第20話 自己紹介

 ようやく宿に着く。

 ここで気が抜けたのかユウトは大きく溜息を付き安堵する。


 しかしここからが大変な所だ。

 フィーナの説明や、ここまで遅くなってしまった理由。

 多分、いやきっと面倒くさい事になるんだろうな。


 そう思いながらユウトは宿の扉を開けた。


「ユウトさん、どこ行ってたんですか? 心配したんですよ」


 出迎えてくれたのはルナだった。

 昨日ぶりなのに、色々とあったせいか、かなり久しぶりに感じられる。


「……ってその子どうしたんですか?」


 ようやくユウトの背中に張り付いている者が認識できたのか、その見覚えのない、得体の知らない者の正体を問おていた。


「ほら自己紹介して……」


 と後ろを向いた瞬間、ユウトは目を疑ってしまった。


「やけに静かだと思ったら、本当に寝てるなんて……」


 ユウトはこの状況に絶望しか感じられなかった。

 フィーナが自己紹介をしなければ、ただ仲間にしてきたと言っても、どう見ても誘拐してきたようにしか見えない。


 それはユウトの死へと直結する。

 どうにか勘違いされないような弁解を。


「ユウトさんって年下をお持ち帰りする変態みたいな趣味があったんですね。それもこんな朝早くから」


 弁解する余地など、何処にも無かった。

 それはこの状況を見た誰もが思う事だ。


「あれ? ユウト帰ってきたの? お帰り……。え?」


 あっと言わんばかりにアオの呆気ない登場。

 ユウト的にはもう少し時と場合を考えて欲しかった。

 ルナが飽きているなら、アオを止める者は誰もいない。

 即ち、死刑。


「ユウト……それ、何?」


「ア、アオ……これはなぁ、違うぞ! 俺は誘拐なんてしてないからな!」


 アオは死んだ魚の目をしながらユウトがおぶっているフィーナに向かって人差し指を指してきた。

 その目はまさに人を殺しかけないような目をしていた。


 ユウトが絶望の絶望を感じ、完全に頭が真っ白になり顔が青ざめているさなか、ようやく彼女は目を覚ます。

 その遅さは悪役が町中で暴れているのに、遅れてやってくるヒーローの様で腹立たしい。


 彼女は目が覚めると状況を瞬時に確認したのか直にユウトの背中から降りてくれた。

 そして、ユウトが今言って欲しい言葉ランキング1位の事を言ってくれた。


「どうも、初めましてフィーナ・ガルシアです。ユウトさんの弟子です。これからよろしくね。ルナちゃん、アオちゃん」


 アオのマジな目を見たのか何もふざけずに答えてくれた。

 最後の一言を除いてだが。


 ユウトは一度足りともフィーナに仲間の名前を伝えていない。

 つまり一部始終を聞いていたという訳だ。


 悲しい過去話と意外とかわいい一面で完全に初めて会ったときのイメージを書き換えてしまっていた。


「「弟子!?」」


 アオとルナは声を揃えてその一言に注目した。

 きっと弟子という言葉に気を取られ過ぎて自分たちの名前を呼ばれたのを聞こえていない様子だろう。


「そろそろ中に入らないか? お腹が空いて今にも倒れそうだ」


「あ、私もたくさん食べたいです!」


 ユウトが三人の話に水を指すと、食べ物の話をしたせいかフィーナが二人との話をそっちのけで勢い良く食いついてくる。


 ルナは未だに呆れていた様子でアオは標的をユウトからフィーナに移し、未だに納得していない様子で睨んでいる。

 それに気づいていないのか、それとも早く食事を取りたいのかフィーナは完全に気にしていなかった。

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