第18話 賢者の木は地下へ突入する

 焦る大樹だったが、時は待ってはくれない。すでにベディヴィアとアルファは先行して突入を開始していた。


 『全く情けのない事です。謎の死地に飛び込もうと言うのに、丸腰で挑むなど……』


 そばに居たとはいえ、丸腰の大樹に魔導書も驚きと落胆の色を隠せない。


 「こちらをお使い下さい。大樹殿」


 部隊長であるジャンヌは、腰に下げていた剣を大樹に手渡す。


 「えっ、でもこれってジャンヌの……」


 「これは私がベディヴィア様直属の部隊に配属された時に、お祝いとして戴いた物です」


 「そんな大事な物!、使えるわけ……」


 「はい。ですから必ず作戦を成功させて、私にお返し下さい」


 「……ジャンヌは武器どうすんだよ?」


 「私にはこれがあります」


 ジャンヌは手にしていた『槍』を差し出すと、華麗に槍捌きを披露する。


 「我が家に伝わりし、古い槍です。かなり使い込まれておりますが、魔力が込められておりまして、その鋭さは他の武器を圧倒します」

 

 鋭く尖った矛先は、微かに風を纏ったように淡く緑にひかる。


 「………わかった、ありがとうジャンヌ。大事に使わせてもらうよ!、そんで必ず返す!」


 「はい!、必ず」


 それからしばし時が流れた。いつ来るかわからない合図に、一瞬も気を抜けない。ピリピリと張り詰めた空気に、大樹は息を呑む。


 『ピィーーー!!』


 突如地下から響く笛の音。その音は間違いなくベディヴィアからの合図だった。


「ベディヴィア様からの合図だ!、これより私の部隊から突撃!、続いてジャンヌ部隊も突入してくれ!」


 「了解!」


 急ぎカインは部隊を引き連れ、地下への入り口である階段を駆け降りる。


 「ジャンヌ部隊!、続くぞ!」


 続いてジャンヌの部隊も階段を駆け降りる。地下への入り口はまるで魔物が口を開けて待ち構えているような不気味さで、視界は暗く、暗闇を照らすのは個々が持つたいまつの灯りのみだった。


 →→→→→……………。


 後方部隊へ合図を出す少し前、ベディヴィアとアルファは地下の空洞に到着していた。


 「どうだ?、奴らの反応はあるか?」


 「ああ、デカいのが1匹こっちへ向かってやがる」


 視界はたいまつの灯り頼りだが、アルファの耳を使った、音を拾うソナーのようなスキルで敵を感知する。


 「もう一体のほうはどうだ?」


 「………ダメだ、上手く隠れているのか、全く探知出来ない」


 アルファの探知スキルは、広範囲に索敵をする事が可能だが、精密さに欠ける。相手がこちらを感知して、スキルや魔法で隠れた場合は見つける事が困難だ。


 「了解した!、ひとまず我々はブロンズスケルトンをこの場から引き離す!」


 『ガシャン!ガシャン!』


 ゆっくりと暗闇から姿を現す巨大な骸骨。体長は約2メートルほど。白い鎧を装備し、手には巨大な剣と盾。


 「おいでになったようだぜ隊長さん!」


 「ああ!、いくぞ!」

 

 

 →→→→→………。


  

 地下への潜入に成功した大樹達。各自周囲を警戒しながら、二手に分かれて行動を開始。


 「しっかしこの空間はなんなんだ?、地下にこんなデカいの必要なのか?」


 思っていた以上の地下の広さに大樹は驚く。正直なところでは、ちょっと広めな『穴』というくらいにしか思っていなかった。


 『城の地下深くに、このような『場所』があるとは私も知りませんでした』


 地上の入口から石で出来た階段をひたすら下り、着いて現れたのは暗闇がどこまでも続くような広い地下。

 しかし完全なる暗闇といったわけではなく、ベディヴィアが灯したであろうたいまつの火が、少々朽ちかけたいくつかの木の燭台で淡く揺れている。

 

 この空間全体を察するのは難しいが、壁は石のレンガで作られており、地面にも同じレンガが敷き詰められており、目視出来る何本かの柱で天井を支えているようだった。

 何の目的で作られた場所かはわからない。石の劣化具合から見るに、大樹でもわかるほどに朽ちていた。

 

 「こんな広い場所、何の目的で作ったんだろな?。シェルター?、それともヤバい目的で?」


 (カランッ)


 「!?」


 一同一斉に武器を構える。部隊は一気に静まり、同時にただならぬ緊張感が襲い掛かる。


 『グゥルル!』


 「敵だ!、囲まれているぞ!」


 暗闇からゆっくりと現れた魔物は、すでにこちらを包囲するように囲んでいた。


 「いったいどこから湧いて出た!?、数も10や20じゃないぞ!」


 ジリジリと距離を積める魔物達。近くのたいまつに照らされ、その姿がだんだんあらわになる。


 『『スケルトン』と『デッドウルフ』ですね。どちらも低位の魔物ですが、油断は禁物です。特にデッドウルフは足が速く厄介です!』


 それを皮切りに戦闘が開始。先行して飛び出して来たのはデッドウルフ。


 「各自二段殺の陣を展開!」


 「なんそれー!!」


 大樹以外の隊員は2人1組になって前衛後衛に分かれ、前衛が盾や剣で敵の攻撃をガードで弾き、続けて後衛が崩れた敵を攻撃、これを撃破する。


 「続けて来るぞ!、魔法部隊攻撃開始!」


 魔法を使用可能な隊員は、後方で詠唱を開始。

 「ファイアーレイン」


 放たれた火の球は、空中で弾けて雨のように降り注ぐ。


 『さすがですね。アンデット種、特にスケルトンには炎は効果的です』


 広範囲のスケルトンはたちまち炎を上げて燃え散る。近くにいたデッドウルフにも燃え移り、みるみる数を減らしていく。


 「こんにゃろ!、こんにゃろ!」


 ジャンヌが前衛となり魔物の突撃をブロック、さらに反撃して撃破。それでも溢れるように向かって来る魔物を大樹は一生懸命攻撃していた。


 『張り切ってますね』


 「あったりまえだろ!、こいつはレベルアップチャンスってやつだぜ!」


 主に大樹が相手にするのはスケルトン。全身骨身で脆い。大樹は剣で斬るというより、叩くに近い当て方で、これを撃破していた。動きはさほど速くはないので、簡単に避けられるが、スケルトンは武器を装備した個体も存在する。しかし数は少なく、武器といってもボロボロの剣のみといった感じだ。


 『それで、張り切って何体くらい倒したのですか?』

 

 「ふふっ、聞いて驚け!、今ので3体だ!」


 『3体……。という事は合計獲得経験値は3ですね』


 「えっ!?」


 驚きの事実に一瞬大樹の手は止まる。


 『まぁ雑魚ですから……。なのにあなたのスケルトンを倒した時の顔と言ったら……』


 大樹の頭の中では、スケルトン一体倒す事でそれなりの経験値が入り、バンバンレベルアップするのではと勝手な妄想をし、仕留める度にドレインし、顔をニヤけさせていた。


 「くぅぅぅ!そんな馬鹿な!」


 赤面して顔を隠す大樹。そんな時、不意に背後からデッドウルフが襲い掛かる。


 「大樹殿!、伏せてください!」


 ジャンヌの声に、反射的に頭を抱えてしゃがむ大樹。

 飛び掛かったデッドウルフは、ジャンヌの槍の一閃によって、大樹の頭上で真っ二つに斬り裂かれた。


 「大丈夫ですか大樹殿!」


 「あっ、ああ……なんとかね。助かったよジャンヌ」


 「礼にはおよびません。それよりも、油断なされないようにお願いします。相手が低位の存在でも、命を落とさないとは限りませんから」


 「……。うっ、うん……はい、わかりました……」


 それからすぐに魔物の群れは姿を消し、カインの号令で二部隊それぞれ分かれての行動を開始した。


 →→→→→…………。


 『スキルを習得しました。『呪い耐性』『アンデット耐性』を習得』


 「お前、パンパカパーン!!はどうしたよ?」

 

 『やはり古いものは切り捨てるべきかと思いまして』


 「……。あっそう……」


 それからさらに探索を続ける一行。先程の広い場所から今は通路のような場所を進んでいる。

 しだいに通路の数が増え、選択するように先へ進むが、迷路のように入り組んだ通路と、先の見えない暗闇に、ジャンヌはこれを危険と判断。

 ひとまず元の場所へ戻る事とした。


 「これ以上はさすがに危険と判断します。各自後退、先程の場所まで撤退します」


 一同が来た道を戻りかけたその時。


 「ジャンヌ隊長!、あれを!」


 隊員の指差した方向に、こちらへ向かって来る人影が確認できた。


 「あれは?……友軍?」


 ゆっくりゆっくりと、一歩一歩こちらへ近づくのは、装備品から、先にベディヴィア達と潜入していた者だと確認できた。


 「生きていたんだ!仲間は生きていたんだ!」


 「待ちなさい!」


 ジャンヌの静止を無視して部隊の何名かが、その者にすぐさま駆け寄る。しかし明らかに様子がおかしい。こちらの言葉にはいっさい反応していないようだった。


 嫌な予感がジャンヌの胸をよぎる。


 『……!!、魔物の反応!!。離れて下さい!その方は敵です!』


 『グゥ、ガァ!!』


 魔導書の言葉虚しく、明かりに照らされたその者の顔や皮膚は腐っており、かつての仲間は変わり果てていた。

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