第19話 空気を読まない地鳴り
その路地裏には、魔法の才能が101のユウト、魔法に特化した魔法使いのフィーナがいた。
話をする前に、フィーナは座り、ユウトは立ったままだったのでフィーナの隣に座った。
人と話をする時はその人と同じ目線がいい。
ユウトの勝手な考えだ。
ユウトが隣に座ると、フィーナは若干ユウトとの距離を離したように見えた。
「師匠は私が怖くないのですか?」
先に口を開けたのはフィーナだった。
自分でそれを言ったにも関わらず、フィーナの言葉はどことなく震えていて、それを言ったのを後悔している様子だった。
「え? なんで俺がフィーを恐れないといけないんだよ?」
「だって、近くに来たらまた首を締められるかもしれないんですよ!」
心配しているのか、怒っているのか、嬉しいのか、そんな三つの感情がフィーナの顔に出ていた。
「その帽子だろ。その帽子が取れない限りは、俺の首を締めたりしないんんだろ」
「え、、、」
唖然とした表情のフィーナ。
だが、冷静に考えてみればわかるものだった。
ユウトが気絶したときも、ユウトはフィーナの帽子を無理やり取った。
フィーナがあの時微かにダメっと言っていたのも聞こえていた。
それに今はその帽子を被っている。
「す、凄いです師匠! なんで分かったんですか?」
「フッ……、俺をあまり見縊らない方がいいぞ。と言っても今のはただ冷静に情報を処理しただけだがな」
ただのペラペラ推理にフィーナが過剰に反応した為、ユウトは鼻を高くして答える。
しかしフィーナはユウトを見縊っているのではなく、回被りすぎている。
「この動く髪を見られると、皆私から避けていくんです。悪魔の髪だとか、あの髪は呪われているとか、この魔力を抑える帽子の魔道具があっても、取れたときに暴走して、人を傷つけて、その人は離れて行きます。私の事を考えて、傷ついたのに私の傍から居なくならないでいてくれる人は……」
フィーナは今にも泣きそうな顔になっていた。
だが、フィーナは、ユウトのために辛い過去を話してくれた。
きっとそれはフィーナにとって思い出したくもない事のはず。
周りから人が居なくなる恐怖は分かる。
ならユウトが彼女にかける言葉は―――。
「フィー、俺が……、何度痛い思いをしても、何度苦しい思いをしても、俺はお前の師匠だ。そして仲間だ。俺は何があっても仲間を見捨てないし、泣かせない。それに俺の仲間も同じ事をお前に言ってくれるよ。これからは寂しいことは何も無い。だからもう、そんな顔はするな。そんなことをしたらせっかくのかわいい顔が台無しになるだろ」
ユウトの発言はどっから聞いても恥ずかしい物で、他人には聞かせれないものだった。
だが、実際にフィーナの心には届いたようで、フィーナは零れそうになっていた涙を手で拭い、直に笑顔になってくれた。
これで元気になってくれるなら、ユウトのしたことにもお釣りがくるってものだ。
「さて、もう行くか……」
ユウトは気まずさをかき消すようにそそくさと立ち上がり直にまた右膝を地面に付き腰をかがめた。
その一連の動作に一瞬フィーナは「え、」と躊躇う。
「乗って……、いいんですか?」
おんぶを促すような姿勢になっているユウトにそんなくだらない事を聞いてくるフィーナ。
どう見てもこれは背中に乗れのサインだと言うのに。
「いいよ」と言いながらユウトは、フィーナを自分の背中に乗せようとする。
恐る恐るフィーナは俺の背中に乗ろうとする。
さっきまでは、乗せてくれと言わんばかりの態度だったのに、さっき痛い思いをさせてしまった罪悪感のせいで乗るのに躊躇してしまっている。
悪いがここからは、フィーナ自身の決断だ。
ユウトがしてやれるのはここまで、と言えるようなかっこいい理由ではない。
単純にこれ以上傲慢な態度をとって、もし拒絶される事になったら、ユウトはもう心に大きな傷を負って助かりそうにないからだ。
だからユウトはこれ以上何も言えない。
言うまでもなくただのヘタレだ。
ともかく、自分の殻は自分で破れ。
それが今、フィーナがするべき事。
その時、一瞬にして辺りは騒然とした。
原因は雷の低い音に似た地鳴りのせいだった。
そう、これは地震だ。
ユウトの故郷が地震大国だったせいか、この揺れは懐かしさも感じられた。
それにしてもユウトはあまり焦らなかった。
なにしろこの地震、大したことなさ過ぎる。
震度はおよそ2くらいの揺れだった。
それに揺れは直に収まって来ている。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ―――!」
次の瞬間だった。
ユウトが驚いたのは地震よりむしろフィーナの行動。
さっきまでの可愛らしい躊躇いと一変して、思い切りユウトの背中に飛び込んでくる。
勿論勢い良く飛び込んできたせいで、ユウトの理性が正常でいられるはずもなく、ユウトは己との葛藤にエネルギーを費やすことになっていた。
「どうした! いきなりだなぁ。損した気にはなってないが」
振り向きざまにフィーナに聞く。
だが、その答えを聞く前に大体のことは理解できた。
フィーナは現在、今にも泣き出しそうな顔になりながら、体を小刻みに震わせていた。
先程の絶望を感じていた泣きそうな顔ではなく、まさに子犬のように何かに怯えているような顔だった。
「本当にどうしたんだよ? まさか怖いのか?」
「だって地鳴りですよ! 怖いに決まってるじゃないですか!」
ユウトの挑発混じりの言動に動揺せず、それよりも逆にキレてくるフィーナに少し困惑する。
そこまで怒ることもないと思うが。
揺れが収まってもなお、フィーナはユウトの体を強く抱きしめ離れない。
ユウトはフィーナに強く抱きしめられながら路地裏を出た。
地震が収まったことを確認したのか、徐々にフィーナの抱きしめる力は弱くなり、ようやく普通のおんぶになった。
気づくと路地にはある程度の人が居た。
この人たちもさっきの地震が不安なのか、周りと話し合っている人や地震の揺れに酔ったのか座り込んでいる人も見られた。
その中、少女をおんぶして、更に堂々と道を歩いているのはユウトだけだった。
「しっかし、たかが地震でよくこんなに騒げるよなぁ。珍しいのか?」
「たかが……、流石は師匠と言うか、凄すぎて何も言えません。師匠は怖いものなしですか? そうですか?」
フィーナの言葉は少し怒ったような口調だった。
仕草もどことなく、ユウトの方向ではなく、明後日の方向を向きながら。
「そう言えば師匠。さっき私の事をかわいいって言いましたよね」
ニヤニヤした顔で、どことなく笑い混じりな口調のフィーナはユウトをからかってきた。
「それは言葉の綾だ。本当は思ってないから気にするな。と言うか、運ぶのに神経使っているから、その口を閉じて寝てなさい」
と、お父さん口調でフィーナを黙らせる。
意外にもフィーナは納得したのか、それ以降話してくる事はなかった。
自分が運ばれている立場にある事を、再確認したのか、それともお父さん口調が効いたのか定かでは無いが、静かになって運ぶのが少し楽になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます