第23話 賢者の木は休憩する

 前線の3人の戦闘が激し過ぎたためか、後方の騎士達は半ば呆然と立ち尽くしていた。

 ある者は自分達はこの場に必要だったのかと思うくらいに、ただ剣を構えて、来ることの無い敵を待つばかりである。


 それからしばらく経って、辺り一面ストーンゴーレムの残骸が散らばる大地に、全てを殲滅し終えた3人。まだ生き残りがいないか警戒しながら後方の部隊と合流した。


 「やれやれこれで全部みたいだな」


 「お見事です大樹殿!、それからスミス殿も、まるで鬼神の如き活躍でした!」


 「お褒めの言葉、感謝致しますジャンヌ様。あなた様も、見事な槍捌きでした」


 「いやぁ〜、自分はまだまだでありますよ!」


 スミスに褒められた事が、純粋に嬉しかったジャンヌは顔を赤らめる。


 『スキル、『鉱物耐性』、『硬質化』を習得致しました』


 「何だ?硬質化って?」


 『自身の一部を硬化させる事ができ、防御値を少し上げられます。さらに自身の持つ装備、アイテムなどにも付与させる事が可能です』


 「すげーじゃん!メタルマンやん!」


 魔導書の説明を聞いた大樹は、早速硬質化のスキルを使用。腕、足、胴回りなど、制限はあるが鉱物のように硬くなっている。


 「そんでこれも!」


 次に試すべく取り出したのは、アルファとの訓練で使用する木剣。幾度となく使用しているため、剣はボロボロだが、ここに硬質化を加えたらどうなるのか。大樹はワクワクの冒険心を抑えられないため、早速これを試す。


 『これは……』


 スキル硬質化を使用した木剣は、みるみる硬質化。しかし、その見た目はまるで、硬くなったと言うよりは、材質が変わったように、木から、鉱物で出来た全く別の物へと変わっていた。


 「!?。大樹君、少しその剣を見せてもらっても?」


 目の色を変えたように、スミスは飛びつくように大樹に声を掛けた。


 「おっ、おう!?」


 スミスは大樹から剣を受け取ると、隅々までその剣を確認する。


 「これは素晴らしい!」


 隅々まで調べ上げ、満足したように剣を大樹へ返すスミス。


 「大樹君。いったいこれをどうやって?」


 真剣な目で、さらに興味津々に尋ねるスミスに、大樹は少し驚いてたじろいでしまう。


 「えっと……これはその…。新しいスキル覚えたからちょっと試したって言うか……その……」


 「ふむふむ!」


 興味津々に食い付いてくるスミスに、半分以上何の事だか全く理解出来ない大樹。ただスキルを使ってどうなるか確かめたかっただけなのに、ノーマークの人物からこんなに熱烈でアプローチを受けるとは。

 その様子にため息を漏らした魔導書は、すかさず大樹のフォローに入った。


 『『材質変化』、武器に魔法や貴重な鉱石などを一時的に付与する『エンチャント』とは違い、その物自体を別の物質へと変化させています』


 「なんと!、そのような事が可能なんですか!」


 『つまりですね、それは……』


 その後呪文のように魔導書は説明を始めた。なんとなく聞いた説明では、スキル硬質化を使用した剣は、本来強度を増す、といった効果しか得られないはずなのだが、何らかの影響で、木剣から別の物質で出来た剣へ変化してしまったのだと言う。

 この世界でそのような事が出来る者や技術は存在しておらず、当然鍛治職人のスミスが飛びついて来るような話になるのは仕方がない。

 エンチャントと言う武器やアイテムに効果を付与する技術は流通しているが、扱える者は国ごとに見てもごく僅かだそうだ。

 スミスも完全なまでとはいかないものの、簡易的にエンチャントを行うことが出来るらしい。

 

 盛り上がるスミスに、大樹を含め、その場の他の全員は全く話が理解出来なかったが、とにかくすごい事なんだとは理解出来た。


 2人の白熱した話が長引いたため、戦闘疲れに増して疲れてしまったその他一同は休憩を要求。近くにあった廃屋でしばし休憩する事になった。


 「我を忘れて魔導書様の話を聞き入ってしまいました。任務に支障を出して大変申し訳ない」


 頭を下げるスミス。疲れ切ってしまった大樹は、少し散々な気持ちで答える。


 「まぁその、支障ってか……、熱が入りすぎると人間怖いなって気持ちになった…」


 『私はまだまだ語り足りませんが、任務に支障を来すのは望むところではありません。あと私は人ではありません『魔導書』です』


 「例えだよ例え、浮遊するぱっと見モンスターみたいな本誰が人間と見間違うかよ」


 『失礼ですね!!誰がモンスターですか!自壊させますよ!』


 「何だと!やれるもんならやってみろ!」


 『面白い!今すぐ消滅して差し上げます!』

 

 目の前でいがみ合う二人の姿を見て、スミスはクスリと笑う。

 そんなスミスの一面を見て、いがみ合っていた二人も喧嘩を止めた。

 

 「笑うなんて久しぶりです。子供の頃以来でしょうか……」


 「俺達がそんなに面白かったのか?」


 「……」


 スミスは急に黙ると、首に下げていたペンダントを手に取った。


 「私は物心付いた時から父親と二人暮らしでした。鍛治職人だった父はとても寡黙で職人肌な人で、私に鍛治職の技術を教える時以外はいっさい口を開かない人でした……」


 「ブリタニア随一の鍛治職人と呼ばれた父を、尊敬はしていましが、私ではなく、鍛治に一心を注ぐ父に何処か疎外感を感じていた自分がいます……」

 

 「……そんなある日、国内で大規模な侵略と内乱が起きたのです」


 「それって……」

 

 『……モードレッド様です……』


 「洪水のように襲い来る正体不明の軍隊と魔物の群れ。街は炎に包まれ、辺りは瓦礫と負傷者で溢れかえっていました……」


 目を閉じると蘇る当時の記憶。逃げ出す人々の悲鳴と、破壊の限りを尽くす者達。逃げ遅れた者や捕まった者は業火に包まれ塵となり、まるで地獄を見ているようだった。


 ======→→→→→→


 時を遡る事、ブリタニア国内。キャメロット城下街


 目を背けたくなる光景だった。それまで当たり前に感じていたいつもの風景は、一瞬にして炎に包まれた。


 迫る炎と追手を掻い潜り、スミスは父の鍛冶場へ向かっていた。


 「親父!、街は炎に包まれて、武装した兵士や魔物が人を襲ってる!早く俺達もここから早く逃げないと!」


 スミスの問いかけに、見向きもせずに鉄を打っていた父親は、ゆっくりとハンマーを台に置くと立ち上がり、建物の奥の部屋へと歩みを進めた。


 「何してんだ親父!早く逃げるんだって!」


 しだいに耳に飛び込んでくる悲鳴と怒号。火の手もすでに建物のすぐ近くまで迫っていた。

 「お前はすぐにここを離れろ!」

 

 スミスの問いかけに応じない父親をそれでも無理矢理連れ出そうと追いかけたスミスは、奥の部屋から秘密の地下へ通じる地下通路を見つける。


 「こんな場所に地下通路?いったいこの先に何が?」


 通路を少し進むと、開けた場所へ出る。


 「なっ、なんだこの場所は!」


 その場所には様々な鉱石や大量の鉄、様々な武器が保管されていた。瞬時にこれが、鍛治職人の間で語り継がれていた、この国の軍事力の一旦を担う鉱物保管庫であると。


 「お前!早くここを離れろと言っただろう!」


 「こんな物!今はどうでもいいだろう!!それよりも早く逃げないと!」


 「……ワシはここを守らなければならん」


 「何言ってんだ!こんなの今じゃただの石ころだ!それより命のほうが大事だろうが!」


 「鍛治職人長として、アーサー王から受けた恩義を返さねばならん。それに、ここにはワシの『宝』がある。それを失うわけにはいかない!だから、早く行け!」


 (ガツ、ガツ、ガツ)突如スミスの背後から足音が迫る。何者かがこちらへ向かって来ているようだった。


 「ほほぅ〜これは素晴らしい!。あのお方への献上品にふさわしい代物だ」


 「誰だ!」


 一般の兵装とは思えない派手な鎧に、変わった2種類剣を携えた長身のメガネ男。


 「おっとこれは失礼。私は御方に使えし剣、『オルト・バーンズ』と申します」


 丁寧に挨拶する男の不気味さと溢れ出る殺気に、スミスは携えてあた剣を構える。


 「おっと、いけませんいけません。そんな危険な物を向けられたら……」


 「『殺したくなっちゃうじゃないですか!』」


 男は瞬時に抜いた2本の剣でスミスを斬りつける。

 「ぐあっ!!」


 2本の剣はスミスの顔を十字に斬り裂き、大量の血を噴き出させる。


 「スミス!!」


 見かねたスミスの父親は、近くの武器を手に取り男に応戦。


 「おや?、あなたなかなかやりますね。それにその武器、私の『コレクション』にふさわしい!」


 激痛にもだえる中、なんとか立ち上がったスミスに、父親はペンダントを投げ渡した。


 「それを持って早く逃げろ!」

 

 「だっ……だけど親父……」


 「行け!!」


 怒鳴られた事が怖かったためか、それともこの場所にこだわって逃げようてしなかった父親への怒りか。全力でその場から走り去った。


 その後の事はあまり覚えていない。炎に沈む街から必死に逃げながらだだ走った。

 途中意識を失い倒れた俺を、近くの村人が救ってくれたのだ。


 =====→→→→→。


 「それから私は、ある日村へ来たベディヴィア様から話を聞き、ここへ戻ってきたと言うわけです」

 

 「……んじゃ、地下に保管されてるかもしれない鉱物ってのはその時の…」


 「はい。父が命を懸けて守ろうとした『宝』だそうです……」


 「……」


 スミスは大樹を見て少し苦笑いした。休憩にと入ったこの廃屋が、くしくもあの日逃げ出した父の鉱場跡だったためもあって。


 

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