第10話 賢者の木は騎士達の反撃を目撃する
魔剣召喚の代償に、片腕を失ったカインだったが、そのリスクを背負ってなお、ベディヴィアに対して余裕を見せていた。
両者はお互いに動かず、互いの間合いを図り、相手の出方を見ている。
互いに理解にしていた、この勝負は先に動いた方が負けると。魔剣無しでの両者の戦闘能力は完全にベディヴィアに軍配が上がるが、魔剣という存在によって、同等の力をカインは手にしていた。
先に動いてカウンターを取る。互いにそれが最善かつ確実に勝利するための方法だと理解した。
しかしながら、この勝負はカインには武が悪かった。
それは時間があまり無い事がわかっていたから。仮に勝利出来たとしても、時間をかけ過ぎると魔物の群れに囲まれる。そのような状況になれば、魔剣の『副作用』もあいまって、とても突破できる可能性が低い。
ゆえに先に動いたのはカイン。
「行きますよ!」
一気に飛び出したカイン。魔剣を大きく振りかぶり、ベディヴィア目掛けて振り下ろす。
「そんな大振り、私に当たるとでも!」
ベディヴィアの言葉に、ニヤリと笑うカイン。もちろん無策で飛び出したわけでは無い。
ベディヴィアはすぐに魔剣の軌道を計算。体をひねらせて、かわそうとする。しかし、かわそうとした瞬間、体が鉛のように重くなり、思うように動かせない。
「これは!いったい?」
間一髪魔剣を避ける事が出来たベディヴィア。しかし未だに体は重いままだ。
「ハハハッ!この魔剣アベルは、犯した罪の数によって相手の重さを増し、自由を奪うのだ!。さらに威力も増している!」
再度ベディヴィアに向かう魔剣。その形は、先程よりも少し大きく、さらに禍々しさを増しているようだった。
「ギャー!あのネェちゃんやられちまうよ!、てか俺現在進行形で腐ってってんだけど!、どうするのよぉ!!」
『魔剣を使っての実戦さながらの稽古とは。感心しますね』
「だから違うって!、いいかげんにしろよ」
魔導書は未だスキルによる影響はおさまらず、目の前の出来事が演習のいっかんだと思い込んでいる。
「終わりだベディヴィア!!」
ついに魔剣は完全にベディヴィアをとらえる。このままでは直撃は避けられず、当たれば致命傷はまぬがれない。
勝利を確信したカイン。しかしながら、それは大きな勘違いだった。
「ガフッ!?」
ベディヴィアへ振り下ろされた魔剣は地面をえぐるように叩き付けられる。視界を遮るように舞い上がった土ぼこりが、ゆっくりと地面に落ち、えぐられた地面があらわに。しかし、そこにベディヴィアの姿は無い。
驚くカインの腹部に、突如響く重い鈍痛。その衝撃に、思わず口から吐血する。
「ばっ……ばかな!?、なぜ私が!?」
「お前は私を見誤ったな。その程度の魔剣など、私の『真紅の瞳』の前では無力だ!」
声のするほうへ振り返るカイン。月明かりを背に、隻眼であった瞳を真紅に光らせたベディヴィアが、真っ直ぐこちらを捉えていた。
「ありえぬ!ありえんぞ!!」
すかさず魔剣振りかぶり、ベディヴィア目掛け飛び掛かる。
「無駄だ!」
真紅の瞳は魔剣の力を無力化し、斬りかかるカインをかわすと、隻腕に込めた一撃を放つ。
「ぐあっ!!」
その凄まじい一撃によって、カインは大樹の元まで吹き飛ばされる。
「ギャー!!、枯れて折れやすくやってるからやめてぇぇ!!」
衝撃を受け、ベキベキッと嫌な音を立てる大樹。
『おやおや、今日は一段と気合いの入った稽古ですね。関心関心』
「だから!違うっつの!!」
吹き飛ばされたカインは、衝撃で気を失い倒れ込む。
ベディヴィアはゆっくりカインのもとへ向かうと、隻腕で魔剣を叩き割り、カインを縄で拘束した。
「やれやれ、私に毒を盛るなど100年早い。しかし私をここまで信じ込ますなどたいした男だ」
その後真紅の瞳を隠すように、右目を眼帯で覆う。
「だが、この右目の前では無意味だったようだがな………」
「!?」
異変に気付き、ベディヴィアは上空を見上げる。その時初めて、結界の魔道具が機能していない事がわかり驚愕する。
「なるほど、やったのはコイツで間違いないようだな」
カインの企みの一つに気づいたベディヴィアだったが、最終目的の賢者の木の始末には気づく事が出来ず、魔道具修復のため、急いでそちらに向かってしまう。
「えーーっ!!俺の事は気づいてないの!、このままじゃ枯れちゃうよ俺!」
『パンパカパーン!!腐食耐性を習得しました!』
「何それちょっと嬉しいかも!、ってちがーう!!」
しかし不幸中の幸い。腐食耐性を習得したことで、腐食の進行が遅くなった。しかしながら治ったわけではなく、さらにゆっくりとはなったが、確実に体を蝕んでいた。
『しかしながらこの男、本当に恐ろしい相手でした……。なんとかなりましたね!危機一髪です』
コロッと手のひらを返したように我に帰る魔導書。
「お前、頭がお空に飛んでたのに危機一髪とかよく言うぜ!!」
その頃、魔道具に向かう途中のベディヴィアのアンチ魔法によって、テントで就寝していた騎士達が次々と目覚を覚まし、異変に気づくと外へ飛び出す。
「どうやら一足遅かったようだ……」
一足遅かった。ベディヴィアが魔道具へ到着した時には、
すでに血の匂いを嗅ぎつけたソードウルフや低級クラスの魔物が、辺りに集まりだしていた。ベディヴィアの出現に、血をたぎらせたいくつかの魔物が襲い掛かるが、意図も容易く駆逐されてしまう。
このままここにいては危険と判断して、いったんベディヴィアは中央へ舞い戻る。
中央の野営付近には、独自に周辺を調査して、情報を共有しあっている騎士達の姿があった。
「各自早急に武器を取れ!。間もなくこの場所に無数の魔物が押し寄せるだろう!!、至急夜戦の準備をしろ!」
「了解!」と、一同声を上げると、各自テントに戻り装備を整える。
「各自そのまま聞け!、裏切り者によって、魔導防壁は今機能していない。しかしながら、それだけでは説明がつかないほどの魔物がここへ向かって来ている!」
準備を進めながら、ベディヴィアの言葉に驚きを隠せない騎士達。あるものは手が止まり、ある者は恐怖に震える。
「だが臆する事はない!。たとえ敵は多くとも、我々はブリタニアを守る騎士だ!、その名に恥じぬ戦いをしよう!。恐れを捨てよ!そして、我に続け!!」
準備を済ませた騎士達は、駆け足でベディヴィアの元へ集まる。
「先陣は私が行く!お前達はここで円陣に陣を取って各個撃破!この場所を守り抜け!。そしてこれは命令だ!、誰も死ぬな!生きてここを切り抜ける!いいな!!」
『おう!』
ベディヴィアの言葉に一同奮起し、恐怖による震えが止まる。
檄を飛ばしたベディヴィアは、そう伝えるとすぐに、魔物が集まりつつある先端の魔道具の場所へ向かった。
「なんか凄い事になってるな!」
『近くに魔物の生体反応、数にしておよそ……200!?』
「にっ200!?」
実際の数は不明だが、魔導書が瞬時に確認できた数だった。もしかするとそれ以上の可能性は高い。
「よっ、よし!俺だって戦う!ドレインで全部吸いあげたるわ!!」
『残念ながら一度に吸収できるのはせいぜい5体が限度でしょう。それ以上吸収すれば、パンクして逆にダメージとなるでしょう』
「おふっ…」
食べ過ぎが逆に体に良くないという事だろうか、それでも少しでも力になれるならと、大樹は奮起する。
→→→→→………。
その頃ベディヴィアは先陣をきり、一人魔物の群れへと突っ込んで行く。
鬼神の如き活躍で、1匹1匹確実に仕留めるベディヴィア。しかしながら相手の数が圧倒的に多く、取りこぼすように何体か中央へ向かって走り去る。
「くっ!何とか1匹でも多く始末しなければ!」
中央へ向かった魔物は、騎士達が円陣を組んでこれを各個撃破してゆく。
しかしながら、なだれ込むように次から次にと現れる魔物に、苦戦を強いられていた。
「くそっ!この!」
大樹も援護しようとドレインのタイミングを見計らうが、悲しい事に全く範囲に魔物は現れない。
『生体反応さらに増加!……。なんですこれは!?』
なおも増え続ける魔物の群れに、一点だけ他の魔物とは違う反応が見られる。
「どうした魔導書!?」
『そんな……この反応は上級クラス、この辺りの統率者クラスの魔物です!』
「へっ?とっ!統率者ですと!?」
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