第7話「ボス戦前」
ボス。
このダンジョンが人気のない理由の一つだ。
Dランク以上のダンジョンにボスが居るのは別に珍しいことではない。
だがこのダンジョンでは、そのボスを倒さないと二つある出口の内の一つに辿り着けないのだ。
しかも面倒なことに、第三層から一番距離的に近いのがボスを倒して通れる出口。
もう一つの出口は少しばかり面倒な道を通らなければいけない。
片方はボスを倒さないと通れず、
もう片方は面倒くさい道を通らなければいけない。
そりゃ人気がないわけだ・
『ボスか。いい響きだ』
アギダイン一体どんな感性をしているのかそんな文字を表示させる。
全然いい響きではない。今日は元々ボスに挑む予定だったからここに来たが、そうでもなければ誰がこんな面倒な所に来るか。
「それじゃあ、拙者はまた見守らせて貰うでござる」
そう言って忍者は消えた。言葉とおり、消えてしまった。
本当に人間なのか?
『レーダーに反応なし』
秋月丸の鼻でも、アギダインのレーダーでも探知不能。
何度目になるか分からないが、やっぱり人間業じゃないな。
◆
あの後は秋月丸の嗅覚聴覚、そして【アギダイン】のレーダーを駆使して敵を避け続けた。
というのも、今回このダンジョンを選んだ目的がボスだからだ。
ボスと対面するのに少しでも体力を温存しておきたい。
勝てる自信はある。
攻略サイトを見たり、このダンジョンを踏破した人のブログなどを閲覧して情報を集めた。
だが、初めてのボス戦。
【アギダイン】に至っては俺とまだ会って数十分だ。
こんな状態で油断できるわけがない。
敵を避け歩き続けて数十分。
戦闘回数は6回。
どれも場所や相手との相性を考えてメダルを消費せずに勝てると思った相手のみと戦った。
ドロップしたのはスキルメダル2枚。
なかなか運がいい。
とうとう二層に続く階段を発見した。
木に巻き付く様な形で続く階段だ。
本当ならここでもう少し狩りをして収入を増やしたいところだが、そんな事をしている暇はない。
俺たちは第二層に進んだ。
二層がどんな場所なのか説明するならば洞窟迷路跡地だ。
昔は複雑で難しい迷路だった様だったらしいが、今は見る影もない事になっている。
なんでも昔の有名な冒険者が遊び半分でこのダンジョンに挑んだらあまりの面倒臭さにキレたらしい。
結果、沢山あった分岐は埋められて今では一本道になってしまった。
迷う心配はないがそれでも長いことには変わらない。
元々が迷路だった事もあって道もグネグネしていて非常に道が長い。
壁を壊して一直線に進みたいが、そんな力はないしあったとしても天井が崩れる可能性がある。
『天照石の反応あり』
「そうみたいだな。おかげで明るい」
天照石とは光り輝く石の事だ。
その石が洞窟の壁や天井に散らばり、この洞窟の照明になっている。
そのおかげで爛々と輝いて道を照らしている訳ではいが、敵が正面にいたらわかるくらいには明るい。
『敵性反応あり』
第二層の敵か。どれもこれも嫌らしい攻撃をしてくるという情報がある。
安全策で言えば秋月丸に行かせるべきだ。
しかし、ボスに勝つためには【アギダイン】との動きに慣れる必要がある。
「アギダイン、行けるか?」
『任せろ』
「ガウッ」
早く戦わせてくれと、秋月丸が不満の声を漏らす。
もう少し待ってくれ。後でデッカイのが待ってるんだ。
軽く苦笑しながら頭を下げると諦めてくれたらしい。
先輩として、アギダインに激励の言葉を送っている。
「ガウガウ」
『犬語は理解不能だ……』
犬じゃなくて狼……。
俺と秋月丸はこの場に待機してアギダインはゆっくりと前に進んでいく。
共有した視界に映るレーダーによると、すぐそこの曲がり角で敵が待機しているらしい。
待ち伏せか。
探知系に強いキャラがいなかったら危なかったかも知れない。
この狡猾さ、間違いなく【ミニゴブ】だ。
【ミニゴブ】。身長50cm程度の全身緑色の小人だ。服は来ておらず、性器もない。だが、力がそこそこ強いのだ。
奴の恐ろしい点は手に持つ凶器だ。石を削り槍や短剣の様な物を作る。
同種と非常に仲が悪く、協力なんてしないのでソロで活動してくれていることが救いだろう。
「腕を伸ばして上から狙うぞ」
この距離じゃ直接聞こえないからも知れないから、視界共有と同じ様に召喚者としての能力を使う。
自身が召喚したメダルキャラには、召喚者の声を届けることが可能なのだ。
まるで無線機のような能力だが、残念ながらこれは一方通行、俺の声を届かせることしか出来ない。
まぁ、アギダインは声出せないから、仮に向こうの声が聞こえるようでも意味ないけど。
しっかりと聞こえたのだろう。【アギダイン】は曲がり角の少し前で停まり、腕を上に伸ばし始めた。
そして天井に腕を這わせながら少しずつ伸ばしていく。
センサーで敵の位置は見えている。腕が【ミニゴブ】の真上に来たところで新たな指示を出す。
「相手の脳天に腕を落とすのと同時に相手の頭を掴んで持ち上げてくれ。ミニゴブは軽い。そのまま捻って眼を回させるぞ」
機械の腕が【ミニゴブ】を襲った。
俺は遠くから視界を覗いて見ているだけ。
しかし、その視界も曲がり角の先は映さないため【ミニゴブ】を直接は見れない。
【アギダイン】の視界に右下に表示されているのはレーダーの結果なのだろうか。
この迷路を上から俯瞰したような地図が表示され、【ミニゴブ】が赤く表示されている。
それだけだ。作戦が成功しているのかは【アギダイン】にしか分からない。
……・
長いな。
『成功。やった』
【アギダイン】が近づいてきてそう表示した。
この「やった」はやったー! 勝ったよー! って意味なのか、殺ったぞって意味なのか。
まだコミュニュケーション不足で分からないな。前半でありますように。
「お、おう」
ここまでスムーズに行くとは思ってなかったから返事が引き気味になってしまった。
あれー? もうちょっとアタフタすると思ってたんだけどな。
想像以上に【アギダイン】が冷静に的確に動く。
何をするべきか自分で判断したのだろう。
まさか自力で殺すとは思っていなかったな。
今回は次の指示を出さなかった俺が悪い。
アギダインのレーダーは敵を感知せず、秋月丸を見ると首を振っている。
近くに敵はいないっぽい。
前に秋月丸。背後をアギダインに守ってもらい俺はミニゴブを倒した地点まで移動する。
どうやら、今回はドロップ品はないらしい。残念だ。
だがこう考えろ。俺は今運を貯めてるんだ。
こんな普通に出てくるモンスターを倒したところでドロップするメダルのランクはDランク以下だ。
極極稀にCも落ちるらしいが期待はしないほうが良いだろう。
だが、俺がこれから討伐に向かうボスは違う。
実力が高い影響か、通常のモンスターと比べてCランクのメダルを落とす確率が高いらしい。
ならこんな所で運を使った所で……って虚しくなってきたな。
「この配置を維持したまま進む。……アギダイン、何やってるんだ?」
共有した視界がグルグルと回っているので、後ろを向いてアギダインの様子を確かめてみる。
グルグルと頭を回していた。比喩で何でもない、流石ロボット。
『レーダーに映らない可能性を考えて眼をフル活用している』
忍者の影響だな。
「忍者の事は気にするな。アレは向こうがヤバいだけだ。そうやってチェックしていると俺が気持ち悪くなる」
『了解』
本来ならこのくらい用心深いのは歓迎なんだが、常に回っていると視界を共有していて気持ち悪くなってしまう。
そのは後サクサクと進んでいった。
秋月丸ならこのくらい余裕だとは思っていたが、アギダインは本気でどうなってるんだ。
何も指示していないのに、石を拾って敵の後ろに投げて音を囮に振り返させる。
そして無防備な背中を近くにあった鋭い石でグサリ。
やべぇよ……やべぇよ。
【アギダイン】がめちゃくちゃ戦い慣れている件。
味方だから嬉しいが、敵だったら最悪も良い所だ。
良いメダルキャラの条件の一つに、『自分で考え行動する』というのがある。
まぁ、悪いメダルキャラの条件にも同じ文章があるが。
今の所独断で取った行動は全て上手く行っている。
というよりも、俺が指示を出すより最適解を出しているだろう。
「アギダイン、次から緊急性がなければ俺に一言いってくれ」
『了解』
こうして指示を出せば素直に聞いてくれるし、かなり優秀なキャラなのかもしれない。
優秀なアギダインと秋月丸がモンスターを屠っていき、数枚のメダルを手に入れた。
そして俺たちはとうとう第三層に辿り着いた。
第三層。ボスと出口がある階層だ。
先程の閉塞感があった洞窟とは違い、広い空間が広がっている。
だが、草木は見つからない。第一層のような平原ではないのだ。
まるで人工物のように、石畳が一面に広がっていた。
正面には石の階段。後ろには真っ直ぐ続く道と門。
左右には壁が続いているが、扉サイズに穴が空いていてその奥もある。
ダンジョンではこういう明らかに自然のものじゃない階層も珍しくないらしい。
決して、俺よりも前に来た冒険者が整地した訳ではないのだ。
「二人共、敵はいるか?」
俺の眼には誰も写っていない。二人の視界を見るが、誰もいなさそうだ。
だが【ドリュケン】がいる。
地中に潜れるモグラみたいなモンスターだ。
俺の眼に見えなくても実はすぐ下にいるなんて事があるかもしれない。
なんで石畳の階層にこんなモンスターがいるのか。
一層とかの地面のほうが柔らかそうだと言うのに。
『反応なし』
「グルぅ」
「よし、じゃあ一気にボス部屋まで行くか。じゃあボス戦前に作戦会議するぞ」
ボスはここから真っ直ぐ進んだ門の先にある部屋にいるらしい。
ネットでしっかりと下調べをしているのでどんなボスなのかは判明している。
「ボスの見た目は中身のない騎士だ」
『?』
「騎士って分かるか? なんか銀色の鎧やら仮面やらで全身を守って槍とか剣とかを武器にして戦うやつ」
『分かる』
「今回のボス、【空亡騎士】はその騎士の中身がない。だから鎧の隙間を縫って中身に攻撃とかは出来ないわけだ。だから別の作戦を考えなきゃいけない」
『硬い鎧を突破するのは困難だろうな』
流石アギダイン。もう頭の中でボス戦のイメージをしているらしい。
確かに鎧は固く二人だと正直、掠り傷をつけられるすら怪しい。
「っと、作戦を話す前にアギダイン。お前にプレセントだ。アイテムメダル、『発声機』」
取り出したメダルが光り始め、アギダインへ光だけが飛んでいく。
「な、何を」
そして光が消えた時、アギダインから男の声がした。
「声が出てる!?」
音質の悪い男の声が響く。
「音質悪いし、脆いし制限時間も長くて30分でぶっちゃけ金食い虫だから渋ってた。やっぱ声出せたほうが良いか?」
このメダルを使用すると特定の機械系キャラクターが発声できる様になる。効果だけ見ると凄いが、音質は悪いしコスパは悪い。
その割に値段は安いわけでもないのであまり多用をしたいメダルじゃない。
「いや、大切な戦闘時以外は無くても大丈夫だ。このタイミングで使ったという事は大将も同意見なのだろう?」
「そうだけど、ほら。やっぱ本人としては声は自由に出せたほうが良いとかあるだろ?」
「俺はメダルキャラだ。それより作戦を話してくれ」
「分かった。空亡騎士は防具のパーツとパーツの繋がりが脆いんだ。だからまずは腕をモグ」
「大将。一つ質問良いだろうか」
「大将って俺か?」
「ああ。駄目だろうか」
「構わないけど……質問って?」
「この作戦にはスキルが必要じゃないか」
やっぱり頭が良い。
自分の実力を自覚していて、この作戦にスキルを用いることに自分で気がついた。
「俺はどんなスキルが使えるのだろうか」
「一応アギダインのために用意したスキルメダルは後3枚ある。『オーバーロード』『電気ショック』『DPG44』だ」
「後ろ二つの説明を求める」
「『電気ショック』は名前の通り、電気を流して攻撃する」
今回買った電気ショックのランクはE。これがCとかBならば多少離れていても発動できたのだが金銭的な事情で買えなかった。
次は『DPG44』だが、こちらは名前からは全く想像がつかないだろう。
「『DOG44』は一言で言えば銃だ」
ズイっと俺の肩を掴んでアギダインが近づいてきた。しかも眼を点滅させている。
お前そんな機能あったのかよ。
「おお! 詳細スペックが聞きたい。ハリー! ハリー!」
「……すまん。銃に関しては詳しくないから強そうとしか分からなかった」
「なっ。……試し打ちうくらいは出来るか?」
「ごめん、弾も限られてるからぶっつけ本番で」
「なんて無茶な要望。了承した」
興奮が冷めたのか眼の点滅を止めて引き下がっていく。
アギダインの気持ちになると確かにメチャクチャだな。
せめてどんな感じで装備するかだけでも、事前に確認できた方がいいだろう。
腰につけたメダルホルダーの中から『DPG44』メダルを取り出し、握る。
「スキルメダル『DPG44』」
スキルメダルが光る。そして光はアギダインに飛んでいき、形が変わっていく。
アギダインの右腕に銃が現れた。
彼の二本指でも引き金が引けるように補助道具までついている。
銃からは数本の線が伸び、アギダインの体と接続されていた。
銃に詳しくない俺でもこれが拳銃では無いことは分かる。だが、それ以上は分からない。
動画を見た限り、ドガガガガとめちゃくちゃ弾が出たはずだ。確か1マガジン35発だったっけ?
エネルギー弾的な物だとか色々と書いてあったが、ゴミが出ないという事は分かった。
「懐かしい感覚だな」
「懐かしい?」
「いや、なんでもない」
「……なら、話を戻すぞ。腕をモグって言ったが、それにはスキルの力が不可欠だ。そこで秋月丸の出番で、いいか───」
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