第4話 賢者の木はドリバードと出会う
→→→→→…………。
………2人をドレインし、2日が経ったある日。
「ぐぬぬぬっ………ぐぬぬぬっ……」
朝から、何処ぞに念を送るように唸る大樹。
『何をなさっているのですか?』
「ぐぬぬぬぬぬっ……。何って、念を送ってんだよ」
『念ですか……?』
「この前スキル習得しただろ。……えっと、これだ!思いの伝達!」
頭に浮かび上がらせるは、新たに習得したスキル、『想いの伝達』。
『・スキル、思いの伝達。対象となる相手に対して、こちらの意思を伝える事が出来る ※ なおこのスキルは……』
『はい。そのスキルはですね………』
「これ絶対喋れる感じのスキルだと思うんだよね。説明に意思を伝えるって書いてあったし!」
『……しかしながら、いったい誰に向けて念を飛ばしているのですか?』
「誰って……」
言われてみれば、説明に『対象となる相手』とあった。今目の前には、いや周囲全てにおいて人はもちろんの事、対象となる生物の反応など一切ない。
我に帰って冷静になる大樹、いったい自分は何に対して喋りかけているのか。
「……俺はいったい誰に向けて……」
『ちなみにですが、説明にもある通り、現在のスキルレベルではノミ畜生か小動物などにしかスキルは発動出来ません』
「えっ……」
スキルを読み返す大樹、確かにそこには、『※ なおこのスキルは、スキルのレベルに応じて意思を伝えられる対象が異なる』という表記があった。
そもそも対象もなしに念じていた自分も自分だが、よくスキルの説明を読んでもいなく、さらに根本的にスキル自体がレベルが低く使い物にならないとは衝撃だった。
すでに半分枯れているような大樹が、さらにショックで枯れこむように落ち込んだ。
『……とむかく現状では厳しいので、使用するのでしたら、たまに枝に止まって羽を休ませる鳥などに使用するのをオススメします』
「あのたまにやって来ては俺のひたいを突いて来る奴らか……よし!」
鳥というのはこちらへ来てすぐくらいに額を突いてきたあの鳥で、赤い羽で全身が覆われていて、クチバシが緑色で鋭く尖っている。よく見かける小型の野鳥に大きさは酷似していて、パッと見アマゾンとかにいそうな鳥だ。
鳥がやって来るのはだいたいお昼頃。時計という物がないから本当にだいたいだが、毎日奴らは5匹くらいでやって来る。
奴らは来る度にひたい辺りを何度か突いてから枝に止まって休んでいる。最初にひと突きする理由は謎である、むしろ聞けるならなぜそうするのか聞いてみたいところだ。
何気に痛いし。
大樹はスキルをこの鳥に対して使う事にし、奴らがやって来る昼辺りまでしばし待つ事にした。
→→→→→…………。
しばし時は流れてお昼頃。鳥達はいずこからやって来ては最初に大樹の額を突く。
「いででででっ!」
何度か突き終わると、満足したように数羽は枝に止まる。
「くっそー!見てろ!、何で突くのか聞いてやるぜ!そんでもってやめさせる!」
大樹はさっそく鳥に向かってスキルを発動させる。頭の中で鳥に話しかけるように念を送る。
「(あ〜あ〜鳥さん聞こえますか、聞こえましたら応答願います)」
「………」
「(鳥さん?聞こえますかどうぞ?)」
「………」
何度か話し掛けるが、待てど暮らせど返答はない。先程魔導書はノミ畜生か小動物にはスキルが発動出来ると言っていたが、全くもって効果は無かった。
鳥は小動物では無いのかと、少々疑問に思う大樹。しかし、次の魔導書の言葉に衝撃を受ける。
『あ〜言い忘れておりましたが、種族が異なる場合には、そもそも翻訳スキルを習得しなければ話は出来ません』
「………。だから早く言えよ……」
『はい、ですから今申し上げました』
「……ありがとよ!」
またかと、毎回大事な部分の報告が遅い。勝手に期待を膨らませて、最終的に膨らんだ期待を針で破られる感覚だ。
「んで、その翻訳スキルってのはどうやって手に入れるんだよ」
『その種族や種類などをドレインするのが望ましいですね』
「鳥を吸収しろって事か……」
とは言われても簡単な事では無い。鳥を吸収しろと言われても、空を飛ぶ鳥を捕まえる事など出来ないし、そもそも木の上を好むこいつらは、ドレイン可能な地面に簡単にはやって来ない。
仮に地面に来たとしても、ドレイン中に逃げてしまうだろう。
死骸が吸収には望ましいが、これも現実的では無い。そう都合よく鳥が死んで落ちて来るなどあり得ない。
(バサッ)
地面に一羽の鳥が気絶でもしたのか落下した。
「あら、めっちゃ都合いい」
動けはしないようだが、まだ息のある鳥には悪いと思いながらも、自分の欲を優先したい大樹は、素早くドレインを発動させ地面に鳥を取り込む。
『パンパカパーン!スキル翻訳『鳥類』を習得しました。スキル突耐性を習得しました。思いの伝達がレベル2に上昇致しました』
「2回目だけど、賑やかだよなこれ」
そんな事よりもと、大樹は枝に止まっている鳥に、今がチャンスとさっそく話しかける大樹。
「(鳥さん鳥さん!聞こえますか?)」
「(おや?何やら声が聞こえて来ますドリ?)」
返答があり感動する大樹。この世界に来て、魔導書以外と意思疎通出来る日が来ようとは。
「(あの!あの!俺今君達が止まってる木なんですけど!、あの、賢者の木って言います。あの!皆さんはどう言った方々ですか?)」
「(ドリ、賢者の木さんですかドリ。我々はドリバードと言いますドリ。この辺りを縄張りとして朝昼晩と異なる場所で羽を休めたり行動しているドリ)」
「(へっへ〜そうなんですね!)」
何故か丁寧語になる大樹だが、それは話が出来るのが嬉しいからだ。そもそも前の世界でもこんな夢のような事は叶わない。
それからしばらくたわいない話を鳥と続け、最後に本題であった話へ入る。
「(それでですね、あの、ここへ来られる時にいつも皆さん僕を突くじゃないですか。あれはどういった意味が?)」
「(それはドリね、あなたの頭が寂しいから、少しでも刺激を与えて緑を増やそうとしていたのドリ)」
「(ふぁ?)」
少しは気にしていた、というより知っていた。自分が木になっていた時すでに、もしくはあの日焼け落ちたためか、はたまた季節的なためか、特に頭の部分。葉っぱや緑を連想させる物は付いてい無い。
人間で言うところの完全なるハゲだ。だがひとまずそこには触れないようにして来た。
見た目がうんぬんと言う事はあるが、それによって困る事はない。
しかし、強いて言えば頭の部分が少し風通しが良く、なんとなく寒々しい感覚はあった。
「(少し前までは、この辺りに、それはそれは立派な木が立っていたドリ。たしかその木も賢者の木とか言ってたドリな)」
「(……いや、俺やん……、それ俺が来る前の俺やん……)」
この世界に来た時には辺り一面炎に包まれていた。そんな状況で自分の頭部の事など確認は出来なかったが、その時にあったにせよ無かったにせよ、過去にふさふさだった事実はあるのだと理解した。
「(とにかくこの辺りには翼を休める木が無いドリ。あなたの緑が戻れば、それにともなって餌になる虫などもやって来るドリ。だから早く治して欲しいドリ)」
「(あっはい……、わかりました。ですがその……、できれば突くのはやめていただきたいです)」
「(ふ〜む、考えておくドリ)」
話を終えてすぐに、ドリバード達は次の場所へと移動するために一斉に飛び立った。
皆が去る瞬間、一羽のドリバードが大樹にこんな言葉を残した。
「(ここに来る途中、この場所に向かって移動している数人の人間を見かけたドリ。何やら重々しい雰囲気だったドリから注意するドリ)」
それは注意喚起のようだったが、そもそも何が来ようと動けない。なかば諦め、不安と絶望感に苛まれながら、じっとただ大樹は待つだけであった。
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