第13話「美容院」

「うーす。帰ったぞー」


 親は仕事だろうし、今家にいるのは秋月丸達だけだろう。いつもならハッハッハオヤツくれと秋月丸が出迎えてくれるんだが、今日はその様子がない。

 何かあったのか? 手洗いを済ませ俺の部屋に行くと、部屋からゲームの音が聞こえてきた。


「ていっ。やぁ! あぁ。このっ」

「何やってんだお前ら」


 部屋に入るとアリスと隊長がゲームをしていた。てか隊長よく二本指なのにコントローラー使えるな。


「ひゃ! お、おかえりなさい」

「あ、ああ」


 学校から帰ってきておかえりなさいと言われるのが新鮮すぎて少し懐かしい気分になってしまう。


「いいのか? 隊長に負けるぞ」

「ああ! 隊長さんタンマタンマです!」

「戦いの世界にタンマはない」

「大人気なっ」


 俺もゲームを見ているが、大将が圧勝していた。

 俺も真那とたまにこのゲームをやってるから分かるが、単純にアリスが下手だな。俺が声がけしなくても負けてただろう。

 むしろ隊長がうますぎる。二本指でどうしてんだよって思ったが、同時に押すボタン少ないし、なんとかなるのか。


 ロボットだからこその反射神経とかも正確な操作などがあるのかもしれない。

 そういえば、隊長には『発声装置』を取り付けてある。効果時間を知りたくて学校の昼休みの時に使用したのだが、意外と持つな。

 学校からの距離でもアイテムメダルは正常に使えることも実証できたし。


「俺の勝ちだ」


 2P Win

 大将が勝利し、アリスが悔しそうにクッションを抱えた。


「次は負けませんからね」

「そのセリフ、10回以上聞いたぞ。次も俺が勝つ」

「一度くらい勝たせてくれても……」


 スネたようにアリスが言う。

 えっ? 何この雰囲気。めちゃくちゃ仲良くなってるじゃん。俺が学校に行ってる4時間の間に何があったの?

 嬉しいが少し仲間はずれにされたみたいで少し寂しいな。


「次はえっと、マスター? の番ですよ」

「別に呼び方は何でも良いぞ」

「えっと……じゃあ陽清……君?」


 ちょこんと首を傾げるアリスに少し、ドキリとしてしまう。

 てっきり名字か召喚者さんなどで呼ぶタイプだと思っていた。

 忍者が俺のこと陽清殿って呼ぶからその影響か……?


「お、おう」


 何でこんな時に忍者はいないんだ。いたらきっと、お? お? 照れてるのでござるか? なんて場を賑やかしてくれるのに。


「それで、やりますか?」

「いや、やらない。それとアリスに聞きたいことあるんだけど」

「何ですか?」

「忍者から美容院紹介されたんだ。行かないか?」

「お金大丈夫なんですか……?」


 お金がないアピールをしすぎたかもしれない。心配そうな目線を向けられると情けなくなってくる。


「別に髪切るくらいの金はあるから心配しなくていい」


 前回のダンジョンでの収益に加え、親にダンジョンのことを伏せて今まで貯めていたお年玉貯金をもらう事になったので、少しリッチなのだ。

 それなら昨日の命がけの戦いは何だったんだってなるが、隊長の言う通り焦っていたのかも知れない。一日たりとも無駄にしたくなかった。

 それに10万円じゃ、やっぱり同じことしただろうしな。

 話を戻そう。

 普段床屋で済ませてしまうせいで美容院での料金があまり想像がつかない。


「やっぱり長いでしょうか?」


 眼が隠れるほどの前髪に触れながらアリスは聞いてくるが、俺としては戦闘の際に邪魔になりそうな長さだな、としか思わないな。

 けど、同性から見るとやっぱりお洒落の面からなにか問題があるのかも知れない。


「じゃあ切ってみます。聖羅ちゃんからの紹介ですから」


 髪を伸ばしていることに何か拘りがある訳でもないのか、アリスはすんなりと頷いた。


「俺は行かなくて良いのか?」


 低ランクの『発声装置』のせいで、音質の悪い隊長の言葉にアリスは困惑して反応に困りながら、隊長の頭を見ている。 

 秋月丸がそんな彼女を助けてやれ、と呆れた視線を向けてきた。

 いや、俺もこの冗談? にどう反応すれば良いのが正解なのか分からないんだが……。


「隊長髪無いだろ」


 率直な言葉を伝えると、隊長は眼をピカっと光らせた。


「誰がハゲだ。俺はそんな──いや、そうだな。俺はロボットだった」


 自分のメタルな頭に触れて、隊長は少し変な様子になった。あれは冗談ではなかったのか。


「切る髪ないし、隊長は部屋で遊んでてくれよ。オセロとか将棋とか、二本指でも遊びやすいゲームもPCならいくらでも出来るだろ? 俺は美容院に行ってその後友達とカラオケ行ってくるから」

「把握した」

「ガウッ」


 という事で、外に出たんだが……。

 少し、居心地が悪い。

 というのも目立っているのだ。

 俺、とういよりもアリスが。


 キャラだからというわけじゃない。若い女がボロボロな、彩りも若い女が好んで来なさそうな鼠色だからだ。どっちかと言うと男が付けてそうな服だな。

 自分が目立っていることが恥ずかしいのか、アリスは人目を避ける用に俺のそばに寄ってきている。


「服も買おうか」

「い、いえ大丈夫です」

「けどそれボロボロだし。戦ってる最中に破れたりしたら大変だろう?」


 キャラクターの服装は基本的に固定されている。例えば破れたとしても一度メダルに戻れば怪我と同じ用に徐々に修復されていく。

 そこで使うのがアイテムメダルだ。アイテムメダルをキャラメダルと連動させ、装備を変える事が可能だ。

 こんな軽装じゃあ戦闘中に大変だろうと、提案をしたがアリスは首を振って拒絶する。


「見た目は悪いですけど、この服ってすっごく頑丈なんですよ。師匠が元々使ってた物で、結構質がいいんです。見た目は悪いけど」


 見た目滅茶苦茶気にしてるじゃん。時折見かける若い子達が来てる可愛い服をチラリって見てるの気がついてるんだからな。

 元々Cランクキャラを当てるためにもっと金がかかると思ってたんだ。その分のお金を服に使うくらいしてもいいだろう。


「って、着いた……のか?」


 話をしていたら地図に記された場所についた。ついたの……だけど。


「和風な家ですね」


 勝手なイメージだが美容院とは洋風なイメージが強い。少なくとも瓦があったり、門があったり、松の木が植えてあったりはしない。

 床屋なら赤青のグルグルで見分けることも出来るが、ここにはそれは愚か看板すら無い。本当にお店なのか? 民家じゃないよな?


「にゃんだ。はいらにゃいのか」


 俺たちが入るか迷っていると頭上から声がかけられる。

 頭上? 

 上を見ると門の上に一匹の白猫が俺達を見ていた。


「この猫ちゃん、喋りませんでしたか?」

「猫がしゃべるなんて珍しくもにゃぁぁぁぁいだろ」


 あくびをし、体を伸ばしながら気持ちよさそうな腑抜けた声を出して白猫は俺たちを見つめてきた。


「お前たちが忍びの言ってた二人組みにゃろう? そっちのお嬢ちゃんがキャラクターかにゃ?」

「は、はい!」


 手をワサワサさせながら目を輝かせて返事をするアリスに白猫は引いていた。


「触らせにゃいぞ?」


 ガーンと落ち着くアリスを傍目に、俺は気になったことを聞く。


「忍びって女の忍びの事か?」

「にゃんとも」


 何? 忍びってそんなに正体知られてるものなの? アイツちゃんと忍べているのか。


「それで、入らにゃないのか?」

「ここが美容院であってるのか?」

「にゃんとも」


 にゃんともを便利に扱いすぎだろ。肯定なんだろうけど分かりにくい。


「じゃあはいらせてもにゃ……もらう」

「うつったにゃ」

「うっせ。アリスもそんな眼で見ないでくれ。恥ずかしい」


 誤魔化すように俺は足を早めて門をくぐる。

 門をくぐるとようやく美容院だと確信が持てた。

 途中で分かれ道になっていて端の方に正面の玄関とは別の入り口があって、看板が掲げられていた。


「分かりにくっ」

「まぁ、ここは招待されたにゃつくらいしかこにゃいからにゃ。にゃに、にゃみみたいにゃにゃなにゃからにゃにももんにゃいにゃい」


 何言ってるんだコイツ……? 

 

 中に入ると木目が多い落ち着いた雰囲気の床屋みたいな場所についた。

 俺の通ってる床屋とは違うな。漫画は少なく、雑誌だらけだ。しかも男向けじゃなくて女向けもある。

 そしてそんな部屋の中心では髪を上げ、メッシュを入れた黒髪のカッコいい男が立っていた。


「お前が忍びの言う新米か。よく来た。今は丁度客がいない。髪を切るのはそっちの女だな。ここに座れ。ああ、心配するな。俺もメダルキャラだ。どうすればいいのかは分かっている」

「マスターは何処に居るんだ?」

「奴なら裏で寝ている。なんだ、お前も髪を切りたいのか? 残念だったな。俺は気に入った人間の髪しか切らない。俺に切ってもらいたいのならここの常連になることだな」

「いや、別にそういう訳じゃないんだけど……」

「何!? この俺に髪を切られたくないというのか!?」

「何その反応!?」


 キャラ濃いなこのキャラ。ちょっとショック受けてるし。

 もしかして有名な美容師系キャラだったりするのか? 美容師系キャラなんて聞いたこと無いけど。


「客が来てたの。いらっしゃい」


 騒ぎすぎたからか寝ていたらしい美容師キャラのマスターらしき女性が眠そうにしながら出てきた。


「それで、どっちの髪を切ればいいの? どっちがマスター?」

「馬鹿め。見てわかるだろ。内包する力が違うわ」

「人間にはそんなのわからないわよ」

「いや、見た目でわかるでしょ」


 思わず口を挟んでしまった。

 男のキャラは眼を丸くし手をポンと叩いて俺を見て笑った。


「貴様、さては天才だな」


 こんな事で天才認定されてしまい、微妙な気持ちだ。

 この家にいるメダルキャラは性格が濃すぎないか?

 あのしゃべる猫も当然メダルキャラだろうし。


「話もここまでにして、仕事に戻るわよ。今日はキャラ……彼女の髪を切るって聞いていたけどアナタはどうする?」

「俺はまだ伸びてないんで大丈夫です。アリスだけでお願いします」

「ふむ。任せたまえ賢者よ。最高に可愛くしてやろう」

「よ、よろしくおねがいします」


 可愛くという言葉に反応し、アリスが不安そうに頭を下げた。


「どんな髪型がいい? 要望はあるか。そこに雑誌もある、選ぶが良い」

「えっと、オススメでお願いします」

「ククク……ハーハッハ! オススメを選ぶとはうい奴め。いいだろう」


 男は楽しそうに笑いながら髪を切っていく。

 そこでふと俺は疑問を憶えた。

 先程考えたように、キャラクターの服は基本的に固定されている。そしてそれは髪型も同じではないだろうか?

 例えば秋月丸なんて何十年も生きているが、毛を剃っている所なんて見たことがない。アレ? けど抜け毛はあったよな?


「かわいい自分のキャラクターがどうなるか不安?」


 俺がアリスたちを注視していた事が気になったのだろうか。

 店主兼美容師キャラのマスターであろう女性が声をかけてきた。


「いえ、キャラって髪を切っても再生しちゃって意味ないんじゃないかなって」

「普通はね。だから私達がいるのよ。今髪切ってるアイツはBランクキャラで、その能力とアイテムメダルを使えば大丈夫ってわけ」

「Bランクキャラ!?」


 あの変人、Bランクキャラだったのかよ。なんで美容師なんかやってるんだ。

 美容院の事はよく分からにし、見ていても暇なだけ。スマホで暇をつぶしていてもいいが、少し気になることがあった。


「店主さんって忍者だったりしますか?」


 俺のそんな言葉に、店主は虚をつかれたように目を丸くすると、クスクスと笑い始めた。


「私は忍者じゃないよ。まぁ、同業みたいなものだけどね」

「同業?」

「侍よ。槍だろうと剣だろうと使うから戦士って言ったほうが正しいのかも知れないけど」


 侍!? 

 あれって本当に居たのか。メダルキャラだけじゃないのか。


「忍者の隠密ってCランク並みって思うんですけど、ちなみに店主さんは」

「ハハッ。アレと比べられても困るよ。あの娘は本物の天才。私はDランクと死闘をするレベルよ」


 いや、Dランクと死闘出来る時点でヤバいですよ。

 この人にこう言われるとか忍者はマジで凄いんだな。


「ま、けどそのおかげか冒険者業も結構良いところまで行けたんだけどね。Bランクも期待されてたんだから」

「もしかしてあのキャラも」

「そう、ドロップしたの。それでやりたいこと見つけて今はあんまり潜ってないから、Bランクは無理だろうけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る