第17話 賢者の木は地下への入り口へ向かう
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騎士団本部にての緊急作戦会議は、見張りを除く、騎士団員全てを参加させるという形ではじまった。
事態は急を要しており、手短にベディヴィアの口から地下で起きた事の説明があった。
説明を聞くなり、少し全体がざわついたように不安を漏らす。
「とむかく、我々は急いで部隊を再編成し、地下の脅威を取り除かなければならない!」
「勝算はあるのか隊長さん?」
アルファの鋭い一言に、急に静まり返った全体が、聞き入るようにベディヴィアへ視線を向ける。ベディヴィアは問いに対して、沈黙でうつむいた。
正直なところ、勝算はわからない。相手は中級のスケルトンだが、白愛の鎧を装備した状態では、ベディヴィア級、もしくはそれ以上の攻撃力がなければ歯が立たない。そのような者など、ベディヴィアを除けばアルファくらいしか存在しない。
全員で総攻撃をかけるのはどうか?。
これもあまり現実的ではない。相手の防御を突破出来ない攻撃では反撃で命を落としかねない。他の者では力不足で、ブロンズスケルトンには歯が立たなだろう。
「仮にわしらの攻撃がそのスケルトンに通用するとして、例の存在に襲われたら上手く立ち回れないじゃろう。召喚された魔物を足止めする兵士が必要じゃ」
アルファの言う通りこちらも大きな問題だ。地下にはブロンズスケルトン以外に、確認出来ていない謎の脅威がある。
「謎の存在……。奴が他の魔物を召喚するスキルを有している事はわかっている。だが、召喚される魔物は低位のアンデット種、数にして20と言ったところだ」
「なるほどねぇ。仮にそいつが魔物なら、『ゾンビマスター』もしくは『ゾンビテイマー』と言ったところかね。だとすると、中位クラスの魔物って事になるね」
中位クラスの魔物が2体。魔物以外の線も考えられたが、魔物以外の者が地下でブロンズスケルトンと共存出来るはずがない。
「中位クラスの魔物が2匹か……。こいつぁ俺の出番は無さそうだな」
会議には参加していたが、内容的に蚊帳の外のように感じていた大樹。しかし心のどこかで、もしかしたら出番が来るかも知れない。ついに活躍できる時が来たのではと、若干そわそわしていたが、ここにきて自分では明らかに手に負えないと確信し、声を漏らす。
「残念ながらお前にも戦闘に参加してもらうぞ!」
「えっ!?………」
予想外の結果に驚く大樹。驚きと、少しの嬉しさと、若干の恐怖が入り混じる。
「実践の戦闘に関してはまだまだ素人だが、日々の鍛錬によって、現役騎士団にも劣らないほど成長している」
「でも俺ってレベル12だぜ」
『確かにレベルは平均以下ですが、アルファ様との訓練で、レベルに対しての『限界値』が上昇しています』
魔導書いわく、レベルアップ時の上昇値は決まっているが、『より強き物』と訓練を積む事によって、限界を超えて基礎パラメータを伸ばす事が出来ると言う。
これによって大樹は、平均レベルは低くとも、平均に近いステータスを手にしていた。
「という事は俺、活躍出来ちゃうって事!?」
『まぁでも『HPとMP(魔力)』は平均を遥かに下回る数値ですので、油断は禁物です』
「そこは上がらないのな……」
『私も不思議なくらいです、何故ここまで低いのかと』
「やっぱ辞退しようかな俺……」
「心配する必要は無い。お前には別動隊として、謎の魔物を討伐してもらう」
「別動隊?」
その後、しばし会議が続き、結果ベディヴィアの取り決めで部隊を編成、作戦を立案した。速やかに行動に移され、夜間の内に作戦は決行される事になった。
→→→→→…………。
キャメロット城前に、部隊を集結させるベディヴィア。部隊はベディヴィア達を除く2部隊。
作戦内容としては、ベディヴィアとアルファの2人が切り込み隊として突入し、地下の安全を確保。ブロンズスケルトンなどの中位の魔物を確認した場合は、入り口から遠ざけ、次の部隊の侵入ルートを確保する。
後に合図と共に2つの部隊が突入。目的は謎の魔物の討伐、もしくは最大限の足止めだ。
その間にベディヴィアとアルファがブロンズスケルトンを討伐するという作戦だ。
2つの部隊はそれぞれ、第一部隊をカインが部隊長に15名。第二部隊を『ジャンヌ』副団長補佐が部隊長に、大樹を含む15名で構成。手練れの騎士を中心に集められた、総勢30名の精鋭部隊だ。
「第二部隊隊長を任命されました、ジャンヌ・ラピュセル副団長補佐であります。よろしくお願い致します大樹殿」
夜空に煌めく星のような金色の長い髪を靡かせ、大樹の前で胸に手を当て敬礼する女性。
「よろしくなジャンヌ。しっかし、ベディヴィアと来た時はちょっと頼りなかったけど、まるで別人みたいに出世したよな。胸もデカくなったし」
「なななっ!?胸は余計です!!」
『これは完全にセクハラ案件ですね。責任とって『自壊』しますか』
「えっ怖っ!!そんな命に関わる事だったの!!」
『あなたはデリカシーが無さすぎます』
「あの〜っ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ」
2人のやり取りに苦笑いで対応するジャンヌ。
大樹の言う通り、当初のジャンヌは本当に頼りなく見えた。
ベディヴィアと共にやって来た、カインを含める最初の4騎士。その内の1人がジャンヌで、当時4人の中では最弱。女性という事もあったが、それでも他の騎士にはかなりの遅れがあった。その頃の彼女は、髪は今よりかなり短く、胸も目立たないかなり細身な外見だった。
それがある日突然、レベルの上昇と共に、『クラスチェンジ』し、騎士から、『聖少女』という特殊なクラスへと変わったらしい。その詳しい事はわからないが。
ジャンヌいわく、その頃から髪の伸びるスピードが速くなり、体が少し大きくなって、胸の発育が進んだという。若干16歳だが、見た目は大人びている。
レベルもステータスも今では騎士団トップクラスで、時には結界外へ出て危険な魔物を討伐。その功績が認められ、今や副団長補佐まで上り詰めた。
「ゴホンッ!、とにかく私が責任持って部隊長をさせて頂きます!」
「なんだろうなぁー、頼りにしてんだけど、あの時の光景が頭から離れなくて……」
少々不安が残る大樹に、ベディヴィアが声をかける。
「ジャンヌなら大丈夫だ。彼女の聖少女が持つスキルを駆使すれば、必ずや勝利に導けるはずだ」
「はい!必ずや、我らに勝利を!」
銀色の鎧に身を包んだジャンヌは、手に持つ彼女専用の槍を高く掲げる。
「うむ、そのいきだ!」
それを合図のように、ベディヴィア達は城に向かって前進を始めた。
→→→→→………。
地下への侵入路へ向かう途中、城の跡地の少々開けた土地に出る。
「辺り瓦礫ばっかりだったのに、ここはずいぶん開けてんな」
「この場所には以前『………』があってな。今ではすっかり焼け落ちているが……」
「えっ?今何て言った?」
重要な部分を、何かに遮られるようにノイズが入る。その時はとても不思議に思ったのだが、急に無かった事のように忘れていく。
そのうちそれ以上聞き返す事はなく、無言でその場所を通り過ぎる。
そんな場所にただ一人だけ、開けた場所の中心をじっと見つめていた。
→→→→→…………。
しばらくして、地下への入り口付近に一行が到着。先に見張りで周囲を警戒していたカインと合流、大まかに作戦を伝える。
「これより地下への突入を開始する!、作戦通り、私とアルファで先行し、合図と共に残りの部隊が突入!」
ベディヴィアの言葉に一斉に緊張が走る。
「恐るる事は無い!、必ず全員無事でここへ帰る!いいな!!」
『おう!!』
一同は奮起し、恐れを拭い去った。どこか戦場のような圧迫感に、瞳を尖らせ作戦に臨む。
この時大樹は負けじと己を奮い立たせるが、ここへ来て重大なミスに気付いてしまう。
「しまった!?」
『!?』
「武器持ってくるの忘れた……」
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