第22話 賢者の木は新たに任務を受ける

 →→→→→………。


 衝撃の黒幕を聞かされた会議からさらに数日。ベディヴィアは今まで以上にキャメロットの復興や、ブリタニア各地に散った仲間をかき集めるため走り回っていた。


 俺はと言うと、国を滅ぼした黒幕がモードレッドとか言う時期国王で、そいつが復興途中のこの場所を狙っている可能性があると聞かされて、『そんな事言われても』という気分だった。

 ベディヴィアが言った兵力の増強という件については、ブロンズスケルトンとゾンビマスターを倒した功績がみとめられて、現状キャメロットの最高戦力として、ベディヴィア、アルファ、そして俺が選ばれた。


 騎士団の部隊編成も見直され、全騎士団の部隊長長を務めるカイン率いる調査、潜入を、主とする斥候部隊。ジャンヌが部隊長を務め、別働隊としての任務が主な支援部隊。そしてその他三部隊を含めた全五部隊。俺は任務の際には遊撃隊としてジャンヌ隊と行動を共にする事になっている。

 組み込まれる形になってはいるが、実質ではジャンヌ隊は大樹直轄の部隊として存在しており、これに関してはジャンヌ自らベディヴィアに進言して叶った結果である。

 

 ベディヴィアは最高責任者として、作戦の立案や指示を出す後方支援、時に前線に立って戦うオールラウンダーとして行動し、アルファはキラーウルフの女性陣を中心に集めた突起部隊を編成した。

 有事や任務の際にジャンヌと共に出撃する俺を、『旦那様を守るのはワシじゃ』と終始納得のいかない様子で叫んでいたが、これはこれで決まり事だとベディヴィアがこれを押し通した。


 現状戦える者はまだまだ少ないが、ベディヴィアの頑張りのおかげで、各地モードレッドから被害を受けた者達も集まり、着々と人は集まりつつある。

 

 しかしここまで人が集まって、今まで外部からの干渉が無いのは奇跡だとベディヴィアは驚いていた。自分達が設置した結界ではここまでの結果は得られなかったと言っていた。

 そこは魔導書いわく、何か不思議な力が働いている可能性があると言っていたが詳細は不明だ。


 最後に現状兵力の増強に伴って優先的に必要と言っていたのが『武器』である。

 武器を製造できる鍛治職の者も現状少数存在するのだが、作れる者はいれど『材料』が無い。

 武器を作るのに必要な鉄や鉱石は、現状貿易など行なっていないため入ってくる事はない。しかし、今後必ず必要となってくるのは確実であるため、これを手に入れるべく、近くの鉱山跡地に部隊を派遣。外に出る事が出来ない俺は、ベディヴィアからある事を頼まれた。


 そんなある日の出来事だ。


 「鍛冶屋のスミスって奴を連れてこの場所へ行ってほしい?だって!?」


 「そうだ。かつてこの場所一帯は国の軍事的製造拠点、つまりこの場所一帯は武器の製造に携わる物が沢山集められていたんだ」


 ベディヴィアが地図で指差す場所は、現在大樹達がいる場所から南に進んだ南門と呼ばれる場所の近くである。


 「奴らによってこの場所は徹底的に潰されてしまったが、当時この場所で働いていたスミス氏から、地下に大量の鉱石を保管していたという話を聞いた」


 「でも徹底的に潰されたんじゃ、もう何も残ってないんじゃない?」

 

 「いえ、確かにそこにあると、私は今も思っています」


 話に割って入ったのは長身の男。顔に十字の傷があり、そのためあってか少し強面に感じる印象だった。

 

 「いい所へ来たスミス氏。大樹紹介しよう、彼が現在キャメロットの鍛冶職筆頭を務めている……」


 「スミス・ラウノス。しがない鍛治職人です。どうぞよろしく」


 第一印象が強面の顔だったこともあり、もっとゴツい感じを想像していたが、全く逆で礼儀正しく、鍛冶職だからゴリマッチョというわけでもなくむしろ細マッチョ。まさに男子の理想の体型である。


 スミスから挨拶と共に握手を求められる大樹。


 「えっと、賢者の木ってやってます。だっ大樹です、よろしく……」


 『何照れてるんですか気持ち悪い』


 「うっせぇぞ!魔導書!」


 男子としてどこか格差のような、負けてしまったように感じてしまった大樹は、少し恥ずかしそうに握手を交わした。


 「さて、挨拶も済ませたところで、本題に入ろう」


 今度は話にスミスも混ぜて、今回の詳しい任務ついて話し合いが行われた。

 出発は現時刻をもって速やかに。だが実際は、ジャンヌの舞台が到着次第。今回護衛にジャンヌ、他騎士団数名を連れての現地調査という事になっている。


 目的地まではそれほど時間はかからないだろうが、偵察隊の報告で魔物が辺りに住み着いているという目撃情報が上がっていて、少数では危険と判断。そういうわけで今回ジャンヌが派遣された。

 あくまで現地調査であり、鉱石が発見出来ても出来なくても、その情報を持ち帰るのが最重要任務である。


 しばらくしてジャンヌの部隊が到着。ベディヴィアから簡単に説明を受け、その後すぐさま目的地へ向かって出発した。


 「お久しぶりです大樹殿。また同じ部隊で出撃出来る事、大変光栄に思います」

 

 「こっちこそよろしくなジャンヌ!やっぱり美人の巨乳女騎士がいると俺のモチベーションは高まるぜ」


 『まったくあなたは懲りませんね、自戒させますよ……』


 「はははっ、でっですが、私なんぞより魅力的なアルファ様がいつも側におられるではないですか」


 「ああっ、それな……」


 隙あらば大樹に擦り寄って来るアルファ。確かに彼女は魅力的な豊満ボディのお姉さんなのだが、あまりに見慣れてしまってなおかつ無駄遣いのようにその身を委ねてくるので、大樹にはアルファに対して変に耐性が出来てしまっていた。

 やはりたまに見る美人な女性というのが新鮮で心地いい。


 「アルファに関しては美人の無駄遣いだ。それにやっと抜け出せたって気分なんだ…」


 朝昼晩、アルファが特別な任務で出向く事以外常にアルファと共に生活している。今回もついて行きたいとさいさん駄々を捏ねられたが、そこはベディヴィアが別の任務をアルファに与え、これを阻止した。

 

 「久々の自由と目の保養ってやつさ!」


 「はははっ……、大樹殿も大変なのですね……」


 「……それよかジャンヌ、その…ごめんな借りた剣……」


 「……気にしないで下さい!あれでピンチを潜り抜けられたのですから、むしろお役に立てて光栄です!」


 「……」


 ブロンズスケルトンに放った剣は、形状を変え槍となったが、地下の一件後、あの場所の槍は無くなっていた。おそらくあの二人組に持ち去られた可能性が高いと判断された。


 大樹はジャンヌの大事な剣を無くしてしまった事に酷く責任を感じていた。それゆえ必ずあの剣をジャンヌへ返そうと心に決めていた。


 目的地へ向かう中、いくつか廃墟となった家屋を発見し、簡単に中を捜索したが特に何も見当たらない。焼き尽くされたというのはここまで何も残らないものなのかと大樹は憤りを感じる。


 今回急な任務だったためもあるが、大樹は騎士団から借りた剣のみの軽装備。ジャンヌは一式の装備、部下の騎士も同義で、スミスは鍛治職人ゆえか、腰に鍛治道具一式と、肢の短い斧を背中に背負っていた。


 「全体止まって下さい!敵襲です!」


 目的地まではあとわずか、それまで全く姿を見せなかった魔物が突如道を塞ぐように現れた。


 「ストーンゴーレム!それもこんなに沢山!」


 大小デコボコとした形の岩や鉱石で形作られた人型の魔物。それが数体ではなく大量に行く手を塞いでいる。


 「この場所にこいつらが現れたという事は、私の読みも信憑性を増しますね」


 スミスは警戒はしつつも、どこか嬉しそうに胸を高鳴らす。


 「どういう事だ魔導書?」


 『ストーンゴーレムは本来鉱物などが豊かな洞窟や鉱山などに現れる魔物です。つまりあれらが、しかも大量にいるという事は、近くに鉱物が大量にある可能性が高いという事です』


 「へぇ〜なるほどねぇ〜。そんで奴らは強いのか?」


 『体を形作っている鉱石が硬いため、物理攻撃はあまり期待できません。ですが足は遅く、単体としてはスケルトンの少し上と言ったところですかね』


 「じゃあ俺はあんまり役に立たないって感じか?」


 『そうでもありません。なぜならあの魔物が人型を形作るのには体内魔力を有しているからです』


 「つまり俺のドレインで攻撃すると……」

 

 『形作る事が出来なくなり、ボロボロと崩れ落ちるでしょう』

 

 「なるほどね(ニカッ)」


 『うーわ、それやめた方がいいですよ本当に』


 「うっせ!!」


 ジリジリとゆっくりとではあるが、ストーンゴーレムは大樹達に向かって前進を始めた。


 「一番槍、ジャンヌ・ラピュセル!推して参ります!」


 自前の槍を構え、魔物の群れへ向かって飛び込むジャンヌ。ストーンゴーレムの弱点である魔力供給の心臓部を見抜き、唯一脆いその場所に槍を突き刺し次々と倒していく。


 「私も少しお手伝いしよう」


 ジャンヌの奮迅に、スミスは奮起され、背中の斧を手に取ると、短い肢の部分を手に取り地面に振り下ろす。


 「デーモンテール」


 振り下ろされた斧は、スミスの身長を超える長さに伸び、刃の部分がさらに1段階鋭利さを増す。

 スミスはその巨大な斧を軽々と振り回し、ストーンゴーレムを次々と叩き割っていく。


 「あいつやるじゃん!。そんじゃ俺も、活躍すると参りますか!」


 『調子に乗って皆さんの邪魔をしないようにして下さいよ』


 「ぐぬぬっ!、見てろよテメー!!」


 遅れて参陣する大樹。特にこの三人の戦闘は凄まじく、ストーンゴーレムは次々と数を減らして行った。

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