第21話 賢者の木は新たな脅威に恐怖する
「さよ〜なら〜♪」
鎌が大樹に直撃する瞬間、凄まじいスピードで駆け寄る影が一つ。
「空閃脚!!」
ギリギリのところで駆け付けたアルファの一撃によって、鎌は彼方に蹴り飛ばされる。
「ウザいんだけど!!」
ローブの少女は瞬時に出した新たな鎌を両手に握り、アルファ目掛けて襲いかかる。
「なんじゃこやつは!」
凄まじい鎌の連撃に、アルファも華麗な足捌きで応戦。両者、力は拮抗し、一歩も譲らず勝負はつかない。
「うっとうしい『獣人』ふぜいが!私と殺りあうなんて100年早いんだよ!!」
「はっ!、どこの誰かは知らんが。小娘ふぜいに遅れなど取らんわ!!」
激しさを増す両者の戦闘。間一髪助かった大樹も、あまりの現実離れした戦闘に、ただただ目を見張るばかりだった。
次第にアルファが優勢に立つようになり、蹴りの数発が少女に命中。ローブがはだけ、中から血をかぶったような赤い髪の少女の姿が現わになる。
「なんじゃ、本当に子供ではないか」
「殺す!、お前は絶対殺す!!」
少女は一旦アルファから距離をとる。
「『絶死の魔鎌』、これで終わりにしてやる!」
少女が召喚した巨大な魔鎌。まるで生き物のような異形の形で、刃の付け根の部分に巨大な目、刃の部分はまるで口のようになっており、それ単体が今にも襲い掛かって来そうな威圧感を放っていた。
「あれはちょっとヤバそうじゃのう……」
魔鎌から感じる威圧感に、アルファは少し恐怖した。直撃を受ければおそらく自分もただでは済まないだろう。そもそも避けるというのは無理がある、後ろに控えている大樹にも危険が及ぶ可能性が高い。
ならばと……。
アルファはゆっくりと腰を落とした。それは一気に距離を詰めるため、相手よりも先に、こちらの最高の一撃を出すしか無いと判断する。
「何?、諦めたの?」
「……『白狼技』……」
『白狼技』、アルファの最大技である。極限のスピードから繰り出される神速の如き一撃。限界を越えるスピードから繰り出される衝撃は、古に存在せし伝説の聖獣、『白狼』の一撃の彷彿とさせると言われている。
お互いが最大の一撃を放つべく睨み合いを続け、ここぞと言うタイミングを見計らう。
「来ないならそこで果てろ!『絶死斬・円界』!」
先に仕掛けたのは赤髪の少女。異形の鎌を円形に振り斬る。
しかし、振り切る前に仕掛けたのはアルファのほうだった。鎌の一撃が放たれる刹那、白い稲妻のような速さで距離を詰め、凄まじい速さで蹴り込む。
「『白王牙』!!」
アルファの一撃は完全に相手を捉えていた。
だが……。
「そこまでにしてもらおう」
アルファの足と少女の鎌は、わって入るように現れた大男によって静止されていた。
それまでこちらの戦闘など、あまり興味の無いかのように見ていた男が、アルファよりも速いスピードで、二人の間に現れる。
アルファは少し恐怖した。その驚愕のスピードもさることながら、自身の渾身の一撃を腕一本で止められている事実。
「相手の力量を測り間違えたな『カイーナ』、俺が止めに入らなければお前は致命傷を負っていただろう」
「くっ!、『コキュート』!!」
コキュートと呼ばれる大男は、アルファをそのまま大樹に向かって放り投げる。
「撤退だ。これ以上の任務外行動は無意味だ」
「ちっ!」
そう言うと、2人は地下の闇に紛れるようにその場から立ち去ろうとする。
「まて!、貴様らは何者じゃ!!何の目的で現れたんじゃ!!」
「……」
そのまま2人は何も答えず闇に消える。
それまで恐怖で口を開けなかった魔導書は、2人の反応が完全に消えた事を確認し、これを皆に伝えた。
しばらくして、遅れて駆け付けたベディヴィアとカインの部隊が合流し、動ける者が負傷者を救護し、直ちに地上を目指し、その場を速やかに後にした。
→→→→→……………。
しばし時は流れ、地下の探索から5日が経った。
地下の空洞の探索と、白愛の鎧の回収が目的であったこたびの出来事は、鎧の回収は何者かに阻まれ、死傷者を多数出すという最悪の結果に終わった。
ベディヴィアはこの事実を重く受け止め、一時地下の探索の続行を中止し、入口を固く封鎖。周囲に騎士の見張りを付け、ここを厳重に監視した。
地下に現れたゾンビの大群や、それを操っていたゾンビマスター、ブロンズスケルトンについては、当事者の目撃談を元に完全に消滅したとした。
さらに、地下に現れた謎の二人組、カイーナとコキュート。この2人が、最優先回収目標である白愛の鎧を持ち去られた件については、目的などは不明で、任務で動いているという観点から、裏に組織的な関与があるとベディヴィアは推測。
現時点で追撃などの様子は見られないが、少なくとも自分達に害ある存在である事には違いなく、情報を集めると共に、対策と警戒を強めている。
「鎧を持ち去った二人組、いったい何者なんだ?」
騎士団の会議室の一室で、ベディヴィア、アルファ、大樹、ジャンヌ、カイン、それからその場に居合わせた騎士数名を集めて会議が行われていた。
「目的はわからんが、かなりの手練れ。そして奴らはあの場所で何かの『実験』を行なっていたのではないかとワシは思う」
「実験?、どういう事だアルファ?」
「詳しくはわからんが、あまりに事が上手く回りすぎているきがするんじゃ」
『アルファ様の意見は正しです。本来あり得ないはずのブロンズスケルトンの鎧装着や、ゾンビマスターによる期待値以上のゾンビの召喚。そもそもここら一帯に、あのような魔物の出現報告は聞いた事がありません』
「つまり、この一連の出来事には、この2人が関与している可能性が高いと言う事ですね魔導書様」
『確証はありませんがおそらく……』
仮にあの二人組が関与していたとして、結果的に踊らされていた事実は変わらない。この場所で最強であるアルファと同等、それ以上の存在で脅威である事には変わりない。
「早急に兵力の増強が必要だな……」
そう言うとベディヴィアは立ち上がり、棚から一枚の地図を手に取り机に広げた。
「これを見てくれ。こちらはキャメロット城現跡地、当時のここら一帯の地図になる」
広げられた地図。キャメロット城を中心に、円形に描かれた当時の建物の配置や地形などが確認できる地図である。
「現在我々は復興を急いでいるが、現在の復帰率は全体の10%にも及ばない」
ベディヴィアが指で小さく囲む辺り、当時の全体図からほんの僅かな部分を復興させて自分達が住んでいる事がわかる。
「こっ、こんなに建物建ってんのに、まだそんなちっこい所だけかよ!」
「現状、復興地以外見渡す限りの荒野だが、各所に跡地としていくつか建物は残っている。当時は人も、建物も、今の何十倍何百倍も存在していた」
当時の風景を脳裏に浮かべるベディヴィア。今の現状とは比べものにならないほどの大勢の民。所狭しと建てられた無数の建物。それを囲むように築かれた高く厚い壁。
今は見る影もない。ここまで圧倒的に破壊し尽くした、敵を皮肉にも笑ってしまいそうだった。
「それが、どうしてこんなになっちまったんだ?。誰なんだよ!これをやった奴って!!」
その場にいる大樹とアルファ以外、その場にいて目にした者達は当時の事を思い出すと悍ましく口を閉ざす。
そんな中、暗雲を晴らすように、魔導書はゆっくりと語り始める。
『キャメロットを、ブリタニアを恐怖に貶めしその悪鬼は、円卓の騎士、そしてブリタニア国王アーサー王の息子にして、時期国王であった……』
『……大罪人、煉獄卿モードレッド様です』
→→→→→…………。
ブリタニア国内某所。
(ガチッ)開いたドアを抜け、煌びやかな装飾や巨大な細工の柱で飾られる広い廊下を進み、突き当たりの巨大なドアを開け、中に進む二人組。
「ただいま戻りました陛下。コキュート、並びにカイーナ、御身の前に」
膝を折り、奥にある玉座に向かって頭を下げるコキュートとカイーナ。
「よくぞ戻った。我が従順たる剣達よ、こたびの仕事、誠に大義であった」
「はっ!お褒めの言葉、誠に嬉しく存じます」
「………」
「よい。それよりも、面白い物を手みあげにしたようだな」
そう言うと、近くの側近が、槍を一つ玉座の男に献上する。
「これは……」
槍を手に取ると、形状と性質を瞬時に確認。そのままニヤリと笑みを浮かべると、槍を2つにへし折った。
折られた槍は、元の折れた剣に戻り、それをそのまま側近に手渡した。
「このような芸当ができるのは『あやつ』しかおらんが、それは『現状あり得ない』事だ。お前達が出向いた場所にあやつが居るはずがない」
「では陛下、あの者達を殲滅なさっては?」
「『今は無理』だ。あの場所には『あの男』と『母上』が残した忌まわしい結界が残っている。今は手がだせん」
大樹達は知るよしも無いが、未だ外部からの大きな干渉がないのはこの結界のためである。結界の効力は地下深くには及ばないものの、それより上や先は手が出せない。
「そいつらの事は後回しだ。今最優先で行うべきは『奴ら』を探し出す事、そして……」
『法国を滅ぼし、我が領土とする事だ!』
男の言葉に、その場にいた全ての配下が敬服し敬礼する。
玉座の男はモードレッド。ブリタニアを炎に包みし魔王なり。
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