第11話「大会の情報」
「大会?」
そういえばアリスがCランクだと判明した際にそんなこと言っていたな。
それにしても大会か。
冒険者がダンジョンばかり挑んでいると思ったら間違いだ。むしろ一般人へのイメージはこちらの方が印象が強いかもしれない。
ダンジョンでの動画撮影はそこそこ頻繁に行われているが、Cランク以上の冒険者の動画というのは少ないか加工や隠蔽が大量に入っている。
理由は簡単。情報は売れるからだ。
それに対人戦闘なんて大会じゃないと見られないだろうしな。
「そう、大会でござる。Dランク以下で冒険者になってから半年未満の冒険者のみが参加可能なトーナメント戦の団体戦で三人制でござるよ」
「って事はライフ制じゃないのか」
メダルバトルでの大きな分け方をすると二つある。
一つが、ライフ制。ダンジョンと同じ様に、召喚者も戦場に出て攻撃される危険性が伴うものだ。
召喚者はメダルキャラの生命線。つまりやられたら敗北扱いになる。なので戦闘員であるメダルキャラを全員倒すのではなく、召喚者を狙う作戦を立てることが出来る。
もう一つは具体的な名前は決まっていないが、純粋なメダルキャラ同士の戦いで勝敗を決めるものだ。
こちらは召喚者への攻撃は認められていない。今回はこちらのようだ。
三人制という事は剣道とかの様に先鋒、中堅、大将と一対一で戦い、先に二回勝ったほうが勝ちということになるだろう。
「それで、キャラ制限は登録時点でCランクメダルキャラ一枚に、Dランクメダルキャラ二枚でござるよ」
「ああ、だからアリスがドロップして良かったって言ってたのか」
この大会だと、Cランクメダルは必須らしい。大会が開かれるのは十日後。
運が良くなければ十日後までにはCランクキャラメダルは手に入らなかっただろう。
「一試合につき使用スキルメダル・アイテムメダル・マジックメダルはC級までの制限で9枚までござるよ」
「ちなみに、試合間隔は」
「決勝は試合終了二時間後。それ以外は最低30分の空き時間があるだけで、大会の進行次第でござる」
「……そういう事か。何でこの大会を勧めるのか理由がわかったよ」
まず、メダルキャラの登録が三枚であること。そして各試合でスキルメダルの制限がある事だろう。
現状、俺の一番の問題は金銭だ。
メダルキャラの敗北とは何を表すか。1つ目が降参だ。召喚者が勝ち目が無い
と判断した際にするもの。
そしてもう一つがメダルキャラにとっての死。メダルが割れることだろう。
メダルが割れる。要は人間のように死ぬほどのダメージを受けるとメダルキャラはダンジョンのモンスターのように死体を残さない。
残すのは彼らが入っていたキャラメダルの残骸。真っ二つに割れたキャラメダルだったモノだけだ。
「キャラメダルが3枚で済むなら、陽清殿も質の高いスキルを集められるでござろう?」
もしこれが、各試合Cランクメダルキャラ一枚、Dランクメダルキャラ2枚であったら。
どれだけ損傷を受けたとしても次の試合では別のキャラを召喚するという事が可能になっていた。
試合間隔は30分。毎回メダルにキャラたちを戻しても、完全回復は出来ないだろう。
俺は傷ついたキャラで。相手は無傷なキャラで戦ったら不利なのは当然俺達のほうだ。
「だいたいどのくらいの人数が集まるか分かるか?」
「うーむ、結構厳しい条件でござるが、泊のある大会ですし十名くらいは集まるのでは?」
十人か。随分と少ないなと思ったが、考えてみれば条件が結構厳しいので当然か。
特に厳しいのが冒険者になって半年未満という点だろう。半年未満の冒険者でCランクメダルキャラを持ってるのは余程運がいい人間か、本物の天才か、金持ちくらいだ。
Cランク冒険者までは誰でも行けると言われている。余程才能がなくても時間をかければ行くことは可能だ。
そんな領域に金持ちと天才はすぐに到達することが出来る。金持ちは潤沢な資金で用意したメダルパワーで。天才は純粋な実力で。
「泊がある?」
「そもそも、この大会が開かれるようになった経緯なのでござるが、五代前の皇様の弟君が幼い頃、冒険者としての実力を知りたいって事で開かれた大会なんでござるよ」
そういう経緯がある大会だと知ると大会参加条件が厳しい理由を邪推してしまう。
もしかして王子様を優勝させたくて強い人が参加しない様にしたんじゃないよな……?
「あの、もしかしてなんですけど。その大会って私も出るんですか?」
不安げにおずおずと手を挙げるアリス。立っているのは疲れるからかベッドに腰掛けていた。
「そうだぞ。なんなら主戦力だ」
基本的にランク=キャラの強さと思っていい。実態はどうあれ、周りはそう思ってアリスを警戒するはずだ。
「む、無理ですよ。モンスターですらようやくちょびっとだけ倒せるようになったのに……」
『わからないな』
弱気なアリスを尻目に、隊長がそんな事を言いだした。
『その大会とやらに何故参加する?』
「優勝賞金として20万、さらにBランクマジックメダル一枚が貰えるでござるよ。2位だと20万だけでござるが」
「二位だと旨味なさすぎるだろ。それ赤字だぞ絶対」
『その様子、明らかに優勝賞品について知らなかったな。他になにか目的があるのか?』
その言葉は何処か刺々しい。
「隊長は大会に出るの反対なのか」
『大将の命令なら従う』
「いや、そうじゃなくて隊長がどう思ってるか聞きたいんだよ」
そもそも命令とかそういう事を意識したことがない。けど、メダルキャラにとっては俺の言葉一つ一つが命令みたいなものなのか……?
今まで俺の出会った……あんまり言いたくない言い方だと使役してきたメダルキャラは全員強い絆で結ばれていた自信がある。
だが、そうでなければ俺の言葉は色々な受け取り方があるのかもしれない。
『大将、アンタは何をそんなに焦っている?』
「俺はBランク冒険者にならないといけない」
『ああ。そのランクやらは知らないが、そんなに急がないといけないものなのか? 嬢ちゃんの強さを確認もしていないのに』
焦っていると、何度も自分に言い聞かせた。せめて隊長の前では焦らない様にしようとしていたが、それはハリボテに過ぎなかったってことか。
まだ、俺は焦っている。
「仲間が……友達が待ってるんだ。俺が迎えに行くのを」
アリスが何の話だか分から無さそうに首を傾げた。
そして大将は
『そうか。ならいい』
思ったよりもすんなり引き下がった。
「おほー。そういうタイプでござるか」
そういうタイプってどういうタイプ何だ。俺よりも隊長の事を理解できているようで少しモヤモヤしてしまう。召喚者として少し情けないぞ。
『その話は今度聞かせてもらう。今はそれより、今後の事を話すほうが先決だ。目指せ大会優勝。無茶な任務だが、成し遂げてみせる』
「あの、事情はよくわかりませんけど、お友達のために頑張らないと行けないんですよね?」
「あ、ああ」
「怖いし、不安だけど、頑張ります」
少し不安そうだけども、拳を胸の前で握ってアリスが俺を真っ直ぐと見た。
なんでそんな眼を向けてくれる。俺は事情なんて殆ど話していない。
「いい仲間を当てたでござるね。陽清殿」
「皆、ありがとう」
まだ二人のことはしっかりと理解できていない。けど、この二人となら行けるかもしれない。そう思えるようになった。
今は感謝の気持でいっぱいだ。
ふと、秋月丸を見ると好物のジャーキーを食べながら俺の端末で動画を見ていた。
俺の感動を返せ。
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