第14話 賢者の木は稽古する

→→→→→…………。



 次の日の朝。


 晴れて限定的ではあるが、地に足をついて歩ける事が叶った俺。毎日寝る時以外は魔力を込めて体を形作る。賢者の木本体の魔力で、根っこの近くの土から作った泥人形といった感じだ。

 人型で人間と大差なく、容姿はこちらに来る前の俺……、とはならなかった。

 というのも、こちらに来る前の俺は、容姿端麗……、などとはほど遠く、平均よりちょっと下なと言った感じだ。(強がり)

 だから人型として生まれた瞬間、どこか深層心理で『イケメン』などと願ったのが採用され、容姿は前世より遥かにグレードアップされていた。


 「ふっ、これだからイケメンは…」


 『朝から何言ってんですか気持ち悪い』


 ただ残念ながら『欠点』? もあった。それは何かと言うと、容姿は抜群だが見た目は子供になってしまっているという事だ。

 ぱっと見小学生ですか? と言わないばかりに縮んでいる。

 魔導書大先生いわく、本体のMPが低いために、子供の体しか形作れなかったのではないかという。


 「まあ、子供だろうとイケメンはイケメン! カッコいいという事実さえあればいいのだ!」


 『………。流石に毎朝太陽に向かってキメ顔されるのを見ると、私も精神的に辛いです』



 そして人型になった俺は、毎日の日課としている行事がある。


 それはアルファとの戦闘訓練だ。


 訓練場所は城の廃墟前にある広場。


 以前の俺は、持てる最大の攻撃手段がドレインなどという、超劇狭範囲攻撃しか持ち合わせていなかった。

 各種耐性があったために、守りの面では強かったかもしれないが、攻撃の面は皆無だ。

 人型になった俺にも、本体の耐性とスキルが共有されている。もちろん本体がやられかたら終わりなのだが、座して死を待つ体より、動けるこの体があるのはありがたい。


 「それじゃあ旦那様! いつもの訓練を始めるぞ!」


 「よっしやろう! よろしく頼むぜ!」


 訓練内容はいたってシンプル。アルファからどんな形でもいいから一本取る事。

 アルファ手製の木剣を使って、とにかくひたすら打ち込んでいく。ちなみに未だに一本を取った事はない。


 「そうじゃ旦那様! 今日ワシに一本取る事が出来たら『キス』してやるぞ」


 「なっ!?」


 『キス』というパワーワード。血は通ってないはずだが、興奮してつま先から頭のてっぺんまで赤く染まったように感じる。大樹の頭の中で、アルファとのシチュエーションが先読みされる。


 「キキキキキキキキキキスデスト!!」


 「そうじゃ、キ・スじゃ♪」


 瞬時に判断した。この訓練という名の真剣勝負、負けるわけにはいかないと。


 「さあさぁ〜どっからでもかかってこい!」


 「『漢』大空 大樹! 押して参る!!」


 アルファの挑発にあえて乗り、木剣を構え一気に攻め入る大樹。


 「あまいあまい、それでは単調すぎじゃ」


 一直線にただ突っ込んで来る大樹をアルファはひらりとかわす。

 アルファとの至近距離、避けられる事は初めからわかっていた。大樹の無策に思えた突進は、初めからこの距離に踏み入るため。


 「なんじゃ!? 距離を詰めてきた!」


 左足に体重をかけブレーキにし、体の向きを変え、右足でアルファ目掛けて踏み込む。


 「取った!」


 大樹の木剣はアルファを射程圏内に収めた。


 「じゃが甘いな!」


 アルファは素早く大樹の踏み込んだ右足に足払いを掛ける。たまらず大樹は転倒し、地面に転がり込む。


 「だぁぁぁいたたたたっ!」


 「今のはなかなか良かったが、まだまだ詰めが甘いな。踏み込んだ足の軸がまだまだ弱い」


 「かぁぁぁぁちきしょー!」


 「どうした? もう諦めるのか?」


 「んなわけねぇだろ! キスが賭かってんだ!」


 「ほほっ〜ワシのキスが欲しいとは嬉しい事を言ってくれる」


 大樹は立ち上がり、木剣を構え直す。


 「(日々成長しているつもりだが、アルファとの距離は縮まらない)」


 「まあ、どうしてもと言うなら〜頑張ったご褒美という事で、キスくらいしてやっても構わんがの〜」


 「(あいつから一本取るには、同じ事やってたら駄目だ! アルファの意表を突く何か手が……)」


 「キャー!! ついに旦那様とー! キャー!」


 (!?)


 大樹は木剣片手に、自身のスキルを思い返していた。

 注目したのはドレインのスキル。これは賢者の木の根下に、対象を引きずり込む、もとい吸収する事で、木の栄養にしたり、スキルを得るというものだ。


 「もしこの姿で吸収を使用したらどうなるんだ……」


 大樹はすかさずスキルドレインを使用。すると右手に持っていた木剣が、大樹の手の中に吸収された。


 「なっ! 木剣が!!」


 『パンパカパーン! スキル『複製』を獲得致しました!』


 頭の中に魔導書の声が響く。近くに居るわけではないのだが、大樹は魔導書と意識を共有している。


 『吸収で獲得した対象物を、相応の魔力を消費する事で、複製する事が可能となりました』


 「複製! マジか! そう言うチートスキルみたいなやつ待ってましたよ!」


 さっそく先程の木剣の複製にかかる。頭の中で木剣をイメージ、魔力を消費して具現化させる。


 「出来た! 木剣複製!」


 一本では無く、まとめて二本出現させる。


 「ああっ……、旦那様と私……」


 すかさず大樹は、自分の世界に入り込んでいるアルファ目掛けて仕掛ける。


 「行くぞ! アルファ!!」


 「……。甘いと言うに……」


 すぐに自我を取り戻し、向かってきた大樹を迎撃する。

 アルファは大樹の手の木剣を素早い二度蹴りで蹴り落とす。さらに手ぶらになった大樹に追撃の蹴りを仕掛ける。


 「何故木剣が二本あったのかは謎じゃが、二本になったところでいつもと何も変わらんの……」


 「ふっ! 甘いぜアルファ!」

 

 大樹はアルファの鋭い蹴りを、さらに複製した木剣で受け流す。


 「なんじゃと! いつの間に木剣を!」


 そのまま素早く斬り込む大樹。あまりに意表を突く攻撃が、アルファの思考を鈍らせる。

 「取った! キスぅぅぅぅぅぅ!!」


 『残念。魔力切れです』


 大樹の体は魔力切れのため、ボロボロと体が崩れ去った。あと一歩というところで、大樹の体は土へと還った。


 「ちきしょょょょょ!!」


 意識は本体の賢者の木に戻り、悔しさからか、枝を激しく揺らす。

 所詮は魔力で形作った土の塊。魔力が切れれば体は土に還る。おそらく木剣を複製し過ぎた事が原因だろう。

 普通に暮らせば一日中体は形作れるが、まさかちょっと複製を使用しただけでもう魔力が枯渇するとは。


 「前からそうだが、どんだけ俺の魔力量は少ないんだよ」


 『最初の頃よりは多少上がってますがね、5ぐらい』


 「5ですか?」


 『はい5です。合計18ですね』


 「ちなみに平均とかあります?一般の……」

 

 『だいたいここに住む一般の方の平均が30〜50くらいですね』


 「おれは平均以下と……」


 『ベディヴィア様で120、アルファ様は300ほとありますね』


 「……怪物ですね。わかります」


 ベディヴィアとアルファについては格上の存在だと認識していたが、まさか一般人の平均よりも下回るとは衝撃だった。


 「どうやったら上がります魔力……」


 『地道にレベルを上げるしかないですね』


 「えっ! レベルって概念あったの?」


 薄々あるんじゃないかと思ってはいた。それがここに来て初めて打ち明けて衝撃を受ける。

 『この世界の生物は全てレベルという概念が当てはまりますよ』


 「へぇ〜ちなみに私はいくら?」


 『12ですね』


 わかってはいた低い事くらい。しかし12レベルとは序盤も序盤ではないかと思う。

 そしてこれも結果はわかりきっているが、平均を聞かずにはいられなかった。


 「へっ、平均は?」


 『そうですね……。26といったところでしょうか』


 「ですよね……」


 『ベディヴィア様が50、アルファ様は78ですね』


 「……。怪物ですね。辛いです」


 それから大樹は魔導書からレベルの事について説明を受けた。

 レベルを上げるためには『経験値』が必要である事。経験値は鍛錬や、なんと勉強などでも手に入るらしい。だがそれよりも手っ取り早く経験値を得る方法として、魔物やモンスターなどを倒す事を勧められた。

 

 しかし俺は魔導書に、「魔物とかってここより外にしかいないよね?」と聞いたところ、魔導書の返答はというと、『知らぬ』の一点張りだった。

 現状アルファとの鍛錬が近道だと感じた俺は、とにかく魔力を回復するため、一時的に、スリープモードに入るのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る