第20話 賢者の木は勝負に出る
「ぐあっ!」
宙を舞う感覚。とっさに構えた行動虚しく、剣は砕け、凄まじい衝撃と共に後ろへ弾き飛ばされた大樹。
『ダメです!すぐに構えて下さい!』
受け身を取る暇なく、地面に転がる大樹に、魔導書はすかさず警告を放つ。
『グオォォォォォ!』
全身に痛みが走る。アンデットへの耐性があるにもかかわらずこの威力。特に胸の辺りは激痛で、そのためか呼吸がままならず、少し脳が揺れたためか、視界が歪んで立ち上がれない。
そんな状態の大樹に、ブロンズスケルトンは片手に持った巨大な剣で追撃する。
ここまでかと思われた大樹だったが、霞む視界の中、目の前に飛び込んできたのはジャンヌ。
「大丈夫ですか大樹殿!」
ジャンヌはブロンズスケルトンの一撃を、間一髪のところで防いでいた。
「……ジャン……ヌ」
大樹が突破口を開いてくれたおかげで、聖女の盾を解除したジャンヌは、今度は逆に攻勢の一手に出た。
戦える者を前衛に、後方の魔法で援護しつつ、一気に突撃。
守りに徹する必要が無くなったジャンヌは、敵の親玉目掛けて突進し、大樹を守った。
「今度はこちらの番です!私の槍捌き、とくとご覧に入れましょう!」
ジャンヌは細い槍で剣を受け流すと、凄まじい槍捌きで次々と攻撃を繰り返す。
「硬い!」
繰り出される槍の一撃は全て全身を覆う白い鎧に弾かれる。
『ジャンヌ様!鎧の部分に物理攻撃は効果がありません!。頭を狙って下さい!』
「頭!?、りょ、了解しました!」
全身鎧のブロンズスケルトンが、唯一生身な部分は頭部。すかさず槍で攻撃するが、自身の弱点だと言わんばかりに頭へのガードが堅い。
鎧部分への攻撃はガードする事無く反撃していたブロンズスケルトンも、頭部への攻撃は必要以上に警戒、腕や剣でガードされ、頭部への攻撃と見切った場合にはカウンターで反撃され、決定打には至らない。
「ダメです!こちらの攻撃は全てかわされ、頭部へのダメージは皆無です!。このままではこちらが消耗しきって負けてしまう!」
『人』である以上、体力の限界は存在する。特にジャンヌにとって、これまでの連戦や、大技である聖女の盾まで使用した現状では、自身でもあと少しの猶予しかないと判断していた。
それに加えて、ブロンズスケルトンのような『アンデット』には体力の概念は無い。『特別な場合』を除き、半永久的に行動可能なアンデット種に対して、消耗戦というのはあまりに不利な状況だった。
ジャンヌが苦戦を強いる中、前進してきた部隊の魔法によって一命を取り留めた大樹。
「くっ、頭クラクラする……」
『すぐに戦えますか?』
「魔導書……。ああっ、なんとか行けそうだ」
病み上がり気味で、まだ足元ふらつく大樹に魔導書の言葉は堪えるが、そうも言ってられない状況だった。
一度は攻勢に打って出た部隊だったが、ゾンビマスターが次々と召喚するゾンビ達に徐々に押し返されていた。
ジャンヌも決定打にならない攻撃から、次第に防戦一方に追い込まれ、徐々に追い込まれて行く。
『現状あなたは貴重な戦力です。このまま行けば、半永久的に生み出されるゾンビに押し切られて全滅します』
「そんな!?……、何か打開策はあるのか!」
『……ブロンズスケルトンに物理攻撃は通用せず、大量のゾンビを突破してゾンビマスターを攻撃するのも現状無理があります』
「ならどうしろってんだ!このまま大人しくやられるの待てってのかよ!」
『………』
苛立つ大樹に、口を閉ざす魔導書。
考えを巡らす魔導書、記憶の隅々まで、深く意識を巡らし何か打開策になるヒントがないか探る。
『……白き鎧は、数多の力を遠ざけ、その身に魔力を蓄える……』
『魔力を蓄える……』
魔導書は記憶の奥にあった白愛の鎧の伝承を呼び起こし、そこからヒントを得た。
『なんとかなるかもしれません』
「本当か!そんで、どうするんだ!?」
『白愛の鎧は物理攻撃への高い耐性を持ち、鎧に一定量の魔力を蓄える事が出来ます』
「それが……どうしたってんだ?」
『一定量の魔力以上、つまり、器を越える魔力を注げば、器は溢れる。器が満たされれば溢れた魔力で本来の機能を失うかもしれません』
「機能を失う?、それに大量の魔力を注ぐってどうやって?」
『ドレインを使います』
「ドレイン!?吸ってどうすんだよ?」
『ドレインを空閃斬で飛ばして、鎧の機能を止めます!』
ドレインの魔力を剣に込め、それを空閃斬で鎧へ飛す。そこまでは何とか理解出来たが、魔力が溢れて鎧の機能が、という説明はいまいち理解できなかった。だが、大樹はそれが唯一の突破口であろうことは理解出来た。
しかし、ドレインを使うと言うのは少なからず魔力を消費する。無限に打てるわけではない。鎧の魔力を満たす前にこちらの魔力が尽きる可能性がある。
「魔力満たす前に、俺の魔力が切れちまうぞ」
『心配ありません。なぜなら『餌』は大量にあるのですから』
「餌?」
餌と言われて周りを見渡す大樹。目の前には大量のゾンビ達。それを見て大樹はハッとする。
「なるほどな、そうとわかったら行動あるのみ!」
大樹は折れたジャンヌの剣を拾い上げ、ゾンビ目掛けて走り出す。
「ドレイン空閃斬!」
無数に群れたゾンビの大群を、大樹のドレイン空閃斬が薙ぎ倒す。
その一撃で回復した魔力を、すかさずドレイン空閃斬でブロンズスケルトンへ向けて放つ。ドレイン空閃斬は、鎧を傷付ける事無く、魔力のみ吸い取られるようにかき消された。
ゾンビマスターは倒されたゾンビを補充するように次々と召喚。それを大樹はすかさず倒し、回復した魔力をブロンズスケルトンへ放つ。
大樹のその行動に警戒を露わにしたブロンズスケルトンは大樹にターゲットを変更。それをジャンヌがすかさず追撃し、足を止める。
「どうやら突破口が見えたようですね!いつまで保つかはわかりませんが、私の全力であなたをお守りします!」
『ジャンヌ様!一撃で構いません、余力を残しておいて下さい!』
「わっ、わかりました!」
繰り返し飛ばされて、鎧に蓄えられるドレインの魔力。しだいに器は満たされ、限界が近くなったのか、斬撃が鎧をかすめる。
『限界が近いようです!あと少しです!』
「うおぉぉぉぉぉ!これでどうだぁ!!」
渾身の魔力を込めて一撃を放つ大樹。鎧に着弾すると、魔力を吸収すると同時に、魔力が満たされ、機能を失い、斬撃で弾き飛ぶ。
『グォォォォォ!』
『今です!ジャンヌ様、聖女の盾を!』
「わかりました!」
ジャンヌは魔導書に言われた通りに、残った魔力で聖女の盾を発動。
『これが最後の切り札!大樹、ジャンヌ様の聖女の盾をドレインで吸収し、それを放って下さい!』
「えっ?えっ?放つって」
『いいから早く!』
それ以上しのごの言わず、大樹は言われた通りドレインを発動。聖女の盾の魔力を吸収し、残り全てを出し切ったジャンヌは魔力切れを起こしその場で気絶。
吸い取った聖女の盾を放つというのがいまいちどういった感覚がわからなかったが、とにかく投げてしまえという結論に至り、思いっきりジャンヌの剣ごと投げ放つ。
『スキル発動。『聖女の一槍』』
放たれた折れた剣は、聖なる光を纏って形を槍に変化。ブロンズスケルトンの頭部を貫き同時に消滅させ、そのまま後方のゾンビを一掃、最後にゾンビマスターを貫き、これを消滅させた。
「やった……勝った……」
安堵して腰を抜かす大樹。そのまま地面にへたれ混む。
『スキル、『聖女の盾』、『聖女の一槍』を習得しました』
ゾンビ達を一掃し、勝利に歓喜を上げる一同。歓喜の声が、地下いっぱいに響き渡る。
「もー戦えない。もー無理よ、今敵来たら終わりだわ……」
『またそんな『不吉』な言い方を。大丈夫ですよ、周りに危険な反応はありません……』
「へ〜今敵来たらやばいんだ」
背後から聞こえる女の声、同時に魔導書に襲い掛かる悍ましいほどね『2つの』殺気。
「面白い力だ、武器の性質が変化している。このような力、『あの方』でなければなし得ない力だ」
『なっ!?』
今まで何の反応も無かった。それが突然、無かった場所にいきなりそれは現れた。
「うへ〜?あんたら誰?」
ローブを被っているため、顔までは確認できないが、大樹の目の前に現れたそれは、子供くらいの背丈で声からして幼い少女。もう一人は大柄な男性という事までは推測できた。
「どうする?今ここで殺しちゃう?」
「俺達の仕事はこの鎧の回収だ」
「じゃあ殺さないの?」
「殺すのは仕事に入っていない」
「じゃあ、殺す手前まで痛めつけるのは私の勝手だよね♪」
「……ふんっ、好きにしろ。手短にな」
「はぁ〜い♪了〜解♪」
そう言うと、ローブの少女は、袖から巨大な鎌を出し、大樹の喉に刃を当てる。
「ちょっとちょっと、どっから出したのそんな物騒な物!」
「大丈夫〜♪。殺しはしないから……さっ♪」
狙いを定めたように、鎌を喉元から離して振りかぶる。殺しはしないと言っていたが、これは完全に死ぬコースだと、大樹は死を覚悟した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます