第4話「忍者からの世界の秘密への感想」

 次の日。

 俺が学校へ行くと出迎えたのは目線だった。


 好奇の視線に晒されコソコソと話をされている。

 

 理由は分かる。

 まさかの入学当日から学校に登校拒否していた男が来たからだろう。

 まぁ、実際は行方不明になっていただけなのだけど。

 非常に居心地が悪い中、この前真那に教えてもらった席に座ると、苦笑しながら真那が近寄ってきた。

 昨日あった時より幾分か男らしく見えるのは、制服を来ているお陰だろう。


「大変だね」

「もしかして俺が来なかった理由って広まってたりする?」

「そりゃニュースにもなって同姓同名同じ年齢の子が学校に来てないんだ。察せない人のほうが少ないよ」


 言われてみれば行方不明になったなんて大事件がニュースにならないわけ無いか。


「まっ、気を利かせて話しかけてこないだろうしいいか」

「いいんだ」

「それより、真那に聞きたいことがあるんだけど忍者って本当にいると思うか?」


 ポカンとした表情を浮かべるが、真那はうーんと考え始めた。

 この質問をしたのは昨日俺の家に不法侵入、というより忍んできた忍者水川聖羅が影響している。


 今まで漫画やテレビの存在と思っていた忍者。

 実際にネットで調べても人間には存在しないという結論に達していた。

 でもアイツは実際に存在して、俺の前に出てきた。 


「いるよ。だってほら、Aランクに有名なメダルキャラいるじゃん。確か……服部たぬ蔵だっけ? たぬきの忍者」


 人間ですらない、国宝級の忍者の名前を挙げられた。


 服部たぬ蔵は俺達の国、帝国が保有するメダルキャラだ。

 過去に何度か国同士で行われる御前試合の中継で見た覚えがある。

 見た目は二足歩行できる狸が紫色の頭巾を被り、短刀を携えている不思議生物だ。


 可愛らしい見た目のお陰でグッズなども多く、帝国のメダルキャラと言えば言われて挙げられるメダルキャラ三人の内の一人だ。

 だが、俺の言っている忍者はそういうことじゃない。


「メダルキャラ以外に忍者はいると思うか?」

「流石に居ないんじゃないかな。あー、スパイとか諜報員とかは忍者になるのかな? けど現実にはいないだろうしどうなんだろう」


 俺に配慮してかそう言ってくれているが、いないと思っているらしい。

 世界の秘密を知ってしまったなんてカッコつけて言ってしまったが、忍者のほうがもしかしたら世界の秘密なのでは?


「悪いな、変なこと聞いて」

「ううん。別にいいよ。あ、そうだ。今日の放課後久しぶりにカラオケ行かない?」


 俺も真那も歌う事は好きだ。なのでカラオケにはそこそこの頻度で行っていた。

 俺なんかは別に歌がうまいわけではなかったが真那はかなり歌がうまい。

 本当なら嬉しい誘いなんだが……


「あー、悪いな。ちょっと今日はメダルショップとダンジョンに用事が」


 だが、今日の予定は既に決めてしまっている。忍者の情報が何時届くのかは知らないが、それまでは基本的に週六でダンジョンに潜る予定だ。

 ここ最近は色々あったが、まだ体に疲れは溜まっていない。


 昨日の刑事さんとの対面は精神をゴリゴリ削られた気がするが、午後のピクニックみたいなダンジョンである程度回復した。

 その後の真那との会話でまた削られたけど。


「そう……。じゃあ明日は? 丁度午前授業だし」

「そうだな、うん。明日は休みにするか。行けるぞ」

「やった。じゃあ明日ね」


 まだまだ話せる事は沢山あるのだが、ここでチャイムが鳴り真那は自身の席に戻る。

 教室で先生の話が始まるが退屈だ。

 外を見ると空いたグラウンドが見えた。


 こっそりと秋月丸を召喚してグラウンドでこっそり修行させることは出来ないか? 

 無理か。バレたら注意されてしまうだろうし、親に伝わったらダンジョンに潜っていることがバレてしまう。

 

 ◆


 退屈な授業が終わり放課後。

 そのままいざダンジョンへ! なんて行きたい所だが、制服では身動きが制限されてしまう。

 それに荷物も置いていきたいため、一度家に戻る必要があった。

 高校から家までは自転車通学だ。二十分もあれば家に着くだろう。

 そして、家から今日向かうダンジョン【赤塚】までは電車に乗る時間も合わせて着くのは今から一時間後くらいだろうか。


 【赤塚】ダンジョン。Dランクのダンジョンだ。

 初めてのDランクダンジョンになる。

 難易度はEランクとは雲泥の差があるだろう。


 DランクとEランクダンジョンの差が何かと言われれば、一番最初に挙げられるのがモンスターの強さだろう。

 Eランクダンジョンまでは単体で人を殺せる強さを持ったモンスターはいない。

 しかし、Dランクからは人を殺せるモンスターが出てくるのだ。


 今回行く赤塚ダンジョンで最も警戒するべきなのは3層に出てくるモグラの様なモンスター、【ドリュケン】だろう。

 【ドリュケン】の最も厄介な点は地中に潜る能力らしい。

 どう戦うのが最適なのか。秋月丸の鼻は地中の相手に効くのか。


 なんて考察をしている間に家に着く。

 玄関の扉を開けようとすると、ガチャリと俺の手がかかる前に勝手に開かれた。


「そろそろ帰ってくると思ったでござるよ」


 ……誰だ?

 扉を開けて俺を出迎えたのは見覚えのない少女だ。

 歳は俺に近そう。そして俺の学校の制服を来ている。

 身長は俺よりも低く、顔は結構可愛い……ござる?


「お前、もしかして忍者か?」

「いかにも」


 ニン!と人差し指と中指をくっつけて伸ばし、ポーズを作る彼女は間違いなく昨日あった忍者だ。

 若いとは思っていたけれども、同じ高校生だったのか?


「その格好は」

「学校から直接こっちに来たので着替える時間がなかったでござる」

「……まぁ、いいか」


 どうやって家に入ったのかとか、色々と言いたいことはある。

 けれども、ここは外から丸見えだ。

 近所の人に見られたりしてなにか噂されたら面倒なので、家の中に入って俺の部屋に場を移す。


「それで、今日は何の用なんだ?」

「一応プランの方は半分は作ってるでござるよ。ちゃんと渡すことになるのは明日になりそうでござる」


 もう半分も出来ているのか。

 やっぱり凄いなこの忍者。てっきり一週間以上は掛かると思っていた。

 となると、今日は来たのは報酬を貰いに来たのだろうか? 


「じゃあ昨日話せなかった世界の秘密について話すか」


 自分で世界の秘密と、改めて言っていると恥ずかしくなってくる。


「今日はそのために来たのではござらんが……、聞かせていただけるのならば聞くでござる」


 俺は忍者に、一ヶ月間で知ったことを聞かせた。


 ◆


「うーむ、期待以上、期待未満な情報でござるね」


 話を聞き終えた忍者がいの一番に発した言葉がこれだった。


「どっちだよ」

「予想よりも凄いこと聞けたけれども、思ってた方向性と違う情報なのでござるよ。拙者としては政府の陰謀だとか、そっち方面を期待してたのでござるが……」

「ガッカリか?」

「いやいや、貴重な話で勉強になったでござる。報酬としては充分。張り切って任務に励ませてもらうでござるよ」


 そう言って頷いてくれる忍者だ。正直依頼を反故にされたらとヒヤヒヤしていた身としてはありがたい言葉だ。

 この情報は決して一般人に役に立つ情報じゃないだろう。

 研究者とかになら売れるかも知れないが、証明する手段がないので実質価値はない。


 頭がいいであろう忍者がそれに気がついているであろうに。

 こうして律儀に依頼をこなすと言った所に誠実さが垣間見える。

 それとも、もしかしたら頭が良いからこそ有効活用できると判断できたのだろうか?


「んじゃ、俺はダンジョンにこれから行くから帰ってくれ。親に見られたらどうなるかわからないし」


 着替えは忍者がいるので出来ないが、荷物の確認くらいは出来る。昨夜のうちにカバンに詰めといた荷物を確認していく。

 忍者はこの前のように窓から去るなんて事はせず普通に扉から俺の部屋を去っていった。


 これでようやく制服を脱げる。

 動きやすい服に着替た。荷物の最終確認も終わった。時計を確認する。

 今日は午前授業だった。今は13時30分。ガッツリダンジョンに潜る時間がありそうだ。


 昼食はラーメン屋にでも寄って食べよう。

 一ヶ月ぶりのラーメンだ。久しぶりに麺が食べられる。


 今思えば一ヶ月間食べたものと言えば肉! 野菜! ばかりで麺みたいなちょっと手間がかかるものは食べられなかった。

 ラーメンを食べると決意して家を出る。

 さぁ、ラーメン屋に向けてレッツゴー!

 

「それじゃあレッツゴー」

「……なんでいるんだ」

 

 何故か隣に忍者が居た。

 服装は先程見た制服でも、忍者の服でもなく私服なのかオシャレな可愛い服だ。

 忍者とは思えない格好だな。

 普通の女子みたいだ。口調は変だが。


「ダンジョンに同行させてもらうでござる」

「ダンジョンにも行くが、俺が今から行くのはラーメン屋だ」


 ぐぅ。忍者の腹から音がなる。

 忍者は恥ずかしがりもせず自分のお腹を確認し、手を当てる。


「じゃあお供するでござる」 


 この忍者、ござるござる言いすぎじゃないだろうか?

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