第12話 うらら初めての

 翌日の朝だった。

 ちょんちょんと頬に何かが触れて、目が覚めた。

 喉が痛かった。

 きっといびきをかきまくっていたのだろう。

 肥満中年の不治の病。

 それはいびき。


 ぼんやりと目を開けると、うららがちょこんと座っていた。

 俺と目が合うと、ニコッと微笑む。

 静謐な朝の空気の中で、金髪美少女が微笑んでいる。

 え、朝から可愛い。


「おはよう、うらら」


 いびきのせいで枯れた声で、朝の挨拶をする。


「うー? うう?」


 朝うららは妙な声を出していた。

 喉をさすりながら、なんか頑張っている。

 俺をじーっと見つめながら。


「ううー? うら?」


 じたばた。

 どこかもどかしい感じだった。

 そして。


「うう……オ?」


 おお。

 今「お」って言った。


「オ……らら? おらら!」


 うららは嬉しそうにニコニコ。

 おららとは一体……?

 もしかして、おはようと言いたいんだろうか。


「おはよう、だ、うらら。おはよう」


「う? お? お、あよ?」


 おお、だいぶ近い。


「おあよ! おあよ!」


 うららは嬉しそうにと連呼している。

 あのうららが。

 うらうら星人なんだろうか、と密かに心配していたうららが。

 おはようと言ってくれるなんて……。


「うら!?」


 思わず抱きしめていた。


「偉いぞ」


「うらー」


 頭を撫でると、うららは気持ちよさそうな声をあげる。

 うららは温かかった。

 そして、やわらかい。

 女の子の匂いがする。


「うらら……」


 うららは中年の首筋に顔を押し付けていた。

 そして、中年の背中をきゅっと掴む。


「うらー」


 安心しきった声を上げて。

 こんなに俺に密着して、嫌じゃないんだろうか。

 脂とか加齢臭とか付いちゃうのに。

 若いのに、なんていい子なんだろう。

 思わず目頭が熱くなりかけた。

 とはいえですよ。

 ここ数日、なぜか禁欲生活を強いられていた。

 初日こそうららで発散してしまったが。

 半ば仲良くなったせいで、今はそれもしづらい。

 昨日はバタ子さんで我慢しようとしたのに、彼女ヅラをしたうららに阻止されてしまった。

 禁欲生活は5日目を迎える。

 アレは3日でパンパンになる。

 このままいったら……。

 そう。

 破裂して死ぬのである。

 そんな状態で、うららと抱き合っていればですよ。

 俺のビーストはクライマックスで石破天驚拳ってなもんである。


「うらー」


 うららは無防備に、俺に抱きついていた。

 ハグが好きなのかもしれない。

 俺から見えるのは、うららの金髪と背中。

 めくれ上がった白いスカート。

 ぷりぷりの生尻。

 原始人ヤッホーな生活を送っていたくせに、シミひとつない綺麗な尻だった。

 揉んだ。

 いや、揉むでしょ。

 当たり前だよね。

 むにゅっとしながらも、張りがあって、指が柔肉に食い込んでいく。

 極上の尻だった。


「うらー!?」


 うららに噛まれた。

 ガブッと。

 肩を思い切り。

 痛っ!?


「うらー!! うらら!? うーーらーーー!!」


 サッと離れたうららは顔を真赤にしてジタバタ。

 ずだんずだんと床を踏みつけている。

 うらら怒りのダンスだった。

 え、待って。

 ハグは良くて尻揉みはNGの意味が、おじさんにはわからない。


「うらー!! うらっらーーー!!」


 真っ赤になったうららが手をぶんぶんさせて怒っていた。

 何かを喋りまくっているのだが。

 こういう時に言うべき正しい日本語は。


「うらら。エッチだ。こういう時はエッチって言うんだ」


 しか言えない少女に何を教えているんだ、とは思う。


「えっち!!!」


 って言えんのかよ。

 うららが初めて喋れた日本語はエッチだった。

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