第13話 家を作る!

 冷蔵庫とかエアコンとかは素材がエグすぎて心が折れた。

 そもそも、仮に冷蔵庫やエアコンが作れた所で、どこに設置するんだという話である。

 うららの岩屋に置いても良いのだが、どうせならちゃんとした家に置きたい。

 そんなわけで、家を作ることにした。


 うららを連れて、やってきたのは、いつもの丘の麓。

 親の敵のように砕き続けた石がたくさん転がっている場所である。

 この石が家の素材になる。

 家作りに必要そうな、レシピは以下の通り。

『石の床』:石✕80、木材✕30。

『石の壁』:石✕40、木材✕20。

『石の天井』:石✕60、木材✕25。

『石の屋根』:石✕60、木材✕30。

 こんな感じに、石と木材がたくさん必要らしい。

 石は、その辺に散らばっている石ころを使えばいいのだが、木材はどうしよう。

 その辺に落ちている木の棒とかだと明らかに足りなそうだった。

 普通に考えれば、木を切り倒せば良いのだが。

 荒野には、ぽつんぽつんと白い木肌の木が生えている。

 試しに1本の木を『石の斧』で叩いてみた。

 がすがす、と。

 10回位叩いた所で、木は切り倒せた。

 ずしーんと重い音を立てて、白い幹が地面に倒れる。

 その幹を『万能眼鏡』で見てみた。

『解析結果:木材✕100。アイテムビルド対象。作成対象レシピは……』

 おお。

 この幹だけで✕100らしい。


 木材のレシピにはこんなものがあった。

『木の床』:木材✕80。

『木の壁』:木材✕30。

『木の天井』:木材✕25。

『木の屋根』:木材✕30。

 木材だけでも家が作れるっぽい。

 レシピには他にもベッドや椅子などの家具があった。

 木材ってスーパー素材。

 ふーむ。

 石の家にするか、木の家にするか迷うな。

 悩みながら、ふとうららに目をやる。


「うららー♪」


 うららはアリの行列をしゃがんで見つめていた。

 ニコニコしながら。

 アリが好きな女である。

 あいつを見ていると、悩んでいるのが馬鹿らしくなる。

 ちょっと癒やされた。

 ふむ。

 床は石で、壁は木とかのハイブリットでも良いかもしれない。

 石の家は丈夫そうだが、裸でも生活できるこの辺の気候には合っていない。

 絶対に暑い。

 現にうららんちの岩屋は昼間めっちゃ蒸す。

 俺たちが昼間は、基本外にいるのはそのせいだったりする。

 とはいえ、床くらいは丈夫な石の方が安心するような。

 よしそれで行こう。

 床は石、壁は木、天井と屋根も木でいく。


 まずは石の床から作ってみよう。

 石をせっせこ集めて、切り倒した木材の近くに置き、『石の床』を選択する。

 しゅるるー、ポン!

 いつもの間の抜けた効果音と共に、素材が収縮され、『石の床』が出来上がった――と、思ったのだが。

 出来上がった『石の床』はなんというか赤かった。

 そして、半透明だった。

 なにこれ。

 目の前に、赤くて半透明な1辺が1メートルくらいの立方体が浮かんでいた。

 想像してたのとぜんぜん違う。

 石の床には全然見えない。

 でっかい赤いゼリーみたいな。

 はて、と首を捻ってみたら、驚いた。

 首と一緒に赤いゼリーも動いたのだ。

 というか、視界と連動しているっぽい。

 俺の見ている方向に合わせて、赤いゼリーが動いている。

 上、左、右。

 首を動かすと、必ず視界の中央に赤いゼリーが浮かんでいた。

 下を見ると、赤いゼリーが緑色に変化した。

 信号みたいに。


『ここに設置しますか?』


 そして、そんな文字列が浮かぶ。

 うん、まあ、そうね。

 みたいなぼんやりとした肯定を考えると、ポンと。

 大地に無骨な石の立方体が出現していた。

 一体何が起こったのか。

 さっきまで浮かんでいた赤いゼリーも緑色のゼリーも消えている。

 あるのは、突然出現した明らかな人工物のみ。

 上の面は4つ分けられた石のタイルが貼られ、側面はつるんとしている。

 まさに石の床。

 その一部分。

 どういうことだろう。

 まさか位置を指定できるということだろうか。

 赤いゼリーは設置不可で、緑色のゼリーは設置可能みたいな。

 地面に接していなかった状態では赤くて、設置していたら緑になった。

 え、便利。

 ちょっともう一回やってみよう。

 そんなわけで、俺は『石の床』を作っては設置し、作っては設置し、を繰り返した。

 わかったことは以下の通り。

 ①『石の床』を作った直後は、位置を指定可能。緑は設置可能。赤は設置不可。

 ②歩き回って、作成地点から離れた場所にも設置可能。

 ③設置した後は、『石の斧』や『石のつるはし』で破壊可能。

 便利すぎた。

 ②の離れた場所には、だいぶ離れたところにも設置してみたが、今の所、限界はなかった。

 移動している間、視界にずっとゼリーが出現するので、前が見えにくいのが問題だが。

 ③は『石の斧』や『石のつるはし』以外では殴っても蹴ってもビクともしなかった。

 『石の斧』や『石のつるはし』を使えばサクサクと破壊できて、素材も少し戻ってきた。

 これのおかげで失敗を気にしなくて済みそうだ。

 なんだろう。

 この便利システムは。

 ゲームかよ、と突っ込みたくなるが、服を作れたときからそんな感じだったので、今更である。

 結構簡単に家を作れそうである。

 というか、このシステムがなかったら『石の床』とか、作った所でどうやって運ぶんだよ、と思ってしまう。

 古代エジプトのピラミッド建設みたいに、丸太を並べてゴロゴロ運ぶしかない。

 絶対にやりたくなかった。

 ちなみに、『木の壁』も作ってみたが、『石の床』と設置していないとゼリーは赤いままだった。


 さて、問題は家をどこに建てるかである。

 荒野の真ん中にでんっと建ててもいいのだが。

 できれば水場の近くがいい。

 あとは、うららんちから離れるのもなー。

 しばらく一緒にいると決めたのだ。

 うららんちの近所がいいだろう。

 ちなみに、うららと一緒に住むという選択肢はない。

 今は毎晩うららんちでうららと一緒に寝ているが。

 隣で全裸の美少女(うららは寝る時は裸族派)が寝ているという状況は、とっても良くない。

 何度も一線を超えそうになったので。

 夜になったらお互い自分の家に帰るのが良いだろう。



 そんなわけで、丘の上のうららんちの隣に家を建てることにした。

 ギリギリ一軒家が建てられるくらいのスペースはある。

 ゴツゴツした岩が散乱しているが、斧で砕けばいい。


 ここ数日で熟練の域に達してしまった岩砕きを黙々と続ける。

 いわゆる、整地作業である。

 そんな時だった。


「うらー!! うらら!! うらーーーー!!」


 慌てた様子のうららが、血相を変えて走ってきた。


「うら! うら! うららー!!」


 地面をべしべしと踏みつけて怒っている。

 やべ、そういえば。

 うららを置いて、一人で丘の上まで戻ってきてしまった。

 アリンコと遊ぶのに忙しそうだったからつい。


「うらーー!」


 うららがひしっと抱きついてくる。

 わずかに、泣きべそをかきながら。

 とりあえず、その頭をぽんぽんと撫でてやった。


「うららー」


 気持ちよさそうに目を細めるうらら。

 どうしよう。

 めちゃくちゃ可愛い。

 でもセクハラすると怒るんだぜ?

 果たして、俺はこれからも一線を超えずにいられるのだろうか。

 まったく自信がなかった。

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