第17話 サキュバスの魔法

「さ、おぶってやるからじっとしてろ」


 そう言いながらユウトはフィーナの腕を掴む。

 実際フィーナはお腹が空いて動けない状態なのだが。


 人をおんぶするのは二回目だった。

 しかし、どこをどう触ればいいのか分からない。

 相手はアオと同じ女の子だが分からない。


「し、師匠…………流石です………」


 ユウトの事を師匠と呼ぶフィーナは何故か『流石です』と言って褒めている。


「流石は………ま…………どうてい王………」


「おい! 今なんってった? おい! 聞いてるのか!」


 揺さぶって真意を確かめようとしたが、フィーナは本当にお腹が空いて今にも気絶しそうでいた。


 仕方がない。

 まだ確信は持てないがこれを使うしかないか。


 そう思い、ポケットからビー玉程の大きさのアメのような物を取り出した。


 それは7色に光りを発しており、どう見ても食べ物のような見た目ではなかった。

 だが事実、これはれっきとした食べ物である。

 っと書いてあった。

 どこにと言われたら、そこにと答えるしかない。

 厳密に言えばこのビー玉サイズの物の原型にだが。


「さ、これを食え」


「なんですか? ……それ? ……はむっ!?」


 今にも意識が飛びそうなフィーナに強引にその毒々しい色のした食べ物を与える。

 視界にそれが映らないのか、それとも食べ物だったら何でもいいのか分からないが、フィーナはなんの躊躇もなく、そのアメを食べた。


 食べた瞬間、フィーナのぐったりしていた顔はみるみるうちに元気を取り戻した。


「おぉー! なんですかこれ? 一気にお腹が膨れました!」


 なんですか、と言われてもこれは正直には言えない。


 なにせさっきのは『スライムの心』から出てきた粉を丸めて、ユウトのチャッカマンのような小さなサイズの火で温めて作った物だからだ。


 何故言えないかだが『スライムの心』は、言ってみればスライムから出てきたもの。

 つまりスライムの排出物だ。


 ユウトはドロップアイテムだと割り切れているが、この世界の人は『うんこ』だと思っているらしい。

 ユウトが『スライムの心』を手で持っていた時、アオから白い目で見られた。


 だが、なんだろう。

 何も知らずにうんこを食ってるフィーナを見ていると無性に笑いがこみ上げてくる。


 うんこではないのだが。

 さっき童貞王と言ったことは水に流してやるか。


「それは良かったな。で、なんでまだ起きがらないんだ?」


「今起き上がってしまったら、起きたエネルギーでまたは倒れますから」


 食べ終わったのに一向に立とうとしないフィーナを見て言うとフィーナはそのな頓珍漢な事を言う。

 そもそもあのスライムアメは一般的なお腹を満腹にするバフが付与していると書いてあった筈。


「そんことなる訳ないだろ! 嘘を付いているな」


「いえ、付いていません。そもそも私が嘘を付く理由がありません」


 まあ確かに。

 男におんぶされるよりも女の子だったら自分で歩くのを選択する。


 どうやら本当に嘘を付いていなかったようで、再びフィーナの腹が鳴る。

 しかし腑に落ちない。


 一般的なお腹は満腹になるはず、どこかで作る工程を間違えたか。

 それともこの子が一般的なではないとか。

 後者は流石に冗談半分であった。


 それにしてもおんぶするにも何処を持ったらいいのか。

 変な所触って通報されたらショックでその後立ち直れなさそうだ。


 まず右腕を掴み、そして持ち上げる。

 思った以上に軽くすんなり持ち上がった。

 やはり女の子は軽くできているのだろか。元々フィーナも小さい。


 続けて左太もも右太ももに手をかけて完成だ。

 意外にもすんなりいった。

 頑張った自分を褒めてやりたい。


 冷静に自分を褒めていたユウトは直ぐに冷静でなくなった。

 ほんのり甘い香りと出る所は出ている体型に思わず心臓の音が激しくなる。


「師匠意外と激しいですね」


「は、激しいとか言うなよ!」


 耳元で優しく囁くフィーに突っ込むしか出来ないユウト。

 この状況だとまともに会話が出来ない。


 そんなこんなでようやく出口に着く。

 さっき入ってきた入り口でもあるが、やはり警備官はまだ眠っていた。


「嬉しそうに寝てるなー」


「はい。だってエッチな夢を見ていますから」


「え!? エッ! えぇ!?」


 その言葉に耳を疑った。

 この警備官を眠らせたのは紛れもなくフィーナだ。


 と言う事は、フィーナはエッチな夢を見せてくれると言う事だろうか


「しかしそんな最高……、じゃなくて、下品な魔法誰から教わったんだ?」


「サキュバスのエル・サーペントさんです。村にやってきた時に教えてもらいました」


「サキュ……、なるほど。それにしてもエ、エッチな夢を見せる必要あったのか?」


「ただ眠らせるのは失礼だと思ったので………」


「自覚があったんだな」


「それにサキュバスとこの魔法を教える代わりに1ヶ月に1回使う事という契約を交わしましたから」


 そう言うとフィーナは服で隠れていた左腕を見せてくれた。

 そこには赤く暗い魔法陣のような紋章があった。


 契約の仕方は至って簡単で自分で自分の腕を軽く血が出る程度に切り、そこに契約相手の血を垂らす。

 そして契約内容を言う。

 それで完成だそうだ。


 サキュバスと交わした契約にはその魔法を他の者に教える事を禁ずるともあったので、どうやらユウトには教えられないようだ。

 まあ、どっちにしろ自分で自分の腕を切るなんて行為死んでもユウトにはできない。

 採血が怖かったユウトには無理な話だ。


 外に出たが、まだ朝が早いのか人の数がまばらだった。

 それにしても帽子が邪魔だ。

 フィーナが被っている帽子はかなり長く尖っており、歩くたびに耳や頬に当たる。


 いくら温厚なユウトでもこの小刻みに訪れる帽子のアタックにはしびれを切らしてしまう。


「この帽子とってもいいか? 邪魔だから」


「あ! だめ!」


 ユウトはフィーナに聞いたのにも関わらずフィーナの答えを聞く前に帽子を取った。

 だめ、と言っていたが何が駄目なのだろうか。

 何も起き―――。


「うッぐっ―――!」


 いきなり何かがユウトの首を締めてきた。

 手ではない。

 何かサラサラとしたもので、それもかなり強い力でだ。


「だずげで………」


 軟弱なユウトの首は何かのせいで息が出来なくなった。


 そしてそのまま気を失ってしまった。

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