空へ

「ねえ」


「知ってるわよ。もはや過去より頻度も少なくなった数十年に一度の、また来るかもしれないっていう予想のことでしょ。」


 ラリプレタックが私の心を読む。そう、いまや数十年に一度となった器物が天から降り注ぐ現象、、過去に何度かあった時も、数日前に天使の梯子が降りたと言われている。その梯子がついこの前3本降りたのだ。この機会に、を遡って空へ行くという計画が進んでいると言う噂だ。伝説を確かめたいトレジャーハンターたちが中心となっていると聞いていた。

 確かに、器物が無傷で降り注ぐ雲間を遡ることが出来るなら、雲の上の空まで辿り着いても不思議はない。けど、過去のは降り注ぐタイミングも時間もバラバラで、雲間に突入した瞬間、なんてことも十分あり得たし、雲の上まで抜けても何が待ち受けているのか一切わからない、リスクの高い仕事になるのが明らかだった。


「ねえ」


「行かないわよ。」


ラリプレタックはまた私の心を読む。


「…ねえ。」


「…。…わかったわよ。付き合えばいいんでしょ。」


ラリプレタックは優しくしぶしぶ私の提案を受け入れた。さすが長年の相棒ね。


*** ***


 街に戻ると早速応募窓口を探して天空探検士として登録をした。私たち以外に10組の探検士が登録を行ったようだった。街中の人々は口々に私たち探検士のことを応援したり、貶したりしていた。みんないろんな事情を抱えていた。金が必要な者、人生逆転を掛けている者、名誉を求めている者…。雲間を抜ける器物は、天からの贈りモノの飛行物体をそれぞれで選ぶことになった。私とラリプレタックはと呼ばれるモノで行くことにした。

 幾日か過ぎて、意外なほど早くに雲間が開いた。しかも過去に類を見ない程大きく穴が開いたのだ。人々は歓声を上げた。計画が上手くいくと喜んで。天空探検士たちは急いで用意を進めて出発した。私とラリプレタックは最後にロケットを発射させた。重力の増加を感じながら、他の組の後を追いかける。雲間の向こうは真っ暗だ。あれが…空?


「違うわ。アレは空じゃ…ない。」


 ラリプレタックが私の心を読むより早く、黒い何かが先頭の飛行機を飲み込んだ。ぐにぐにと空中で蠢き廻るその黒いモノは大きな(図鑑の中でしか見たことが無いけど)みたいな生き物だった。蠢き廻るたびにぐじゅぐじゅと嫌な音が頭の中から聞こえてくる。他の組が次々と飲まれて行った。私たちは運よくの隙間をすり抜けて、雲間の上へ上へと上昇していく。


「ねえ」


「何も言わないで。帰りのことも想像したくないもの。」


 私の言いたかったことを察したのか、ラリプレタックは悲しそうな表情を浮かべていた。雲の上まで突き抜けて、ロケットは更に上昇を続けた。暗い空の上まで上り詰めて、いつだったか本で見た、と呼ばれる光の輝きを見たあたりで、ロケットから飛び出して、飛行スーツから翼を広げて滑空していく。眼下には、灰のクニの1000倍は大きい都市が広がっている。雲の上には国があったのだ。やはりの先には天上人が住んでいたのだ。


「ねえ!!」


「聞こえないけど!!!天上人かどうかはわからないわよ!!」


 ラリプレタックが何を言っているのか、風音で全然聞こえなかった。適当な石の床を見つけて降り立ってみた。キラキラと光を反射する、鏡のような透明な板が貼られた四角い箱が整然と並んでいる。


「私たちの街並みとは全然違うわね。私たちの街は…木と鉄と、脈打つ肉の壁がごちゃごちゃと重なって出来ているもの…。」


「ラリプレタック、わたしまだ、って言ってないわ。」


 そんな話をしていたら、いつの間にか黒い異形のモノたちに囲まれていた。


「::::::::」


「え?え?なあに??」


「:::::」


「\\\\\^^^^^^」


 異形のモノたちは何かを口々に言っているのだが、言語が違うのか、何を言っているのか全然わからない。


「::::あ:::ぐ:::」


「:::ぐ::あ::あ::::ああ::::」


「これ::デ:::ツウジル?」


急に言葉が通じて驚いた。驚きながら私は受け答えする。


「あっあのっ…!私たち…雲間を遡って、ここに来ました!!下の世界の住人で、調査をしに…勝手なことかもしれませんけれど、決して危害は与えません!あの…姿は違うかもしれませんけれど…私たちはあなた方天上人に感謝しているんです!」


黒い異形のモノたちは、何かを話し合っている。どうやら私たちの処遇を相談しているようだ。


「:::ジョオウ:::オマエにアウ::」


「ジジョウ:::セツメイ:::ヒツヨウ::」


「ニゲル::シヌ::ワカツタカ」


そう言われると、見えない力で拘束されてしまった。

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