第15話 賢者の木は学ぶ
→→→→→…………。
スリープモードに入ってから体感時間的には数時間は経っただろうか。だが実際は丸一日という時間が流れている。
魔力が枯渇しかけていたとはいえ、十分補給するのに一日掛かるとは、総魔力量18とは恐れ入る事である。
目覚めてさっそく朝のルーティーンの稽古と行きたいところだが、今日は朝から緊急招集が入っていた。
「ベディヴィアが帰ってきたから本部に来いと………」
『はい。急ぎ幹部を招集し、話がしたいそうです』
「幹部招集……、か……」
この場所の復興が進み、それとなく村として機能してきた頃。みんなの提案で、ベディヴィアを仮の代表とし、その他数人の役職をを決めた。
内訳としては。騎士団の最高位としてベディヴィア。騎士団の部隊長カイン。大樹の眷属であり、守りと復興の要を担う長、アルファ。そして大樹を合わせた合計4人が、現在最高幹部という形で機能している。
基本話し合いは騎士団本部にて行われ、その場で取り決められた事などは、この場所を中心に『御触書』という魔道具によって伝えられる。
御触書とは各所に置かれた小さなクリスタルにメッセージを送る魔道具であり、返信はできないが、この世界にしては便利な道具である。
『アルファ様は先に向かわれたようです。私達も急ぎましょう』
「朝っぱらから……。しかも起きてそうそう忙しい事でね」
『いやもう昼過ぎてますからね』
「はい?」
大樹は空を見上げる。言われてみれば確かにお日様がだいぶ高い位置にある。
「招集っていつ出てました?」
『朝です』
「もう昼ですよね?」
『はい』
「何で起こしてくれないんだよ!、てかもう話終わってんだろ!」
『起こしましたよ』
「起きてないじゃん」
魔導書はため息混じりに朝起きた出来事を話し始める。
『最初にこちらへ来られたのはベディヴィア様です。招集の件を伝えられてすぐに帰られました』
寝ている大樹を急ぎ起こすのは悪いと、緊急ではあるが、少ししてからでいいので起こしてくれと頼まれた魔導書。
『故に私はゆるりと起こそうとしましたが、貴方は起きませんでした』
魔導書は大樹の心に直接必死に語りかけ起こそうとしたが失敗。
『しばらくして、アルファ様が来られました』
大樹と一緒に行こうと、誘いに来たアルファ。寝ている大樹を起こそうと、しばし奮闘したが、検討虚しく一人騎士団本部へ向かう。
『そしてめんどくさくなった私は、起こす事を諦め今に至ります』
「諦めたんじゃねぇか」
少しだけ魔導書に絶望した大樹、兎にも角にも、すでに時遅しとはわかっていたが、ひとまず急いで本部へ向かう事とした。
→→→→→………。
騎士団本部は、賢者の木から歩いて10分ほどの場所に存在する。
騎士団本部はこの国の復興で一番最初に造られた建物で、それほど立派ではないが、それでも今現在建てられている建物の中では1番大きい。
騎士団本部の前には、騎士達の練習場が併設されており、現在入団している約60名の騎士団員達が日夜訓練に励んでいる。
→→→→→………。
「遅い!」
「ですよね……、わかります」
本部へ着くなりベディヴィアに一括される大樹。驚いた訓練中の騎士団員達の手は止まり、こちらへ向けて冷たい視線を無数に送られたのは心が痛かった。
「まったく! お前は国の代表の1人だという自覚が無さすぎる!」
「おっしゃる通りでございますベディヴィア様」
「だいたい! お前は!!………」
容赦ないベディヴィアの叱責。実は、大樹にとってはこれが初めてでは無い。
何度か大事な決め事の会議や、約束事などを忘れたりして、度々このように長々と説教を受ける。
「(ガミガミ!)」
「(そりゃ俺も悪いけどさ、魔力の個体値低く設定した奴にも問題あると思うんだよ)」
『そんな存在するかどうかもわからない偶像に、責任を負わせるのはどうかと思いますが』
「(いや明らかに俺の平均パラメータ低く設定しすぎだろ!。だいたい転生者ってチートスキル持ってたり、基礎パラメータ基本高いはずだろ)」
前世で学んだ異世界の知識を魔導書に向ける大樹。
『まぁ木ですから』
「(!?)」
あまりに軽く流す魔導書に驚きを隠せない。
「でっ、でも、賢者の木ですよね? 私賢者の木ですよね?」
『本体はそうでも、中身はあなたですか、ね』
衝撃的……。
ベディヴィアの叱責と魔導書から告げられた事実のダブルパンチで、大樹の心に深刻なダメージがかさみ、立ったまま気絶する。
→→→→→………。
次に目覚めた時にはベットの上で寝かされていた。側にはベディヴィアが心配そう……?、ではなく、今か今かと大樹の目覚めを待っていた。
「まったく、大遅刻して来たあげくに、入口で気絶か。賢者の木がきいて呆れるな」
「すっ、すみません……。衝撃的な事があまりに大き過ぎて……」
「……?、何の事だかさっぱりわからないが、とにかくそのままでいいから私の話を聞け」
そう言うとベディヴィアは一枚の地図を取り出し大樹に手渡す。
「お前は我々の現在の位置がどの辺りかわかるか?」
そう言われて地図を凝視するが、地続きの巨大な大陸がいくつかと、海に囲まれた小規模な島々などなどは確認できるが、縮尺最大の世界地図をほぼ初見で見せられてもまったく検討がつかない。
「………。まったくわかりません」
「はぁ、戦闘訓練だけではなく、お前には教養も必要なようだな」
まぁたしかにそうだ。この世界に来て、この世界の事について詳しく調べたり聞いたりした事は無かった。
この世界について最低限の知識を学ぶ事も必要だろう。
「では、お前にもわかるように説明してやる」
まず最初にベディヴィアが地図で示したのは、世界の大半を占める巨大な大陸。
「まずは我々のいるこの場所、巨大な地続きの大陸で『アヴァロン大陸』と言う」
どこかで聞いた事のある名前だと思った大樹は、こちらの世界に来て魔導書が言った言葉を思い出した。
「さまざま国や街や村が存在し、中でも大陸を5つに分けて巨大な王国が存在する」
ベディヴィアは地図にインクのペンで線を書く。
「まずは南の海に面した王国、『海国 アトランティア王国』」
地図で見る陸と海の割合は6対4、海が南に面して少し多く見える。ベディヴィアの話によれば、アトランティア王国は、陸の領土はそれほどまで大きくはないものの、海への領土、巨大な海路や周辺の島々などを領地とし、巨大な勢力を持って国を維持しているそうだ。
噂では、海の中でも生活出来るような技術を持っているらしく、アトランティアの王『ポセド16世』は、西と東へ着々と海の領土を拡大しているらしい。
「次に北の巨大な山脈に覆われた大地を統治する王国、『ドラグ王国』」
山といえば、この場所からも大なり小なり存在するが、北の大地の山脈は、他を圧倒するものらしい。巨大な山々が、所狭しと存在しており、その中で『竜神族』というドラゴンと人間の混血種のような種族が、本物のドラゴンを王として国を統治しているらしい。
竜神族は、生まれ持っての羽による飛行や、基礎のステータスが他の種族を圧倒的に凌駕しているため、対1の戦闘では、波の人間では敵わない。だが欠点として、繁殖能力が乏しく、個体数が少ないという欠点があるらしい。
「次に西の王国、『魔法国 クロム王国』」
この大陸に、最も古くから存在していると言われているのが、魔法国である。新たな魔法の発見や、様々な武器の生産、アイテムの開発などを一手に担い、軍隊を持たず、あくまでも中立の立場で様々な国と貿易をする王国である。
だが裏では違法な武器やアイテム、薬などを生産しており、黒い噂は今も絶えない。
「そして東に位置する法の国、『法国 ワルキューレ王国』」
国の代表である王様を女性、つまり女王が統治する国。女王『アリア』は12人の『戦乙女』と呼ばれる最強の女騎士達を従えており、ベディヴィアいわく、自身が本気で戦っても戦乙女の1人にも敵わないらしい。その軍事力は大陸1で、自身の領土を害するものには容赦なく鉄槌を下すという。
現在北のドラグ王国と戦争状態に突入しており、両者の国境付近では、今もお互い小競り合いが行われている。
「そして最後に、四方を巨大な王国に囲まれて存在している国、『聖国 ブリタニア王国』だ!」
ベディヴィアは地図の中心をぐるりと黒く囲む。そして、ここだと言わないばかりに彼女はその場所を指を差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます