの上に置き、上下を切り落としてから茶色の皮を手で剥いていく。


 オニオンの加工はそれほど難しくなさそうだ。


  

 ルカのやっている通りに、わたしもオニオンの上下を切り落とす。

 どうやら、オニオンという野菜は根がある植物らしい。切り落とした下の部分には何本も細長いものが付いている。バイオプラントも根が生えているらしいが、引っこ抜いたことがないので本当に根があるのかはわからない。


 爪を立てて、茶色の皮をめくってみる。その下に白い中身が現れた。

 それは、さっきカールがフライパンに流し入れていたものに酷似している。

 おそらく、これを細かく切り刻んだものなのだろう。


 

「じゃあ、クロエさんはオニオンを刻んでもらいますねー」


 手本を見せるつもりなのだろう。オニオンの上下と皮を取り除いたものをカットボードの上に置き、調理用ナイフ――包丁を手にした。

 そして、オニオンを縦に両断。その片方を寝かせて、切り込んでいく。

 

 やはり、ルカは手慣れている。

 カールもナイフの扱いを得意としているようだが、このキッチンで仕事していたら自然と刃物の技術が身についてしまうのだろう。

 


「こんな感じでお願いしまーす。アタシは他の野菜やっとくんで、ゆっくりでも大丈夫ですよ」

 そう言うと、切ったオニオンをボウルの中に入れた。

 この大量のオニオンもまた、カレーという食べ物に必要だということだ。

 ポテトやニンジンと同じくらいの量があるが、皮むきに比べて作業難易度も低い。わたしだけでもそんなに時間が掛からないはずだ。



「了解した」


 わたしが返事をすると、ルカは別の作業台へ移動した。

 そちらには皮むきしたポテトとニンジンが入っている鍋が置かれている。

 彼女も野菜をカットする工程に入るらしい。



 ――さて、やるか。


 皮むきでは上手くいかなかったが、刃物の扱い方は削ぐだけではない。

 切ったり刺したり抉ったり……使い方は様々だ、その内の1つがうまくできなかっただけ――今度こそはやってやる。


 ルカと同じようにオニオンを両断し、切り口をカットボードの面に寝かせる。

 手を添えるようにして、オニオンの細断を開始。

 

 等間隔にオニオンを切っていき、それをボウルへ移す。

 もう半分も同じく、真っ直ぐ刃を入れて切り刻む。――簡単だ。



 

 数個まとめて上下と皮むきの作業をしてから、細断作業に移行。

 だが、その途中で違和感があった。


 オニオンを切っている最中、目や鼻に刺激を感じる。

 自然と涙が出てきて止まらない。自分の涙で霞んだ視界のまま作業を継続する。おまけに鼻水が出てきて息苦しい。


 ――なんだこれは……催涙ガスか?


 涙を拭いながら周囲を見回すが、わたし以外に同じ症状が出ている様子は無い。

 ならば、これは……わたしの正体が判明して攻撃されているのでは!?


 しかし、疑問もある。

 催涙ガスは粘膜全てを刺激するものが普通だ、刺激されているのは目と鼻だけ。

 激しく咳き込んで呼吸困難になるのが催涙ガスの症状だと言われているが、そこまでの症状ではない。――ならば、これはなんだ?

 

 勝手に出てくる涙と鼻水に耐えつつも、加工を続ける。

 手元の感覚だけでナイフを動かし、オニオンをボウルへ移す。

 とてつもなく不快だが、目隠しで自動小銃を早組み立てするようなものだ。そう難しくない。


 箱の中に手を突っ込むが、オニオンを見つけられない。

 おそらく、全部終わったのだろう。



「……ルカ、終わった」



「はいはーい……って、顔凄いことになってるんですけど――——ウケるっ!」


 すぐ横まで来たルカが、わたしの顔を見て笑い出した。

 勝手に目と鼻から水分が出てきてしまうし、拭っても拭っても止まらない。



「――クロエ? そっか、硫化アリルにやられちゃったんだ」


 ルカの声に反応したのか、カールが駆け寄ってきた。

 わたしはナイフを作業台に置き、水道水で顔を洗う。

 手に付いた刺激臭が顔について、余計に目が痛くなった気がした。

 結果的に、涙は止まらない。



「もしかして、今日届いたオニオン使った?」

「――あっ、ごめん。間違えた」


 なにやら2人が話を始めた。

 わたしは手の洗浄を繰り返すが、オニオンの匂いは少しも取れた気がしない。

 もしかして、オニオンというのは毒物なのだろうか。


 ――まさか、そんなこと……



 2人のやりとりが終わって、カールが話し掛けてくる。


「ちょっと外で休もう、もうすぐ準備は終わるからさ」



「しーけー、さっきの硫化――なんとかとは、何だ?」


 少しだけ涙が収まってきた。

 やっと目を開けていられる状態になる。



「オニオンに入っている成分だよ。揮発性――空気に広がっちゃう性質があって、目を刺激しちゃうんだ。冷やしたり、水につけたりすることで成分を抑えられるんだけど、ルカが今日届いたものを使っちゃったから、クロエが大変なことになっちゃったんだ」


 ――なるほど?……よくわからないことだけはわかった。


 硫化アリルというのは、おそらく水溶性の性質を持つのだろう。

 今日届いた――つまり、貯蔵庫での冷却が充分でなかったために、硫化アリルが空中に蔓延、作業していたわたしが餌食になったということか。



 作業台から離れ、後の工程をカールに任せる。

 だが、店の外で休む気にはなれない。


 ルカから許可を得て、店内のカウンター席に座って休憩を取ることにした。



 キッチンではカールとルカが作業を進めている。

 わたしとルカが皮むきをしたポテトとニンジンが分割された状態で大鍋に入れられ、そこに水道水が注ぎ込まれる。

 そして、大鍋2つがコンロ台の上に置かれた。


 まさかとは思ったが、本当にあの量全てを客に出すつもりなのだろうか……?



 ルカが貯蔵庫に向かい――何かの箱を抱えて戻ってきた。

 

 ――まだ何か使うのか?


 その箱からは赤く、大きい塊――加工された食肉のパックが現れた。 

 それをナイフで切り分け、さっきのポテトとニンジンの入った鍋に入れていく。



 わたしが休憩している間にも、カールとルカ――2人の親は忙しく動き回っている。

 その『カレー』というのは、いつ完成するのだろうか? 








 それにしても――


 ――どんなものを作ろうとしているんだ?

 




 わたしはまだ、『カレー』の日の恐ろしさを少しも知らなかった。



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