第10話「世界の秘密①」

 あの後はすぐに赤塚ダンジョンを出た。

 秋月丸はもうメダルの中。疲れただろうし、休んでもらっている。 

 それにこっちについてからは俺の仕事しかないしな。

 普通にダンジョンから帰ってきただけならそのまま帰ってもいいのだが、今回俺はボスを討伐した。

 という訳でギルドにその事を報告しなければならない。

 これで少しだけでも俺の評価が上がってEランクにでも上がって欲しい。

 流石にDランクダンジョンのボス倒したんだからEランクには上がれるよな……?


 報告が終わり俺の懐事情を考えると、とんでもない物を手に入れてしまったと、手が震えそうなのを隠しながら俺はそそくさと家に帰宅した。

 どうやらまだ両親は帰ってきていないらしい。


「やっべぇ」


 必死に隠していたニヤニヤを表に出してメダルを改めて見る。


「嬉しそうでござるねぇ」

「そりゃ、最低でも後2週間は掛かると思ってたし」

「ほー。けどこれであの大会に間に合うでござるな」

「大会?」

「後で話すでござるよ。それで、出さないのでござるか?」


 こうやってもったいぶられたら気になってしまうが、忍者に予定を組むように頼んだのは俺だ。おとなしく待っておこう。


「出すよ。出すけどその前にネットで調べておこうと思って」

「そもそも、なんてキャラだったので?」

「【モンスターハンター見習い】らしい」

「ほー。忍び系ではないでござるね。記憶にござらん」


 スマホで調べていくと次々と情報が出てくる。


【モンスターハンター見習い】 

 Cランクメダルキャラ。

 人間タイプで性格は様々。

 モンスタータイプとの相性が良く、ダンジョン探索で活躍が期待できる。

 相性の良いスキル────

 考察───


「よし、会ってみないと分からないな」

「ダンジョン探索には強そうでござるね。特に、モンスターと相性が良いという部分。陽清殿はダンジョンには積極的に潜っていくのでござるよね?」

「そうだな。やっぱりこれからの活動には金もかかるし、資金調達は主にダンジョンになると思う。大会は優勝できるか分からなくて博打になるし」


 例えば今回の活動を見てみよう。消費したスキルメダルはDランク10枚。そして得たスキルメダルはEランク1枚に、Cランクメダルキャラ1枚。

 運良くCランクメダルキャラが出てくれたから、成果としては上々となっているが普通だったら大損害だ。 

 普通だったらあそこで得られたのは良くてDランクキャラかスキルだったろう。


 今回のダンジョン探索の目的はボス退治。だから道中はモンスターと戦わない様にしていたが、次からは敵をドンドン倒してドロップ品を得らないと辛いだろう。

 そんな堅実な事を考えていると、忍者は分かってないなーみたいな呆れ半分な様子で首を横に振っていた。


「そんな弱気じゃ駄目でござるよ。大会をドンドン優勝しないと、Bランクにはなれないでござる」


 言われて見ればそうだろう。俺が目指すBはそんなに優しい道ではない。大会を優勝する事だって通過点なのだ。

 そのためには、きっとこのCランクキャラには世話になるだろう。


「よし、そろそろ召喚するか」

「さっきみたいに喧嘩はしちゃだめでござるよ」

「ああ、大丈夫。さっきの反省を活かす」


 何故【アギダイン】とああなったのか。それは最初に話し合わなかったことだ。

 ダンジョンで召喚してしっかりと話す時間はなかった。それは良いわけだ。

 俺は焦り過ぎていたのだ。ちゃんと話す時間を作るべきだった。


「まずは秋月丸と【アギダイン】、出てきてくれ」


 これから背中を預け合う仲になるのだ。二人も気になるだろうと思って召喚する。

 【アギダイン】は完全回復とはいっていないが、少なくとも見た目だけは治ってるように見えた。視界を覗くと損傷率は30%となっている。

 そして『発声機』も効果時間切れでもうモニターの文字でのコミュニケーションに戻ってしまった。


「二人共、これから新入りをここに召喚するから」

『了解』

「ガウッ」


 こうやって見られながら召喚するのは少し照れくさい。注目されてるのはこれから呼ぶキャラだって分かってるんだけどな。


「じゃあ、出てきてくれ。【モンスターハンター見習い】」


 メダルが光り、現れたのは一人の少女。

 前髪が少し長くて眼が隠れた少女。近くに明るく元気な忍者がいるせいで余計に暗い印象を持ってしまう。

 そして腰には武器として二本の短剣が携えられていた。

 なのに防具らしき防具はつけられておらず、動きやすそうでボロボロな布の服を着ている。

 短剣を持っている事以外は普通の少女に見えるが、忘れてはいけない。彼女はCランクメダルキャラ。あの細い腕でもかなりの膂力が秘められている筈なのだ。


「あ、あの!」


 どこか緊張した面持ちで絞り出したような声を彼女は上げた。手を胸の前に出して少し顔が赤い。


「が、頑張りましゅ!」


 ……噛んだな。


「噛んだでござるね」


 忍者が指摘したせいで、只でさえ赤くなっていた顔が更に赤くなっていっている。

 前髪のせいで見にくいが、眼が少しウルウルしてるぞ。


「初々しい方ですなぁ」

「これ以上この子をからかうなよ」

「はーい」


 忍者への釘刺しも程々にして、俺は彼女の眼を見る。髪を伸ばしているのは眼を見られるのが嫌だからなのか、眼を逸らされた。


「俺は高原陽清。よろしく」

「よろしくおねがいしますっ!」


 手を伸ばすと彼女は一瞬躊躇った後、手を握って来た。

 よく考えると、女の子相手に握手はあんまり受けが良くなかったかもな。


「それで、名前を聞いてもいいか?」

「私は【モンスターハンター見習い】です」


 これは俺の求める答えではなかった。

 薄々こういう答えが帰ってくるとは思ってはいたが、やっぱりこうなったか。


「違うんだ。そうじゃなくて……」


 どう説明すればいいのか迷っていると、忍者が口を挟んできた。


「もういっそのこと拙者にした説明をしちゃえばいいんじゃないですか?」

「いや、それは……」


 忍者にした説明。それはメダルキャラに関しての大きな秘密を孕んでいた。いわゆる、世界の秘密ってい奴だ。

 この話を聞いて彼らがどう思うのか。俺には想像もつかない。

 どうしようか、そう悩み彼らの顔を見る。


 秋月丸はよく捉えると好きにしろとでも言いたげに、悪く捉えると興味無さそうに地面に寝そべっている。

 【モンスターハンター見習い】は首を傾げて俺の言葉を待っている。

 そして、【アギダイン】。彼は俺を見て、モニターに文字を表示させた。


『好きにしろ』


 その文字に含められた感情が俺には読めなかった。呆れか、失望か、無関心か。

 【アギダイン】とこんな風になってしまったのは俺のミスだ。

 焦りすぎていた。

 そう考えると彼らには聞く権利があるだろう。俺はこれから無茶をする。その無茶に巻き込むのだから。


「立ってるのもなんだし、座ろうか」


 それに【アギダイン】との身長差もある。

 俺の身長が175cmくらいだから、【モンスターハンター見習い】の身長が160cmくらいだろう。


「今から話すことは信じられないかもしれない。証拠なんて無い」

「え? えっと、これ私の名前の話ですよね?」

「ああ。でもこれはメダルキャラ全体の話でもあるんだ」


 困惑した様子の彼女には悪いが、説明を続けよう。

 それにしてもどう話せばいいのか。俺はこういう説明があまり得意ではない。


「君たちは俺と同じ様に生きてたんだ」


 初っ端から率直に言うと、一瞬音が消えた。皆黙ってしまう。

 初めに動いたのは【アギダイン】だった。


『否定する。俺はメダルキャラだ』

「そ、そうですよ!」


 追随して彼女も俺の言葉を否定する。

 そう簡単に信じてもらえる話だとは俺も思っていない。


『それに俺は機械だ。生きていない』

「ブッ!」


 何処から取り出したのか、りんごジュースを飲んでことの成り行きを見守っていた忍者が吹き出した。

 うん、そうだな。生きてないな……! けどさ、けどさぁ。


「そういう事じゃないんだよなぁ」

『……冗談だ』


 本気だったのか冗談だったのか読めないが、おいておこう。


「知っているか分からないから説明するけど俺達の住む帝国はここ」


 近くにあったノートを開いて乱雑に帝国の土地を書いていく。


「それでこの国の右に王国がある。それで下にあるのは連合国。13の小国が集まって一つの国と数えてる。ま、これらは別にいい。大切なのはこの外だ」


 ここまでが、正確な地図が載っている場所。

 俺は更に外側を黒くささーっと塗りつぶしていく。


「この黒く塗りつぶしたところの何処かに、皆が住んでた場所がある」


 それが外の世界。探索隊が探検する場所。

 ならば少しくらいなら分かっているだろうってなるが、半端な興味で行こうとされても困るということで情報規制されている。


 分かるのはこれまで。その先についての情報は噂話で何処まで信じられるか分かったもんじゃない。


 例えば、北には無限に思ってしまうような広大な小島がある。デカイのか小さいのかどっちだよ。

 西の森林の奥にある瀑布を超えると別世界が広がっている。

 南の山脈を超えた先にはAランクダンジョンを超えるような化物がうじゃうじゃいる地獄となっているなどだ。

 どれも本当かどうかは分からない噂だ。


「皆、そこにいたんだ。けど、何かがあってメダルキャラになった」

「あの……、何かって何ですか」


 少し俺の言葉を信じ始めてくれたのか、何処か不安で真剣そうに聞いてくる。

 ……。


「ごめん、わからない」

「一番肝心な所がわからないのでござるねぇ」

「忍者は茶々いれない」

「はーい」


 だが忍者の言うとおりだ。

 俺が信じてもらえないと思ったのはこれが大きい。証明ができなければ、信憑性もない話なんだ。生きていたやつがどうすればメダルキャラになる?

 そもそも、ゴリラにすら素手で勝てそうな人類が昔はいたなんて言われて信じる人がいるだろうか?

 指先一つで火を出すことなんて、今の人類には出来ない。


「正直、信じるのは難しいです」


 残念だ。しかし、しょうがない。


「けどもしかしたら私の名前、分かるかもしれません」

「本当か!?」


 嬉しくて勢いよく距離を詰めると恥ずかしそうに距離を取られた。

 いけない、焦り過ぎちゃいけないって分かっているはずなのに、少しでも情報が見つかると飛びついてしまう。

 それで引かれちゃマイナスだな。


「えっとですね。笑わないでくださいよ……?」

「笑わない笑わない」

「アリス……です。恥ずかしぃ」


 赤面して彼女の声はドンドン小さくなっていくが、ちゃんと聞こえた。


「可愛くていい名前じゃないか」


 漢字じゃないからどんな意味が込められて名付けられたとかは分からないけど、可愛くていい名前だと思う。

 俺の名前の陽清だって由来は知らないが字面がカッコいいから気に入っている。


「うう、でも私に似合わないですよ」

「別にそうは思わないけど」

「でもアリスってもっと、こう、可愛い名前じゃないですか。私なんて【モンスターハンター見習い】なんてやっててこんな可愛い名前──」

「同性の拙者から見てもアリス殿は可愛いと思うでござるよ。うーむ、問題は髪でござるな。今度オススメの美容室を紹介するでござるよ」


 異性としてマジマジと容姿を見てはいけないと思っていてもやはりアリスの髪、前髪は長い気がしていた。

 似合う、似合わない以前の問題で眼が隠れるほどの長さじゃ邪魔だろう。

 それにしてもメダルキャラが利用できる美容室なんてあるのか……? 


「それで、【アギダイン】はどうだ? 何かないか」

『……隊長だ』

「隊長? 俺のことか?」


 確か【アギダイン】はそんな感じで俺のことを呼んでいたはず。なんだっけな。大将……だっけか?


『違う。アンタは大将。俺は隊長だ』

「それ、名前じゃなくて階級じゃないか?」

『さぁな。俺は少なくともこっちでよく呼ばれていた……気がする』

「そうか。じゃあ思い出したら言ってくれ」

『ああ』


 気まずいが、今はこれでいい。これから仲良くなっていけばいいだろう。

 いや、そもそも仲良くなる必要はないのかもしれない。ボス戦の時時だって作戦通りに動いてくれた。

 それに隊長という言葉。もしかしたら上の命令は絶対なんてタイプなのかもしれない。


 俺個人としては召喚者の方が偉いとか全然思ってないけど。

 俺と隊長の微妙な空気を察したのだろう。アリスもどうしたら良いか分からなくて俺のベッドに合ったクッションを抱きかかえてしまっている。


「せっかく全員揃っているでござるし、ちょっと提案してもいいでござるか?」

「何だ?」 


 この微妙な空気を打破する新しい風に乗る。さすが忍者だ、気が利く。


「二週間後に開かれる大会についてでござるよ」

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