第12話「プロへの道」
「さて、皆さんやる気になってこれからの予定を話そうとしている所悪いのでござるが、拙者はもう帰るでござるよ。明日にはロードマップを届けたいですし」
「ん、ああ。問題ないんじゃないか」
『何故まだいるんだ?』
「辛辣っ! 男子が冷たいでゴザル。うぅ。拙者の味方は秋月丸殿とアリス殿だけでござるよ……」
メソメソとあからさまな嘘泣きをしながら、忍者はアリスにもたれかかるように移動した。てか「メソメソ」って口で言うものじゃないだろ。
「えっと、いじめちゃ駄目ですよ」
「いけー! アリス殿もっと言ってやれー!」
「……秋月丸は優しいんじゃなくて忍者に興味ないだけだけどな」
「うわーん! 今日はこれにて失礼! 傷心を癒やさねば」
次の日。
「なんか可愛い子が陽清の事呼んでるけど、知り合い?」
授業が終わり、放課後。真那がそんな事を聞いてきた。
俺が学校で交流があるのは真那くらい。呼んでくる様な知り合いはいないと思うが、誰だろうか?
廊下を見ると、扉の前に忍者が制服姿でこっちに向かって小さく手を振っていた。
「……知らない人だ」
「じゃあ別のクラスの陽清君と間違えたのかもね。伝えてくるよ」
……何でアイツウチの学校にいるん?
この前もウチの制服着てたけど、潜入捜査的なやつなのか?
真那が忍者に人違いじゃないかという話をし終えたのだろう。困惑した表情を浮かべて、教室の中に入ってきた。
「酷いですよ。人違いなんて」
「……だそうだけど」
忍者の悲しそうな表情を浮かべ、真那がジト目で俺を攻めるように見てきた。
「悪い悪い冗談だ。に──聖羅」
忍者と良いかけたら胸の前で指をクロスさせバッテンを忍者が作り、こういう時は聖羅と呼べと言われたことを思い出した。
「名前呼び!?」
小さな声で真那が驚いている。後で色々聞かれそうだけどなんて説明するか……。
「それでどうしたんだ?」
「早くダンジョンに行きたいだろうと思って例の物を持ってきました」
「もう出来たのか!?」
「はい。ここじゃちょっとあれですし、この階の空き教室で待ってますね」
忍者はそう言って教室を去っていった。
「ねぇねぇ、あの子どういう知り合い? 陽清に女の子の知り合いとか珍しいけど」
「お前、知り合いが男子でも同じこと言うだろ」
「あ、バレた?」
「どんな知り合いって聞かれたらそうだな……ダンジョン関係の知り合いかな」
「ふーん。話し長引きそう?」
「多分すぐ済むだろうけどま、時間はたっぷりあるんだし集合は5時辺りでいいか?」
「りょーかい。じゃあね」
そう言って真那と別れ、俺は忍者のところへ向かった。
◆
「なんでウチの学校にいるんだよ……!」
「そりゃ、私もこの学校なので」
空き教室に移動すると、忍者はお淑やかな雰囲気を止めて陽気な様子へ代わり、グッと親指を立てた。
「改めて自己紹介を。一年二組の水川聖羅でござる。よろしく先輩」
本当にこの高校に通っていたのか。てっきり忍者用の変装だと思っていた。
「よろしく後輩。それで、それで、本当にもう出来たのか?」
「モチのロンでござる」
例の物。それは俺が一昨日頼んだBランク冒険者までのロードマップだろう。
忍者はしゅるりと、カバンから巻物を取り出して広げ始めた。
今の時代によく巻物なんて用意できたな。自作か?
巻物に書かれていたのは長方形に囲まれた大会とダンジョン名が横線で繋がれていた。そして縦線も引かれておりそれはどうやら時間を表しているらしい。
「拙者の調査によると、一年もあればBランク冒険者になれるでござる」
「一年……か」
Bランク冒険者。冒険者を真面目にやっている人間のうちの殆どはCランク冒険者と言われている。
世の中で天才と持て囃されている人でも一年は掛かると言われているのがBランクだ。
そして最速記録ではその件で世間を騒がせた天才、神宮寺天司が6ヶ月という記録を立てている。
欲を言えばそのくらいの、半年で俺だって行きたい。
けど、ソコまでの才能が俺には無いことは分かってる。
そもそもBランクに行ける実力として見積もってもらってるんだ。
それで一年なら早いほうだろう。
「秋月丸殿達は出さないのでござるか?」
「アイツラは家で待機中」
「へぇ。そういうタイプでしたか」
「ま、隊長はパソコンに興味津々だったし、アリスも漫画読みたそうにしてたしな」
「そうでござったか。まぁ、問題ないでござろうし、話しておくでござる。まず。二週間後の【ビャルノ大会】優勝そして来月中にDランク+ダンジョンを3つ踏破。これでCランクに上がるでござる」
「上がれるのか? ランクの昇級って条件が明かされてなかった気がするんだけど」
「そうでござるね。けど過去の例から上がれる可能性は高いと思うでござるよ。無理だったら適当なダンジョン攻略すれば間違いない筈」
「それもそうか」
「それで次にCランクダンジョン二つとC+ダンジョン二つ踏破」
Cランクダンジョン。死亡件数がこれまでよりも跳ね上がる場所だ。入るためにはCランク冒険者以上である必要があるのにも関わらずだ。
C+ダンジョンというのはCランクがあまりにも危険すぎるという事で、その危険度をC-、C、C+で分けた物だ。
Cになったばっかの冒険者はC-に最初は挑むべきなのだろうが……。
「それでCランクになったら私の指定する大会に二つ優勝してもらうでござるよ。それで十ヶ月後に開かれるギルド主催の【新人Cランク冒険者決定戦】で優勝してもらいます。他の大会は正直挽回がききますが、この大会にだけは絶対に優勝してください」
「随分とそのギルド主催の大会に拘るんだな。何かあるのか?」
「優勝商品としてBランクダンジョン挑戦権を与えられるのでBランクダンジョン【骨墓】と【ネレム街】の踏破。これでBランク冒険者になれる可能性高いでござるよ」
一年。早いとは思っていたがその理由が分かったな。
普通、Cランク冒険者はCランクダンジョンまでしか入れない。
Cランクのままより上のダンジョンに入るには特例が必要だ。
冒険者ギルド主催の大会に優勝し、その特例を手に入れる。
そこでBランクダンジョンを踏破し、証明するというわけか。
俺がBランク冒険者に相応しいと。
「……」
「纏めるとCランクダンジョン4つと大会3つ。Bランクダンジョン2つ踏破でBランクでござるよ」
考えすぎていつの間にか思考停止していた。こうして具体的に道筋を並べられると壮絶だな。
考えるだけで吐きそうになるスケジュールになりそうだな。
「ちなみに、もう一つ巻物があるでござるよ。こっちは実力をもう少し低めに見積もったものでござる。見るでござるか?」
「なっ。そんなの頼んでないぞ」
「サービスでござるよ。もし片方だけの巻物に無理してしたがって死んでしまうのは嫌でござるからね」
「……ありがとう」
正直、どちらの巻物に従うことになるというと、まだ見てない実力を低く見積もった方だろう。
しかし、それでも俺は最速を目指したい。
大丈夫だ。焦ってるわけじゃない。ダンジョンじゃないのだから危険だと判断したら降参出来る。ランクも低いから一撃必殺! みたいな技もないだろう。
だから、挑戦しよう。
「けどそれは次の大会で負けたら見させてもらうよ」
「ありゃりゃりゃ。それは残念。この巻物が日の目を浴びることは無さそうでござるな」
その言葉に思わず苦笑してしまう。俺としてはその巻物に期待しているんだけどな。
「優勝できるか分からないぞ? 忍者的には俺は優勝できそうなのか?」
「んー、秘密でござる。ただ、期待もしてるし、願ってるでござるよ。誰だって知り合いを応援したいものでござるからね」
こうも正面切って応援していると言われると、少し照れてしまう。
当の張本人である忍者は飄々とした様子を引っ込め、眠そうにしていた。
「おっと、気が抜けて眠気が……」
このロードマップを作る労力は相当なものだったろう。しかもまだ見てないもう一つの巻物まであるのだ。
学校に通いながらここまでの作業。睡眠時間を削っていたのだろう。
「陽清殿、すまぬが今日はダンジョンに着いていけなさそうでござる……。ちゃんとハンカチティッシュを持って行ってくるでござるよ」
「お前は俺の母親か。それより自分の体を心配してくれ。それに今日はダンジョンに行く予定はない」
「この後暇なら良かった。これ、昨日言っていた美容院でござる。アリスちゃんを連れていくでござるよ」
そう言って少し微笑むと巻物一冊残して忍者は少し遅い歩みで空き教室を出ていった。いつもならこれにて御免! なんて言って消えるのに。
……カラオケまで時間あるし、美容院くらいなら連れていけるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます