第6話「【アギダイン】登場」
【赤塚】ダンジョンの人気は低い。
というのも、近所にもっと簡単で旨味もあるDランクダンジョン【土井】があるからだ。
そんな不人気ダンジョン【赤塚】の特徴といえば、三層の搭状の階層式になっていることだろう。
ランダムに配置された三つの入口。
そう、たった三つしかないのだ。
前回訪れた【無鈍】が二十の入り口がある事を考えるとその少なさは驚愕してしまう。
そしてその入口は各階層に一つだけ。
そして出口は第三層に、二つ配置されている。
この説明だけでこのダンジョンのアンバランスさが分かるだろう。
出口までの距離が運ゲーすぎる。
さて、こう考えると気になるのが俺が今いる階層だ。
この青の森は第一層にある。つまり出口から一番遠い。
これを幸運と考えるか不運と考えるかは人次第だ。
俺は不幸だと思う。
いや、このダンジョン広すぎるんだよ!
それに特徴的な物がないから道に迷いやすいし。
方位磁針を取り出し北か東か確認したいが、このダンジョンでは針が狂って東西南北がわからない。
これもまたこのダンジョンが不人気な理由の一つだ。
なのでこのダンジョンでは門の表側が北と仮定されている。
第二層に上がるための階段はここから東にある木の上にあるらしい。
方位磁針が使えない代わりとでもいうのか、その木はピンク色と目立つ色になっているそうだ。
それなら素直に方位磁針復活させて欲しいが、環境に文句は言ってられない。
それに、方位磁針が使えないのも冒険のアクシデントっぽくてワクワクするしな。
東に移動していると秋月丸の耳がピクピクと動いた。
この反応は……周りにモンスターがいるのか。
声は出さずに、俺達は互いに視線を合わせうると頷きあう。
狩りの時間だ。
ゆっくりと敵の正体を見極めに行く。
見えてきた姿から敵の名前、特徴全てを把握出来る筈だ。
奴の名前は……なんだっけ?
まぁいいや。ウサギっぽいし兎君で。
名前は忘れたけれども、能力はしっかりと覚えている。
見た目は兎に二本の角を生やした姿といえば分かりやすいだろう。
そして、奴はその特徴的な角と足をメインに戦うモンスターだ。
鋭い聴覚を持ち、余程気をつけて歩かない限り、存在に気が付かれるという。
つまり俺達の事はバレているということだ。
なのに逃げないあの精神。ありゃ、舐めてるな。
「行け、【アギダイン】」
秋月丸を控えさせ、俺がそう呟くと腰につけたベルトから光が漏れ出す。
ベルトに取り付けたメダルケースから【アギダイン】が飛び出した。
『任務か?』
アギダインの体は機械で構成されている。
その見た目はロボロボしく、身長は100cmから150cmとバラバラ。
この【アギダイン】は130cmくらいか。
上半身は人に似せているが、手には関節がなく靭やかだし、手のひらはなくの閉じると円になるような二本の指しか無い。
下半身はもはやないと言っていいだろう。キャタピラの上に上半身が乗っているる感じだ。
「あれを倒す。協力してくれ」
『了解』
発声機能がない代わりに胸にモニターが埋め込まれていて、そこに文字が表示されてコミュニケーションが取れる。
「GO!」
『発進する』
アギダインが兎君と対面する。
いくら油断している兎君と言えど、目の前に来たら流石に警戒を始めた。
先に動いたのは【アギダイン】の方だ。
関節のない太いワイヤーの様な腕を振りかぶる。
【アギダイン】と兎君の距離はざっと3mくらい。届くはずがない。
と、兎君は油断するだろう。
だが、残念だったな!
【アギダイン】はロボットなんだよ。
【アギダイン】の腕が伸びる。そしてそのまま兎君の脳天目掛けて振り下ろされた。
しかし流石Dランクダンジョンのモンスターといったところだろう。
兎君は紙一重で攻撃を避けた。
この一撃で決まって俺の仕事はないからも知れないと思っていたが、そうやら仕事の時間らしい。
「信じろ」
俺の声が、秋月丸と【アギダイン】に届く。
秋月丸だけなら声なんて掛けなくてもいいが、【アギダイン】はこれが初対面なんだ。声を掛けないと混乱するかも知れない。
俺の視界が三つ増えた。
俺と秋月丸と【アギダイン】の視界。
いろいろな角度から見える視界だが、どれもこれを種族差を感じてしまう。
秋月丸の視界は不思議と動きが見えやすい。動体視力が高いとでも言えばいいだろうか。素早い動きにも対応しやすい。
【アギダイン】の視界は、流石ロボットでも言うべきだろうか。右下に己の損傷率が表示されていた。
損傷率 0%
「左に避けろ!」
兎君の突進が【アギダイン】を襲う。
しかし、その動きは完璧に捉えられている。
【アギダイン】は余裕で避ける。
兎君はどうやらターンに自身があるらしい。
素早いターンは【アギダイン】の体を後ろに向かせる暇を与えない。
それに、アギダインの足はキャタピラだ。突然の体全体での方向転換は苦手なのだ。
だが、【アギダイン】はロボットだぞ?
【アギダイン】の上半身だけがグルリと回転した。
俺はメダルケースから一枚のメダルを取り出す。
メダルショップで買ったメダルの一枚。
スキルメダル『オーバーロード』だ。
一撃で決める。
「殴れ! 『オーバーロード』!」
『なっ』
【アギダイン】の太いワイヤーの様な腕が膨張した。
まるで筋肉のように肥大化した腕は所々から火花を散らしながら、兎君の角と衝突する。
兎君の角から電流が走った。
昨日ネットでこんな情報を見た。
兎君は角から電気を発することにより相手を麻痺させると。
信じる。【アギダイン】ならば真っ向から兎君に勝てると。
プスッ。そんな変な音が【アギダイン】から響く。
アギダインの視界の端の枠が青から黄色に染まり始めた。
右下にある表示されている損傷率が徐々に上がっていき30%を超えてしまった。
だが──
「俺達の勝ちだ!」
兎君の角が折れるほうが早かった。
粉々になる角。そして破片が【アギダイン】の腕に押され兎君の脳天に突き刺さる。
血は出なかった。
血が出るよりも早く兎君の命は終わり、消滅する。
コツンと、一枚のメダルが兎君の代わりに現れた。
「ドロップしたか」
いや、そんなことよりも大事なことがある。
「アギダイン! よくやった!」
『何だあれは』
「後で説明するから先ずは傷を治すぞ」
メダルケースから一枚のメダルを取り出す。
これも購入したメダルの一つ。
「アイテムメダル『ロボットパーツ』」
メダルが光る。それと同時にガチャリとボロボロだった【アギダイン】の腕が外れた。
そしてアギダインの視界と、胸のモニターに『修復中』と表示された。
アギダインの取れたはずの手には光が代わりに現れる。
光が消えたときには新品同様の新たな腕が取り付けられていた。
メダルキャラが怪我を負った場合どうするか。
病院に駆け込む? 否。
基本的にはメダルに戻すのだ。そうするで彼らは自然に治っていく。
だが、特定の機械系のキャラにはもう一つの道が用意されている。
Dランク『ロボットパーツ』
特定の機械系キャラを修復するアイテムメダルだ。
勿論、高ランクになれば回復手段は増えてくる。
だけど、回復系スキルを使えるキャラは限られているし、そういうキャラは回復特化なんて場合もあり、直接的な戦闘能力は低いってこともある。
マジックメダルで回復することも出来るが、高価だ。
条件がゆるく、安価に再生できる存在。
それが機械系のキャラ。
「うーん、スキル使う必要あったでござろうか」
「うわっ。急に出てくるなよ」
突然声を掛けられ少し驚いてしまったが、忍者の声はもう覚えた。反射的に手が出たりすることはない。
秋月丸は少し悔しそうに他にも敵がいないか辺りを見ていて【アギダイン】は呆然としている。
『いつの間に』
そういえばアギダインにはセンサー機能もあったんだったな。多分右下に写ってるのがそうか? それにも写ってなかったのか。
「これじゃあ大赤字じゃないでござるか?」
忍者の言う通りだ。
メダルキャラは怪我を負ったらメダルに戻って時間を掛けて直すことが出来る。
なので今回もそうすれば良いのではないか、と忍者は思っているのだろう。
『ロボットパーツ』もタダではないのだから。
しかしメダル一枚で即時に回復ができるというメリットは凄まじいものだ。
なのに、何故【ヴァレリー】より人気がないのか。
かっこよさ? いいや。ロボットの時点でかっこよさは充分だ。
答えが『ロボットパーツ』が高いからだ。なので、すぐに直せる利点があるよと言われても「ああ、でも自分は金ないんで」となり、利点として見られない。
まぁ、この利点があるから多少は人気はあるのだが。
「まぁ、そうだな」
「兎君のドロップ一枚。どうぞっと」
いつの間にかドロップしたメダルを拾った忍者が投げてきた。
冒険者はモンスターが消滅した際に、稀に落ちるメダルを売って金を得るのだ。
受け取ったメダルに意識を集中させ、鑑定すると情報が頭の中に流れ込む。
「スキルメダル『一角雷迅』か」
「『ロボットパーツ』の値段には到底及ばないでござるね」
「さっきの疑問に答えると、今回は【アギダイン】の強さを見たかったんだよ。オーバーロードは今後、多用していく事になるだろうし限界を知りたかった」
スキル『オーバーロード』。キャラの限界を超えた力を引き出す力だ。
今回は結構頑張ってもらったが、次回からはちょっと腕が痺れる程度の控えめに発動させる予定だ。
「それで、聖羅としては俺の評価はどうなんだ?」
「聖羅じゃなくて忍者で良いでござるよ」
「忍者ってめんどくさいのな。それで、評価は?」
「なんとも言えないでござるね。例の技術も見せてもらってないでござるし」
「ああ、なら楽しみにしておいてくれ。今日はボスまで行く気だからな。そこで見せる」
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