第24話 賢者の木は宝を見つける

 「ただいま戻りました。周辺を調査しましが、新たな魔物の出現や、大量のストーンゴーレム発生に繋がる鉱物などを発見する事は出来ませんでした」


 ジャンヌ、以下騎士団全体は、休む事なく建物周囲の警戒や周辺調査を行っていた。

 

 ストーンゴーレムの残骸なども調査し、残骸に含まれていた鉄や鉱石量などから、かなりの鉱物が近くにある事が想定された。


 「やはりやはりスミス様の言う通り、近くに鉱物が大量に保管されている可能性は高そうですね!」


 「……はい。必ずあると思います。職人気質で、鍛冶仕事にしか目がない父でしたが、剣の腕前は『円卓の騎士』にも劣らないと言われたほどでした。そんな父が、あの男に敗れるはずがない」


 幼い頃から鍛治の仕事以外に、剣術や様々な武器の扱い方を教え込まれ、父親との模擬戦では一度も勝てなかったスミス。父親の生存は不明だが、あの時のあの男を必ず倒し、あの場所を守りきっただろうと信じてならなかった。

 

 「絶対あるさ!間違いなくな!。だって親父さん強かったんだろ、その変な騎士倒して、その後地下を隠して脱出してるさ絶対!」


 「……そうですね。ありがとうございます大樹君」


 大樹の優しい気遣いに、スミスは少々笑みを浮かべる。

 

 それから、戻ったジャンヌ達全員の休憩を取り終え、一同はスミスに案内される形で、廃屋の奥へと足を進めた。


 父親の鍛冶場だった面影は今はほぼ無く、積み重なった灰とホコリが、一面に舞うばかりの光景だった。

 

 あの日スミスが父親の後を付いて向かった奥の部屋。その部屋にあった地下への入口は当時のままで、明かりを灯し、ゆっくりと地下へと進むと真っ暗な開けた場所へ出る。


 部屋の入口付近にあった燭台へ火を灯すと、仕掛けによって部屋全体が明るく照らされる。


 そこで見た光景に、一同は衝撃を隠せなかった。


 「……ふっ、笑ってしまいますね」


 中でも一番衝撃を受けたのはスミスだった。あの日見た大量の鉱物や武器は、一つ残らず無くなっていたのだ。


 「ここにあったんだな?」


 「ええ……。ですが何も無い……何も残ってなど無かった……」


 落胆するスミス。それでも微かな希望を信じて、大樹達は部屋を隅々まで確認した。


 「?、おいみんな!こっち来てくれ!」


 部屋の最奥、そこで大樹は、壁に寄りかかって朽ち果てている骸骨を発見。


 「これって、その……スミスの親父さん?」


 「……ここに残っている装飾品、父が使っていた物で間違いないです……」


 「……」


 「笑ってしまいますよ本当に。恩義だかなんだか知りませんが、結局命を落とし、この場所も守れなかったのですから……」


 「……何言ってんだ、親父さん『宝』守ったじゃねぇか」


 「いいえ!父は守れなかった!何もかも守れず、無駄死にしたんです!」


 否定し続けるスミスに、大樹はカッと胸ぐらを掴む。


 「親父さんは!『お前って言う『宝を』守ったんじゃねぇか!!』」


 呆気に取られ、ポカンと大樹を見るスミス。


 「親父さんが守りたかったのはちんけな石ころじゃねぇ!、お前って言う最高の原石を、世界に一つしか無い最高の宝を守りたかったんだ!」


 「……そっ、そんなはずありません。私などより鍛治職を優先するような父親です。それに私は、父親から愛情など感じた事などありません。私が教えられた全ては、自身の仕事のついでくらいに行っていた事なのです」


 「っ!!、てめー!!」


 「だっ大樹殿!、暴力はいけません!暴力は!」


 聞き分けのないスミスに大樹は拳を握り殴りかかろうとしたその時。スミスのペンダントは淡い光を放つと、骸骨が寄り掛かっていた壁が、ゆっくりと開き始める。


 『こっ!?これは!』


 開いた壁の向こう側に、もう一つの空間が現れる。その場所には希少な鉱石や大量の鉄、壁や台の上に飾られた様々な武器の数々。

 それを目にしたスミスは、あの日見た物以上の衝撃を受けた。


 「すっ、凄いです!スミス様が言っていた通り!いや、それ以上です!」


 『これほどの物がまだ残っていたなんて……信じられませんね……』


 一同が様々な鉱石や武器に歓喜する中、スミスは大量の武器や鉱石などには眼もくれず、導かれるように部屋の中央へ歩みを進める。

 中央には台座が置かれており、何かをはめ込む窪みのようなものがあった。


 スミスはまるで知っていたかのように、手にしたペンダントを窪みにはめ込んだ。すると反応するようにペンダントが淡く光始め、地面の仕掛けが動き、地面から宝箱が現れる。


 スミスが宝箱を開けると、中には『見覚えのある古びた剣』と一通の手紙が入っていた。

 すぐさま手紙を手に取ると一読し、スミスは涙する。


       愛しき我が子へ


 この場所へと足を踏み入れ、この手紙を見つけたならば、私はもうこの世にはいないだろう。アーサー王より賜った、この場所とこの数々の品を守る事が、私に与えられた、あの方との固い約束だった。お前がまだ物心つかぬ時に妻を無くした私を、アーサー王は大変よくしてくださった。時に私以上に胸を痛めて下さったあの方に、そして、国を、民達を一番に考えるあの方に、何としてもお応えせねばと必死になり、『とても大切なもの』を見失っていた。この手紙を読んでいるのがお前なら、どうか許してほしい。もっと側に居るべきだった、もっと色んな事を教えるべきだった、もっとお前の力になるべきだった。なんとも情けない。そしてどうか私からの最後の頼みだ、どうか、どうか健やかに生きてほしい、いつまでも私はお前を……


      『愛している』


 ポタポタと涙が乾いた地面を濡らす。



 (見てくれ親父!、俺が初めて作ったんだ!親父へのプレゼントだ!)


 (……そんなガラクタとっとと捨てちまえ。仕事の邪魔だ!向こうへ行ってろ!)


 (けっ!なんだよ、人がせっかく作ってやったのによ!)


 (うるさい!『行け』!!)


 (ぐっ!!この鍛冶バカ親父!!)


 

 「あの時の『ガラクタ』、大事に持ってんじゃないかよ……」


 

 どんな美しい宝石より、どんなに価値ある物であっても、『家族に勝る宝は無い』。それはどんなに高価な剣であっても斬れない『絆』を持ち。どんなに注いでも溢れきらない『愛』を注げる存在なのだから。


 

 「ありがとう大樹君。私は間違っていたのかもしれない、それに君は気付かせてくれた」


 「俺は何にもしてないよっ。スミスが自分で辿り着いた答えなのさ」


 『カッコいい事言ってんな、ですよ全く』

 

 「だあぁぁぁぁ!!横からちゃちゃ入れんじゃねぇ!しまらねぇだろうがぁ!!」


 「はははっ!!」


 今度は心の奥から笑えた。スミスの心の中にかかっていた霧のようなモヤモヤは、この笑いと共に消え去った。


 それから地下の遺体を地上へ埋蔵し、簡易的な墓を家の側に建てる。大量の鉱物の運搬は現状の人数では厳しいと判断。報告のために少量持ち帰り、大樹達はその場を後にした。


 夕暮れ時、街に戻った一行はベディヴィアへ報告をするため騎士団本部へ立ち寄っていた。報告を終えると、ベディヴィアは地下の資源について今後の方針を出す。

 大樹達が向かった場所へ数十名編成で部隊を送り、少しづつ回収する事となった。


 その後、鍛治職人長兼、騎士団員としてスミスが入団し、この運搬の部隊の指揮をとった。


 しかしこの入団にはスミスの『希望』を叶える事で了承したのだが、その希望をと言うのが、大樹の部隊への編入だった。

 最初大樹は断ったが、スミスの熱意に負けて渋々了承した。


 これによって再再度見直された部隊編成は、組み込まれる形だった大樹を、一つの独立部隊として編成しなおし、団長を大樹、副団長をジャンヌ、部隊の頭脳役、参謀に魔道書、切込隊長をスミス、以下数名による突起戦力部隊が誕生した。


 賢者の木である大樹のイメージカラーとして『翠(緑)』と、魔道書が参謀による部隊の名前は、『翠の魔導部隊』。

 のちに大陸全土に知れ渡るこの名は、今は小さな灯火のように小さな種火だが、しだいに大きく燃え上がり、世界屈指の最強部隊へと成長する。


→→→→→…………。


 時を同じくして、ブリタニア国内某鉱山、採石場跡地。

 

 採石跡地から、一定の探索と情報を得たカインの部隊は、鉱山から撤退するため準備を進めていたところ、謎の3個小隊ほどの部隊を発見。目的は不明だが、全体が赤で統一された鎧を纏い、戦争でも始めるのかと言わないばかりの武装をしている。


 「至急ベディヴィア様に報告を!」


 物陰に姿を隠しながら、慎重、にベディヴィアへの応援要請を通達するよう部下に命じた。

 カインはこの一団を危険と判断。現状部隊では対処不可能とし、至急応援を要請した。


 赤い鎧の一団の先頭に立って指揮する男。男はギラリと光るメガネの内側で、殺意に満ちた鋭い目付で、不気味に笑みを浮かべていた。

 

 


 

 

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