第19話 賢者の木はチート技を使う

 「今すぐその者から離れなさい!」


 槍を携え、ひどく焦ったように駆け寄るジャンヌ。


 ………最悪の事態。


 まさにその言葉が頭を埋め尽くす。


 「ぐあっ!!」


 かつての仲間であった者に、近くの1人が腕を噛まれる。振り払おうと腕を振るが、深く噛み付いた頭は離れない。


 『その者はゾンビと変わり果てています!。ジャンヌ様!頭を狙って下さい!』


 「はぁぁぁ!!」


 ジャンヌの槍の一閃が、ゾンビの頭をピンポイントで突き飛ばす。


 「大丈夫か!?、急いで手当てを!」


 「まてジャンヌ!囲まれてるぞ!」


 「!?」


 大樹の言葉に周囲を警戒するジャンヌ。この一瞬の間に、通路の前方と後方は大量のゾンビで溢れかえっていた。


 「こりゃさっきの魔物くらい数がいそうだな……」


 通路の幅は人4人分ほど。相手は低級の魔物だが、混戦になれば被害が出るのは免れない。


 「各自、魔法詠唱者を中心に、前後二段構えで応戦!。負傷者は中心に下がらせ急いで治療を!、前衛は私一人で道を切り開き、先程の入口付近まで徐々に後退する!」


 即座に判断したのは前進よりも後退。撤退戦を選択したのは、あまりに敵の数が未知数だからだ。このまま進むより、一度戻って別部隊と合流したほうがいいと判断した。


 「なんかここに来てあんま活躍してないから!、ここでいっちょ手柄を立ててやるぜ!」


 大樹は一人単身でジャンヌとは逆の後衛のゾンビの群れに突き進む。


 「!?、待て大樹殿!一人では危険だ!」


 ジャンヌの静止虚しく、一人突き進む大樹。魔導書の頭を狙えという言葉を思い返し、鍛錬で鍛えた剣技で一体一体倒していく。


 「こいつら脆いけど、こう数がいちゃキリがない……。アルファに教えてもらったやつ試すか!」


 アルファに教わった技。戦闘は常に一対一で行われるわけではない。時には複数人を相手にしなければならない場合もあるだろう。近距離、遠距離、中距離、様々な相手の配置に対して、一方的にこちらから仕掛ける大樹の新たなスキル。


 「『空閃斬』」


 魔力から変換したエネルギーを刀身に宿し、振りかぶり一気に解放する事で、鋭い刃のような斬撃が、前方広範囲、かつ遠距離まで敵を切り裂く。


 『見事ですが、魔力を消費する分、乱発は控えたほうがいいですよ!』


 「それについても試したい事があるんだよな〜」


 『?、どういう事です?』


 大樹はニヤリと笑うと、ドレインを発動。同時に空閃斬を放つ。


 「これが俺が考えたチート技!『ドレイン空閃斬』だ!」


 放たれた一撃によって敵が倒される。同時にドレインを込めた斬撃は、敵を吸収。これによってわずかながらにも、倒した相手の魔力などを吸収し、魔力切れという最悪の事態を回避していた。


 「よっし!成功してる!、これなら低い魔力でもなんとかいける!戦える!」


 『……まさかこのような使い方を……。成長しているのですね……』


 「ん?、何か言ったか?」


 『……いえ、何も。ほら、次が来ますよ』

 

 後衛のジャンヌは大樹の戦いぶりに安心し、部隊後退のために退路を切り開く。結果的にしんがりのような立ち位置になった大樹の奮闘は凄まじく、部隊は速やかに後退する事が出来た。


 →→→→→…………。


 大樹達が後退を始めていた頃、別れたカインの別部隊も、ゾンビの大群に襲われていた。


 「このままでは囲まれてる押し切られてしまう!」


 負傷者も徐々に出始めている。このままでは前進も後退も出来ない、そう思った瞬間。


 「ゲイボルグ!」


 突如ゾンビの群れを薙ぎ払うように放たれた一閃。


 「道を開けなゾンビ共!『空閃脚』」


 カイン達が進んでいる方向から、アルファが凄まじい速さで駆けつけ、後方の残ったゾンビを蹴散らす。


 「ベディヴィア様!、アルファ様!ご無事でしたか!」


 「カイン!、今すぐ撤退だ!これはやつらの罠だ。このままでは部隊は全滅する!」


 「全滅!?そっそれはどういう!?」


 「説明は後だ!急いで別部隊と合流するぞ!」


 →→→→→…………。


 カイン達が移動を開始した頃、大樹達は入口付近まで後退していた。


 しかし……。


 「どういう事だ!?、これは……」


 そこで目にしたのは、入口を塞ぐように立ちはだかる巨大なスケルトンと無数の魔物。


 「なぁ、あれってベディヴィア達が追ってた奴じゃ……」

 

 一際目立つその大きさと、白い鎧。間違いなくそれは話に聞いたブロンズスケルトンそのものだった。


 『間違いありませんね……。しかも例の魔物、どうやら『ゾンビマスター』だったようですね』


 ブロンズスケルトンの傍に、ボロボロの身なりに全身つぎはぎの魔物がこちらを見て笑っている。


 「なぜここで待ち伏せを……。!?まさか、奴らの狙いは!」


 『グオォォォ!!』


 激しい雄叫び。ブロンズスケルトンのそれを号令のように、ゾンビの群れが一斉に大樹達へ襲い掛かる。


 「へっ!こんな奴何匹出て来ようと!」


 「ダメです大樹殿!、さっきのゾンビとは違います!」


 向かって来るゾンビ達。言われて確認すると、先程のゾンビより明らかに『装備』が違う。


 『生前の装備だけでなく、ブロンズスケルトンのように意図的に装備を変えられている……』


 「全体私の後へ回って下さい!」


 ジャンヌは部隊を自分の後ろへ下がらせ、槍を地面に突き刺して両手を合わせて天に祈る。


 「主よ、われらをお守り下さい」


 『聖女の盾!』


 聖なる光がジャンヌ達を包み込み、魔物達を寄せ付けず、そればかりか触れたゾンビは天に召されるように消滅していった。


 「すげー!、魔物が溶けてくみたいだぜ!」


 この状態を不服に感じたように、ゾンビマスターは顔をしかめる。突撃が無駄だとゾンビの進行を停止させ、遠距離攻撃可能なゾンビに指令を出す。


 「くっ、このままでは……」


 降り注ぐ無数の炎の球と氷の刃。現状受け止めてられてはいるが、このままでは魔力切れを起こす前に突破されかねない。


 「ジャンヌ!大丈夫か!」


 「非常にまずい状況です。このままでは聖女の盾は破壊されてしまう」


 「なんだって!……。でも、どうしたら……」


 『遠距離スキルを使用してくる魔物、それを私達で倒しましょう!』


 「俺達だけで出来るのか!?」


 「今のあなたなら出来ます!。先程の戦闘で獲得した、アンデット耐性、呪い耐性、毒耐性、これらがあれば他の方達よりも、生存率は格段に違います!」


 先程の戦闘で、少なからず負傷者は出ている。手負の者では武装した複数のゾンビを突破するのは難しい。しかし、ゾンビに耐性のある大樹ならば、奥の魔物まで辿り着ける可能性は高い。

 

 「……。よし行こう!、考えてる時間は無いんだ!。俺に出来る可能性があるならやるだけだ!」


 聖女の盾の効力が限界が近いのか、徐々に範囲を狭めて消えかかっている。時間は無い、考えてる暇も無いが、目的ははっきりしている。


 「魔導書!、狙うのは奥の魔法使いっぽいゾンビだよな!」


 『そうです!、まずは正面のゾンビを突破し、ある程度の距離でドレイン空閃斬で一気に殲滅します!』


 「そんな距離感上手いこと測れるかわかんないぞ!」


 『大丈夫です。私が合図します!』


 「……。おっし!わかった任せる!」


 なおも降り注ぐ炎と氷の刃。飛び出すタイミングは、次弾が発射されるまでのわずかな時間。


 『今です!』


 「うおぉぉぉぉ!!」


 一気に飛び出す大樹。


立ちはだかる武装したゾンビの頭をピンポイントに破壊し突き進む。

 大樹にとって幸いだったのは、ジャンヌから借りたこの剣であった。刀身は薄く軽い。切れ味は抜群で、ゾンビの頭を一撃で両断可能だった事だ。


 異変に気付いたゾンビマスターは、遠距離スキルの標的を大樹に変更。大樹を狙って詠唱を開始させた。


 「まずい!このままじゃ集中砲火が来るぜ!」


 『大丈夫です!。あと少し、あと少し踏み込んで下さい!』


 大樹は頷くと、魔導書を信じて突き進む。

詠唱を完了したゾンビ達は、大樹目掛けてスキルを放つ。


 『今です!』


 「ドレイン空閃斬!!」


 大樹の一撃は、炎と氷の刃ごと吸収し、敵を斬り裂く。

 

 見事に目的を果たした大樹であったが、成功の余韻に浸る暇もなく、同時に目の前に現れたブロンズスケルトン。とっさに剣を構えるが、凄まじい一撃にガードの上から弾き飛ばされてしまう。


 

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