第3話「忍者登場」

 さて、状況を整理しよう。

 部屋に謎の美少女が不法侵入してた件。


 ラノベのタイトルみたいだな。

 俺は侵入者を組み敷き、脅している所だ。

 女だと気が付かないで胸を触ってしまう事故があったがノーカンだ。

 焦りすぎて感触を覚えてない。


 状況だけで顔を赤らめてしまっているが、こんな事態になったお陰で意識は切り替わっている。

 ここは自宅だとしても、ダンジョンだと思い込め。

 化物が蔓延る危険な場所だ。


「もう一度聞く、誰だ」

「く、苦しいでござるよ。もうちょっと優しく」

「もう一度聞く。お前は誰だ」

「水川聖羅でござるよ。な、名乗ったからもうちょっと優しく」

「……分かった」


 一体何が目的で侵入した? 

 考えられるのは強盗だ。うちは別に貧乏なわけじゃない。裕福なわけじゃないが取る金はあるだろう。


 俺の部屋を漁ってる途中に俺が帰ってきてしまったか思わず隠れ、後ろから襲う気だった。

 首にあてがった腕を緩めるのは早計か?


「秋月丸」


 胸にぶら下げたメダルから秋月丸を出す。

 メダルの中にいたら外の声が聞こえないのだろう。


 状況をいまいち理解できていないようだ。 

 だがこの女と敵対しているという事は察してくれたのだろう。グルルと威嚇してくれている。


「怪しい動きしたら噛んでくれ」

「そんなことしないでござるよ!」


 首を押していた腕をどかし、相手に馬乗りになった状態のまま警戒を始める。


「できれば上からどいて欲しいなー、なんて……」


 俺の冷たい目線に気がついたのか苦笑いも苦しくなってきている。

 こうして馬乗りになってるからこそ動きを制限できているが、開放して大丈夫だろうか。

 俺が武術の達人とかなら、この少女から敵意はしない。開放してよし! なんてカッコいい事が出来るが、俺は敵意なんて読み取れない。


「可愛いからって俺は手加減しないぞ」

「構わないでござるよ。抵抗する気はないですし」


 何だコイツの口調。

 ござる。随分と古めかしい語尾だ。


 そう言えばコイツに気がつけた理由は声がしたからだ。

 声がして、俺は背後を振り返って反射的に組み敷いた。

 つまり、声を掛けてこようとしなければ俺は気が付かなかったわけだ。

 こんな狭い部屋にも関わらず。


「忍者みたいな真似をするな」


 優れた隠密性、家に侵入できる技量に口調。まるで忍者だ。

 勿論、そんな訳がない。

 忍者なんて人間にいるもんか。


「そりゃ、忍者でござるしねぇ」

「メダルキャラか」


 メダルキャラには複数の種族がある。獣であることもあれば、ロボットであることもある。そして、人型いる。

 ただし、人はCランク以上のメダルキャラだ。

 秋月丸は現状Dランク。

 一応Dランクの中でも最上位の実力はあるだろうが、少しばかり戦うには不安を覚える。


「いやいや、拙者は人間でござるよ。そんなに警戒しなくとも、腕っぷしは物凄く弱いでござる。陽清殿にならワンパンワンパン」

「……不審な真似はするなよ」


 馬乗りを止めて彼女を開放する。姿勢を崩す彼女の姿は普通の少女。

 確かに、強そうには見えない。


「それで何で俺の家にいる」

「うーん、率直に言って世界の秘密を聞きに来たでござるよ」


 ……何処で知った?

 待て待てまて! おかしいだろ。警察にだって言っていない事だぞ。

 真那にだって知っているとは言ったが、内容は教えてない。


 聞かれてた?

 ありえない。

 秋月丸が周りを警戒してくれていた。

 アイツの鼻が普通の人を見逃すとは思えない。


 可能性があるとしたら──メダルキャラか機械類か。


 秋月丸の嗅覚などの感覚は鋭い。辺りの警戒だけならC級以上の能力を発揮するだろう。

 だが機械ならば秋月丸の鼻を誤魔化すことも可能かもしれない。いや、そうであって欲しい。


 もしも機械でないとしたら、俺の話を盗み聞きできるとしたらそれ相応の実力を持っているキャラだ。

 俺達じゃ勝てないレベルの。

 

 だがメダルキャラならば、ソイツが忍者と同じことをすればいい。

 態々不法侵入の罪を犯して、顔を見られてまでするメリットがない。

 なのに、何でこの女はわざわざ姿を表したんだ? 


「いやー、なんか情報が得られないかなとストーキングしたかいが合ったでござるよ。コソコソ近づいていたら面白い話聞けてラッキー! お友達は信じてくれなかったようだけど、拙者はぜひ聞きたいでござる」


 ござるござる煩くて緊張感がないセリフだが、サラリとストーキングとか言い出したよこの忍者。

 しかも、 本人自ら近づいてだと?


 忍者を未だに睨む、というよりも敵視している秋月丸を見る。

 首を横に振っていた。

 どうやら気がつけなかったと言いたいらしい。


「秋月丸から隠れられるとか、本当に人間かよ」


 少なくともCランク以上の隠密。人間技じゃない。

 有名格闘家でもCランクキャラには勝てない。

 そのくらいには実力差はあるんだぞ。


「失礼でござるねぇ。これでも一族一の天才でござるよ」


 人差し指と中指を伸ばして忍者っぽい指の形を作るとニンニンと忍者アピールをし始める。


「世界の秘密を聞いてどうする気なんだよ」


 この忍者はなにか勘違いをしているかも知れないが、世界の秘密を聞いた所で何か出来るというわけではない。

 埋蔵金やら財宝やら宝の地図なんて物とは違うのだ。


「別に、ただ単に興味があったから聞きに来ただけでござるが?」

「……は? いやいや、忍者なんだし、依頼主が居て報告とか色々あるだろ」

「ないない」


 手を降って何処か呆れたように忍者は話す。


「侍や忍者なんて古風なもの国は愚か誰も信じてくれないでござるよ。それにそういうコネもないですし」

「じゃあ教えなかったらどうするんだ?」

「別に何もせずに帰るでござるよ? 無理やり聞くなんて悪い事したくないでござるし」

「不法侵入者が言うセリフじゃないぞ」

「忍者ですので」


 どういう理屈だ。

 それにしても教えるメリットがない。警察にすら教えてないのに何で個人に教えなければならないのか。


「……忍者って言うくらいなんだし、情報を集めたり、整理したりするのが得意だったりするか?」

「そりゃモチのロン。忍者ですので」


 グッと親指を立てて自信満々に主張してきた。ござるといい、忍者アピールが凄い。


「なら、俺の知ってる情報を話す代わりに、一つ仕事を頼まれてくれ」

「どんな仕事でござるか?」

「真那との会話を盗み聞きしてたんなら知ってるだろうけど、俺はB級に上がりたい」

「随分と難しい道でござるね」

「それも出来るだけ早くだ。だから忍者には最速でB級に上がれる手伝いをしてもらいたい。そうだな……Bランクに行くためのプランとか建てられないか?」


 そのくらい自分で調べろと言われてしまうかも知れないが、昇格条件というのは実の所ハッキリしていないのだ。

 調べればある程度絞り込むことは出来るだろうが、その時間すら惜しい。

 忍者と言うならば昇格条件を絞り込むことも出来そうだし、情報もうまく纏めてくれるかも知れない。


「んー。でも陽清殿はBランクに上がりたいのじゃなくてBWに行きたいのでござるよね?」


 BW……? ああ、BlackWorld。地図外の世界のことか。

 地図外の判明されてない世界については言い方が複数ある。

 俺は暗黒大陸とか未探索地域とか地図外領域派だ。

 こっちの方がわかりやすいしカッコいい。


「そうだ」

「ならば死ぬ気で勉強して学者にでもなって探索チームに加わったほうが安全だと思うでござるよ」


 探索チームに加われるのは冒険者だけではない。

 冒険者主体で行くのは間違いないが、それ以外にも様々な事を知るために専門家が着いていく事があるのだ。


 まぁ、そういうのはメダルキャラで代用することもあるらしいが。

 天才科学者型のキャラとかいるらしいし。


「それじゃあ時間がかかりすぎる」


 俺がその地位に行けたとして何年かかる?

 少なくとも、大学には行く必要はあるだろう。


 そして専門家と周りに認められるのにどれだけ時間がかかる。

 もしも、俺が知らないだけでその道の才能があったとしても0からの勉強だ。

 少なくとも数年はかかるだろう。


「死ぬ気じゃなくて死ぬ可能性の方が高いと思うんですけどね。まぁ、いいでござる。それで陽清殿をどのくらいの強さと見積もって作れば良いんでござるか?」

「……とりあえず、Bランクに上がれる程度の実力で見積もってくれ」


 忍者からの視線が痛い。これはいや、そんな実力あるわけ無いでしょと疑いの眼だ。


「了解でござるそれでは」


 そう言って忍者は俺に背を向けると窓の鍵を開けた。


「おい!」

「これにて御免」


 俺の方を見ながら、忍者は後ろに倒れるように窓の外へ消えていく。

 そんな危うい去り方があるかと、慌てて窓から身を乗り出して外を確認する。

 そこには既に、忍者の姿はなかった。


 マジモンの忍者見たいな事するじゃねーか。

 俺の中でさっきまでの忍者疑惑が少し晴れた。


 ……連絡先とか交換してないけど矢文とか送ってこないよな?

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