第一章 最強の弟子と最弱の師匠編
第16話 最強の誤解
『私は最強の魔法使い。名はフィーナ・ガルシア。単刀直入に申します。あなたが先日戦った場所に来てください。さもなくばこの町が火の海と化すでしょう』
手紙の中にはそんな事が書かれていた。
最強だの、火の海と化すだの、どう厨二病を拗らせたらこんな変な手紙を書けるだろうか。
それにしても先日戦った場所。
きっと闘技場の場所だろう。
もう二度と行かないと思っていたが、こうなったら仕方がないか。
こうゆうのは、ほって置くのが一番良いのだろうが、ほって置いて後から面倒くさい事になっても困るので、ユウトはその場所に行くことにした。
ため息を付きつつも手ぶらで行く事にした。
名前からして女の子、それに火の海とか言っていても、丁寧に来てください、と敬語を使っている辺り敵対はしないと思ったからだ。
勿論最強の魔法使いという部分は全く持って信じていなかった。
本当に最強の魔法使いだったらユウトに会うメリットも理由もない。
自分で言っていて悲しくなるが事実だ。
そう思いながら呑気に町中を歩いていた。
朝早い事もあり、ほとんどの店が閉まっている。
町のあちこちを見て回っていると、目の前から男二人が慌ただしい様子で走ってきた。
「おい! あの女はどこ行きやがった! 勝手にうちのパンを盗みやがって、見つけたらお仕置きしてやる!」
「直に見つかりますよ! あの女は特徴的でしたから」
ユウトとすれ違った時にそんな話がちらっと聞えた。
どうやらこの二人は食い逃げにあったのだろう。
この町にもそんな事をする奴がいるのか。
すられないように注意しようと思い、懐にあった金を確認する。
✤ ✤ ✤ ✤ ✤
気がつくとユウトは目的地の場所に着いていた。
正直何かのいたずらだろうと思っていた。
それなのにここまで来たのは、ただ散歩がしたかったからだ。
扉など開いていないと思い、ユウトはその扉に手をかけた。
すると驚く事に扉は開いていた。
おかしい。
ユウトは直にそう思った。
今は営業時間でもないはずだ。
外から見ても営業している気配はない。
そう思いながら中に入ると、何人かの警備員が倒れているのを見つけた。
ユウトは直にその人達の元に向い存命を確認する。
どうやら警備員達は眠らされていたようで、見る限り傷らしき物はどこにもなかった。
それにどことなく表情が柔らかい。
いい夢でも見ているのではないだろうか。
安全を確認した後、闘技場の内部に向かった。
三日振りのその景色は初めに来たときよりもよく見えていた。
血で少し汚れている廊下も、その匂いが残っているのも、よく分かった。
長かった廊下を終えると、ようやく広い所へ出た。
あの時ユウトが戦った場所だった。
以前は相手しか考えていなかった為、ここまで広かった事に驚いていた。
そんな時、目の前から少女らしき声が聞えた。
ユウトはそちらに目を向けた時、思わず驚いてしまった。
そこに居た事にも驚いたが、その少女の格好にまず驚いた。
「にっしっしぃー。よく来てくれましたねー」
歓迎しながら言ってきた少女の格好はまさにザ・魔法使いだった。
マントと先が曲がっているトンガリ帽子、木造りと見られる杖、そして長く美しい黒髪。
ほうきが無いのが少し再現不足だが、それでも見たら魔法使いと判断出来る格好であった。
「誰だ? お前は?」
ユウトが聞くと少女は小さくと笑って答えてきた。
「自己紹介が遅れましたね! 私はこの世で最強の魔法使い。冒険者です!」
最強の魔法使いを自称する少女はどうやらユウトと同じ冒険者だったらしい。
「へー最強の魔法使いねぇー。それはすごいすごい」
「ああ! 疑ってますね!」
どうやらユウトが適当にあしらっていたのがバレたようでほっぺたを膨らませる。
そして、
「そんなに疑うなら私の魔法を見てください! 第一魔法。フルフレイム〈火柱〉」
次の瞬間ユウトは目を大きく広げる。
それもそうだ。
ユウトは少女が言ってる事も、その格好も全て冗談だと思っていた。
だが、それは間違いだった。
少女から生み出された赤く光る魔法陣からは、炎が生成され、それは天井すれすれまで上昇していった。
ひと目見てわかる。
これを喰らったら一溜りもない。
ユウトが驚いた様子を見て、少女の機嫌は良くなった。
「どうですか? すごいでしょ! 私は、すごいでしょう!」
少女のその言葉にユウトはようやく我に帰る。
正直言って、すごいの桁が外れていた。
「この町が火の海になるのも満更じゃなかった訳か……」
「え?」
その言葉に少女は疑問を持った声で返してくる。
「火の海にってのは私なりの冗句だったのですが……」
ユウトはその言葉に「いやいや」と、苦笑する。
「冗句にしては不謹慎だろ! それになんの面白みもないぞ!」
ユウトが笑いのどうこうを言える立場ではないが、火の海はどうかと思った。
「なぁ、、、」
ユウトの無常な一言に少女は膝から崩れ落ちる。
そして地面を叩きながら。
「私の渾身のギャグだったのにいいいい!!」
ギャグって。
ユウトはまた突っ込もうと思ったが、これ以上したら少女の心をえぐり取る勢いだったので速やかに辞めた。
「それより、なんで俺をここに呼んだんだ?」
単純にそれが聞きたかった。
渾身のギャグなど正直どうでも良い。
その問いに少女はハッとして身なりを整える。
どうやら少女自身もその事を忘れていたようだ。
「単刀直入に言います。私の師匠になって下さい!」
ユウトはその言葉にまた目を見開く。
そして同時に聞き間違いだと思った。
だってそうだ。
ユウトは人間チャッカマンのような小さな火しか生み出せない。
そんなユウトに弟子入りなんて、バカでもそんなマネはしないだろう。
そうか、私が師匠。
私が師匠になってあなたに魔法を教えます。
そう言ったに違いない。
いや、それしかない。
その時、ユウトは酷い記憶改竄をしていた。
そうでもしないとこの状況に納得する事ができなかったからだ。
「私の師匠になってくれますか?」
二回目の質問でようやく気がつく。
これはマジの奴だ、と。
ユウトは今、桁違いの魔力を持った少女に弟子入りを申しこまれている。
「なんで俺に?」
ユウトにはただそれだけが疑問であった。
その問いに少女は真剣の眼差しでこちらを見て、自分自身の事を話してきた。
「実は私、第一魔法しか使えないんです!」
「……え?」
突然の告白にユウトはそんな拍子抜けな言葉しか出なかった。
「まぁそんな反応になりますよね……。こんなに膨大な魔力を持っていながら第一魔法しか使えないのですから……」
勝手に悲しんでいる所悪いが、全く話が読めない。
目の前の少女が膨大な魔力を持っているのは先程の火柱を見て認める。
認めるが、そもそも第一魔法ってなんだ。
「一つ、質問いいか?」
「どうぞ!」
「第一魔法ってなんだ?」
ユウトがその事を聞くと、ようやく自分が言っている事に気がつく。
「すみません。説明不足でした」
少女は笑いながら説明してくる。
「第一魔法はさっき見せたように魔力をただ魔法に変換するものです。言い換えると一つの命令で済む魔法のことです。その他にも二つの命令で生み出す第二魔法、三つの命令で生み出す第三魔法、それ以上の命令で生み出す第四魔法があります」
そこまで聞いてようやく納得する。
どうやら魔法には、四つの性質があり、それは命令数で決まるらしい。
よく考えれば、命令が多いほど難易度が難しくなってくるのだろう。
そんな事を思っても魔力が101ぽっちしかないユウトには関係のない話だ。
そう、関係のない話なのだ。
「そして、あなたが使っていた魔法は第4魔法。いや、それ以上です!」
ユウトはその事を聞いて唖然としていた。
ユウトがこの場所で使った魔法は、小さな火を出すだけの魔法だった。
少女で言う所の第一魔法。
いや、それ以下だ。
「私の魔眼では、あなたの大きな魔力を見る事は出来ませんでした。それに、魔法であんなに大きな爆発を生み出し、そして爆発の連鎖、どんな命令をしたらそんな魔法になるのか私には分かりません!」
少女は酷い誤解をしていた。
少女の魔眼とやらが本当だったとしたら魔力を見る事ができないのはユウトの魔力が大きい訳ではない。
小さ過ぎて見えなかったのだ。
更に言えばユウトは魔法に命令など一切していない。
爆発の連鎖は『スライスの心』の性質の一つのだ。
ユウトが凄いのではなく、凄いのは『スライスの心』だ。
「あ、あのな………」
ユウトが弁解しようとした時、少女は更に話を進めてくる。
「なので私を弟子にしてください! 私もあんな魔法が使いたいです!」
少女の目はキラキラと光り眩しかった。
ここまで来たら、弁解など不可能だ。
魔法なんて感覚さえ教えたら勝手に強くなるだろう。
それにパーティーでも、魔法を使える奴がいない。
師匠になるのは気が引けるが、こうなってしまったら仕方がない。
それに少女は、いろんな所が抜けてるから、魔法をほぼ使えない事なんて見抜けないだろう。
「よし。いいだろう。俺がお前の師匠になってやる。えーとフィーナだったけ? これからよろしくな!」
「はい。フィーでいいですよ」
師匠になると言った訳か、フィーナの言葉はさっきまでの覇気が感じられなかった。
次の瞬間、フィーナはなんの前触れもなく突然前のめりに倒れた。
突然の事に一瞬思考が止まる。その時間わずか一秒。
一秒後ようやく事の次第を確認する事ができ、直にフィーナの元に駆け寄った。
「フィー! 大丈夫か?」
返事もない、反応もない。
「どうしたんだ! さっきまで元気に―――」
いきなり誰かの腹の虫がなった。
「お腹が空きました……」
「紛らわしいわ!」
腹の主と声の主の正体がフィーナである事に突っ込みを入れる。
しかしユウトはその事にホッと肩をなでおろし安心していた。
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