第8話 賢者の木は偽物の騎士に気づく
「魔道具起動!」
各所散らばった騎士各々は、ベディヴィアの号令を合図に、道具を地面に思い切り突き刺す。
短い槍型の魔道具は、地面に突き刺さると同時に、後方の部分から光の柱を立てる。空に向かって伸びた5本の光は、しだいに中心へ向かうよう一つに集まり、空中に魔法陣を描く。
「『対魔防壁魔法陣』発動!」
魔法陣は最終的に巨大な円の光となり、ある程度広がると、光はしだいに弱くなり消える。
それをベディヴィア最後まで確認すると、足早に中央へと向かった。
その一瞬で起きた出来事に、大樹は驚きを隠せずにいた。
「何あれ!何あれ!!。スッゲーピカッと光って!シュッて!シュッと光が!」
手が無いので、手の代わりの枝をバサバサと震わせ興奮する大樹。急速に起こる、様々な変化と新たな発見に、感動していた。
「よし!これでひとまずは安心だ。対魔防壁の発動で、魔物は結界内には近づけない。同時に結界の効力で、周囲からこの場所は認知されることはないので、追ってからの追走を逃れられる」
それを聞いて安堵した騎士達。この場に到着した時の、騎士達の強ばった表情とはうって変わり、若干安堵したように笑みが溢れる。
「よし!本日の作業は以上で終了だ。各自武装を一時解除し、就寝準備!。今夜の夜営は私と『カイン』副騎士長で行う!」
「はい!」という返事とともに、他の騎士達とは若干ではあるが、違う風格の男が一歩前に出る。
「すまないカイン、頼めるか?」
「もちろんでございますベディヴィア様!副騎士長としての責務、まっとう致します」
「よし!では他の者はこれにて解散!、カイン副騎士長はこのまま私のテントへ来てくれ」
「了解致しました」
それからベディヴィアとカインを除いた騎士達は解散し、各自就寝をとるためテントへ向かった。
それからしばし時間が経ち、時刻は深夜といったところだろうか、先程までとは変わり、完全に夜の静寂に包まれ、暗闇に静かにテントの灯りが淡く灯っていた。
「なぁ、さっきのカインとか言うやつも昔からいた奴なのか?、副騎士長とか言ってたけど?」
『…………』
大樹の問いかけに、考え込むように口を閉ざす魔導書。
「どうしたんだ?」
そして突然、何かを思い出すように口を開く。
『副騎士長とは、円卓の騎士までとはいかなくとも、それに近い実力と地位を持つ者。ゆえに、それほどの位のある者を、私は知っているはず……』
次第に声色に恐怖が増す魔導書に、話の内容を途中まで聞いた大樹は、悪い予感がから恐怖の結末を予感した。
「まさか……」
『そう……。『私は彼を知らない』』
そしてその悪い予感は、最悪の結果となって、現れる事となる。
→→→→→…………。
さらに夜はふけ、完全なる深夜。今夜の夜営を行う2人は、ベディヴィアのテントにて、準備を進めていた。
「ベディヴィア様。この辺りは夜に大変冷えます。よれしければ、こちらで体を温めください」
そう言うと、カインは持参した自前のコーヒーが入ったコップを、ベディヴィアに差し出す。
「ああすまない。いただくとしよう」
確かにこの辺りの夜は冷える。実際、少し体が冷えていたのと、少しの眠気が和らげばと思い、躊躇する事なく、カインからコーヒーを受け取った。
コップから湧き上がる湯気と共に、コーヒー独特の香りがベディヴィアを包み込む。
少し熱めのコーヒーは、口に含むとさらに香りを増し、少し流し込んだそれは、冷えた体を温めた。
「うん、やはり美味いな。お前のコーヒーはいつ飲んでも変わらぬ美味さだ」
「………?。左様に……、ございま……すか……?」
カインの言葉が途切れ途切れに耳に入る。それと何か変な気分だった、視界も揺らぎ始める。
「……いつも?……私はいつも……、飲んで………。ああ……、なんだか……眠く……」
(パリンッ)ベディヴィアの手からコップが離れ地面に落ち割れる。ベディヴィアは突如激しい睡魔に襲われ、一気に脱力し、眠ってしまう。
その様子を見ていたカインは、完全にベディヴィアが眠っているか確認し、ニヤリと笑うと、ベディヴィアの義手に細工を施す。
「いつも飲むコーヒーですか……。残念ながら私があなたにコーヒーを差し上げたのはこれが初めてです」
カインはそのままテントを後にし、他の騎士達が寝ているテントを一つずつ確認して回り、全員寝ている事を確認する。寝ている騎士達の近くには、先程ベディヴィアに出された物と同様のコーヒーが置かれていた。
あまりに作戦が上手くいっているためか、カインは再度ニヤリと顔を歪ませる。
その後、ベディヴィアが立てた魔道具がある場所へと足早に向かう。
着いた場所には、他の4つの魔道具とは形の違う一本が地面に刺さっていた。
「この魔道具は、外部からの攻撃にはめっぽう強い。だがしかし、内部からは簡単に破れてしまう代物なのだ。それも、この主親器を破壊すれば容易く」
カインは剣を手に取ると、魔道具の先端を思いっきり叩きつけるように斬った。
衝撃を受けた魔道具の先端は破損し、結界は効力を無くす。
「これでいい。あとは先程仕掛けておいた魔道具から低級な魔物の血が自動で散布され、『奴ら』をここへ誘い出し、騎士達を襲わせる……」
男はあまりの自分の手際の良さに高笑う。
自分がベディヴィア達の追跡のために潜り込んだ追ってだとも知らずに死にゆくのを想像すると。
「しかしながら素晴らしいスキルだ!『スキル、擬人』複数の対象に自分を仲間だと錯覚させる『レアスキル』!『あのお方』に頂いた素晴らしい力!」
しばし高笑いを続け、その後最後の仕上げを行うため、中央の賢者の木へと足を進めた。
→→→→→…………。
「!?ということは!、アイツはそもそも副団長とかじゃなくて、何らかの目的のために潜り込んだ敵かもしれないって事か!」
大樹は魔導書から、カインという男は副団長などではなく、そもそもブリタニアの騎士団には存在しない存在だと知らされる。
『おそらく何らかのスキルを使用したのでしょう。仲間だと完全に信じこませていたのですね……。私のみならず、ベディヴィア様までも騙すほどの、おそらくレアスキル……。うかつでした……』
悔いたところで打つ手は無い。魔導書はそれがまた歯痒かった。
大樹はひとまずカインの行方を探る事にした。
「確かあのカインとかいう騎士、ベディヴィアのテントに……」
大樹がベディヴィアのテントに視界を向けると、ちょうどそのタイミングで、カインがテントを後にしていたところだった。
「いた!奴だ!……ん?あれは……?」
大樹はカインが抜け出したテントの中で眠るように倒れ込むベディヴィアを発見する。
「おいおいもしかして奴にやられちまったのか!?」
『………。大丈夫です、心配ありません。生命反応は確認できます。どうやら眠っているようです』
地面に倒れ、死んだように眠るベディヴィアの安否を確認し、安堵する2人。しかしその事に気を取られ、カインを見失ってしまう。
くまなく周囲を確認するが、カインの姿は無かった。
「くそ!奴はどこに行ったんだ!」
その時、またも魔導書に嫌な予感が駆け抜けた。
『嫌な予感がします。もしかして、もしかして彼は……』
ちょうどその時、一帯に張られていた結界が効力を無くし始め、異様な事態に魔導書は気づく。
『……大変です!先程の魔道具による結界が、何らかの理由で効力を無くしました!』
「なんだって!!」
そして同時に漂う血の香り。
その血の匂いを嗅ぎ付けて、夜の大地に魔物の群れが、静かに忍び寄る。
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