第16話 賢者の木は地下に空洞を見つける

 「見ての通り、ブリタニアは四方強大な国に囲まれ、過去に幾度となく隣国と争いを繰り広げて来た。幾度となる戦いの末、アーサー王の代になり、国はさらに強固なものへと変わった……」


 そう言うとベディヴィアは、普段から肌身離さず首にかけていた金のペンダントを外し、大樹に見せる。

 

 「これは『円卓の印』。アーサー王は自国を守るため、『円卓の騎士』と呼ばれる精鋭騎士『12』人へ送られた、騎士である証だ」


 見た目はどこにでもあるようなアクセサリーと言った感じだが、大樹はそのペンダントに刻まれた、紋章のような部分が気になってしょうがない。


 「ん〜、あの紋章どこかで……」


 記憶を遡る大樹、何か大切な事を忘れているような気がしてならない。

 考え込む大樹を尻目に、ベディヴィアはペンダントを首に掛け直す。


「………。だが、別にこれと同じ物を円卓の騎士達全員が持っているわけではない。証は刻まれた紋章のある、それぞれさまざまな『アイテム』として所持している」


 「……。さまざまなアイテム……」


 騎士、紋章……。その時ハッと頭の中に蘇る1人の騎士。


 「ランスロット!。そうだよランスロットってやつの鎧にも確か同じ紋章が……」


 「なっ!?、大樹、お前奴の円卓の証を知っているのか?」


 急に血相を変えて大樹に迫り詰め寄るベディヴィア。

 

 「しっ、知ってるも何も、俺を助けてくれた騎士だし。そんで俺が最後にあの女の人と一緒に弔ったからね」


 「………。奴の聖剣『アロンダイト』は、あの場所から私が移動させ、今は厳重に保管されているは知っているな?」


 「俺の足元に刺さってたやつね、あれ抜く時すげー痛かったのよ」


 復興初期の頃、俺の足元に刺さっていた剣を、ベディヴィアは、「これは奴の残された遺品だ、いつまでもこのままにはしてはおけない」って言って、結構深くまで刺さってた剣を躊躇なしに一気に引き抜いた。


 「聖剣は回収出来たが、その場に奴の遺体と、奴の円卓の印は見つからなかった。盗まれたと思っていたが、まさかお前が?」


 「うっうん、たぶん俺の中……」


 「何という事だ……」


 落胆するベディヴィアに、何と言ったらいいのか言葉が見つからないが、あの時はあれが1番いい方法だと思ってやった事だった。


 「奴の円卓の印は奴の身に付けていた鎧だ。『白愛の鎧』と言ってな、様々な各種耐性と、基礎能力を飛躍的向上させるといった、通常では有り得ないほどの力を秘めたアイテムなのだ」


 そう聞いて、とてつもなく貴重な物を飲み込んでしまったのだと後悔する大樹。しかし今更取り出す事など不可能。


 「……。複製使ってみたらどうなるかな?」


 『それは不可能でしょう。そんな高価なアイテム、複製するには膨大な魔量を消費するでしょう』


 「まじか……」


 不意に現れた魔導書に一喝される大樹。冷静に考えてみれば、木製の剣ですら数回しか出せない今の自分では、そんな高価な代物など出せないだろう。


 「敵の手に渡ったり、ここら国外へ渡るよりは良かったと思う。不幸中の幸いというやつだな」


 かくして貴重なアイテムは消えてしまったわけだが、落胆する2人に、魔導書がある可能性について話しだす。


 『これはあくまでも可能性の話ですが、私は木に取り込んだ物の情報を全て把握する事が可能です。ですが私の中にそのようなアイテムの情報はありません』


 大樹の使用するドレインによって取り込まれた物の情報は、魔導書へ書き込まれるように記録される。そこから得た情報を元に、新たなスキルの習得などを行なっている。

 取り込んだ物はというと、いわゆる『消滅』という形で消えて無くなる。


 『おそらく何らかの影響で取り込む事が出来ず、今も地中に取り残されている可能性が高いです』


 「地中ってどんくらいの深さのとこだよ?。掘って何とかなる場所なのか?」


 『城の方面の地下深くに、巨大な謎の空間がある事が確認されているのですが、その場所の近くに、ベディヴィア様の持つペンダントに似た反応が見られます』


 「そんなのどうやって調べたんだよ?」


 『地下に張り巡らせている賢者の木の『根』を使って調べました』


 「根!?」


 賢者の木は他の木と違い、木の根の成長とその範囲が一線異なる。今は村である部分全てに根を張り巡らせる程に成長しており、その成長過程で、地下の謎の空間を発見したという事だそうだ。


 「魔導書様が見つけたという空洞、城の地下と仰いましたね?」


 『そうです。どの程度の深さで、どの程度の空間なのかはハッキリとわかりませんが……』


 魔導書いわく、根が伸びる過程で、地下のいくつかの根が土から飛び出した状態となっている部分が多々あると感知しているらしい。その部分を繋ぎ合わせるようにすると、空間が出来上がるそうだ。


 「キャメロット城の下にそのような空間があるとは驚きです。そのような情報、私共には知らされておりませんでしたから」


 ベディヴィアはそう言うと立ち上がり、近くで軽作業をしていたカインを引き止め、城を調査するべく部隊の編成を要請した。


 その後はバタバタと騎士団本部が慌ただしくなり、残った大樹は半ば摘み出されるように本部を後にした。


 「ところで緊急の要件ってなんだったんだろうな?」


 『………。わかりません。ですが今は城の調査のほうが最優先なようです』


 「その地下ってのスッゲー気になるけど、俺は連れてってもらえないんだろうな〜」


 『………』


 騎士団本部からの帰り道、そこから少し高台となった場所に、朽ち果てた城は今もあの時のまま残っている。

 城に対して何も思い入れのない大樹であったが、自分では無く、魔導書のほうは、城に対して特別な思いを抱いているようだった。魔導書は何も言わなかったが、ある種思いを共有しているような2人であったため、魔導書のどこか寂しげな感情が伝わってきた。


 →→→→→…………。



 それからしばし時が経って、日が沈みかけた頃、ベディヴィアを先頭に、ボロボロになった数名の騎士団員とアルファが大樹の元へ現れた。

 彼女らの表情から、何やら少し重々しい雰囲気を感じた。


 「どうしたんだ?何かあったのか?」


 「………キャメロット城を捜索中、地下への入口と思われる階段を発見」


 「おっ!すげーじゃん!、んで中はどうなってたんだ?」


 「………。私と数名の騎士で地下を捜索中、突如現れた魔物に襲われ部隊は……、私以外全滅……」


 「んな!?」


 決してベディヴィアは油断などしていたわけではない。不意を突かれたという事が誤算ではあったが、すぐに体制を立て直し、応戦する事が出来た。

 しかし、現れた魔物があまりに強く、部下を庇いながら撤退していたベディヴィアも、守り切る事が出来ずに部隊は壊滅した。


 「地上へ出たところで、分担した部隊と合流したが、突如地下から何者かが『召喚』した無数の魔物によって部隊は襲われた……」


 「そんで、あたしが魔物の気配を感じ取って飛んで行ったわけ」


 地上に現れた魔物は全て討伐されたが、いつまた地上へ現れるかわからない。ひとまずカインを部隊長に数名の騎士団員で城の周りを監視しているとの事だった。


 「その、地下で現れた魔物ってのは一体何なんだ?」


 「………。おそらく中位のアンデット種、『ブロンズスケルトン』。しかし中位の魔物でありながら、それ以上に厄介なのが……」


 それ以上は口を硬らせるベディヴィア。何故かその先を言いたくは無かったようだ。


 「厄介なのが?」


 『……。ランスロット様の鎧を装備していた……。そうですねベディヴィア様』


 ベディヴィアはコクリとうなづく。魔導書の言った通り、突如現れた魔物は、あろう事か円卓の印である、白愛の鎧を装備していた。

 相手がただのブロンズスケルトンならば、さほど苦戦もせずに対処出来ただろう。しかし、白愛の鎧を装備したブロンズスケルトンは、耐性や基礎能力を上げている。正直未知数の相手だった。


 「魔物なのに、こっちの装備とか装備出来るんだな。てかアンデットなのに聖騎士の鎧装備出来るとかありなのかよ!?」


 『その点についても謎な部分が多いです。スケルトン種は、生前装備していた物をそのまま使用するというのが本来です。新たに手に入れるなど聞いた事がありません……』


 「……。それからもう1つの懸念材料として、地上に魔物を召喚した存在。やつも間違いなく、ブロンズスケルトンと同等、もしくはそれ以上の脅威となりうる」

 

 謎の脅威が迫っている。いや、むしろ脅威を呼び込んだのは自分達のせいかもしれない。一同は対策を講じるため騎士団本部へ場所を移す。しばらくして辺りは陽が落ち、夜の暗闇がゆっくりと近づく。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る