第43話 洗礼と告白 1
「え!?」
クラス中に、健次郎と善幸の声が響いた。二人とも大きな声を出したので、クラスの人間はチラッとこちらを一瞥した。
「声が大きいよ」清人は言った。
清人は、この場に真子や一花が居なかったのを感謝した。いや、一花には伝えるつもりだったが、二人はちょうど次の授業のため教室を移動していた。
「いやだって、驚くだろ!」
「そうか、清人もとうとう告白したのか……良いね!」
善幸は親指を上げた。
「で、結果は?」健次郎は尋ねた。
「OKされたよ」
清人は二人が口を開く前に、二人の口を手で塞いだ。これ以上大声を出されたらたまらないと思ったからだ。
しかし健次郎と善幸は清人に口を手で塞がれながらも、清人の肩を叩いたり良いね!ポーズをしたりした。口に出さずとも清人のことを祝福しているのが明らかで、清人は少し嬉しくなった。
「……しかし、なぜ箱根に?」
清人が口から手を離すと、善幸は尋ねた。
「ああ、ちょっと話すと長くなるんだけど……」
清人は昨日の出来事を二人に話した。流石に告白の場面を事細かに説明する勇気は無かったが、昨日の大まかな流れと、その結果告白をしたことについては手短に説明できた。
「そうか、大変だったな」
「いや清人よ、男を見せたな!」
二人は清人を労ってくれた。
「そうかな、ありがとう」
「……でも、俺は嬉しいよ」健次郎はボソッと言った。
「嬉しいって、何で?」
「横浜デートの時は俺たちに全然話してくれなかったじゃんか。昨日のことをこうやって話してくれて、嬉しいんだよ」
確かに、と清人は思った。横浜デートの時も隠しているつもりはなかったが、今こうして二人に昨日の件について普通に話せている自分がいるのに清人は驚いた。
でも清人は、健次郎と善幸、それと一花に隠し事をしたくなかった。
一回それで痛い目を見たのもあるが、清人は何より今まで以上に三人を信頼するようになったのだと思った。
そして、ここまでの信頼関係を築けるようになったのは、他ならぬ真子のおかげだと清人は考えた。
「そうだな、春川さんに感謝しないと」清人は答えた。
「本当だな」健次郎は微笑んだ。
「でも、少し残念ですな。せっかく二人が恋人同士になったのに、一緒に帰れないなんて」
「ああ、確かに」健次郎は答えた。
「……そうだな、今日から春川さんはまた車で送迎だから」
「しかし、春川さんのお父さんも過保護だな」
「確かに! でも、男親というのはそういうものではないか? うちの父親も姉には相当甘かったりするぞ」
「……そうかもな」清人は答えた。
三人がそんな会話をしているとすでに次の授業が始まりかけていたので、三人は慌てて教室を移動した。
昼休み。清人はまた以前に来たことのある空き教室へと向かった。空き教室に入ると、そこには健次郎と善幸、さらには一花の姿があった。
一花は清人が教室に入るなり、清人に近づいて
「おめでとう!」と満面の笑みで清人の手を握った。
一花は人の好い笑顔で清人を見つめていた。
「ああ、ありがとう。二人から聞いたの?」
「いや、春川さんから聞いたの!」
「春川さんは何て?」
「昨日賀野君と二人で箱根に行って、そこで告白されて付き合うことになったって」
「ああ、そうだね」
「何か凄く嬉しそうだったよ!」
一花がそう言ってくれたので、清人も少し嬉しくなった。
「でも、今日から春川さん、またお父さんの車で送り迎えされるみたいだから、一緒に帰れないってちょっと残念がってたな」
「やっぱ春川さんもそう思うよな」健次郎が口を挟んだ。
「……お父さんのことは、それだけ?」清人は尋ねた。
「うん」
清人は少し考えた。真子は、今日からまた車で送迎されることを一花には言ったようだが、五人で一緒に集まったりすることが今後難しくなるということは言ってないように思えた。
(本人としても、言い辛いだろうな)清人はそう思った。
「分かった蘇我さん、ありがとう」清人は答えた。
「何かあったら私たちも協力するからね! 遠慮なく言ってね」
「まあそうだな、いつでも相談に乗るぜ」
「これでも多くの店を新聞部で取材しているからな。良いデートスポットも教えるぞ!」
三人はそれだけ言い残して、空き教室から出ていった。清人は一人教室にぽつんと残された。
三人は三者三様に祝福し、エールをくれた。三人の笑顔と祝福の言葉が、清人の頭の中でいつまでもこびり付いていた。
清人は空き教室の壁にもたれかかりながら、
(本当に、良い友達だ)と思った。
自分と真子のことを茶化す訳でもなく、真摯に応援してくれて、自分のことのように喜んでくれた。
清人は三人のエールをいつまでも思い返し、そして一つの決心をした。
(やっぱり、また五人で集まれるよう、春川さんのお父さんに直談判するべきだ)
真子のため、友のために、清人は真子の父に宣戦布告をする覚悟を決めた。
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