第6話 裸の王さま

 数えきれないほどの出会いを経験し、数えきれないほどの別れを経験した。

 世界を移ろうたびに大切だと思える存在から忘れられ、愛した者は別の男と添い遂げた。



 何度も何度も間違い、何度も何度も過ちを犯し、何度も何度も後悔と反省を繰り返した。

 そうやって気の遠くなるほどの時間と労力をかけ、自分の中に合った嘘と向き合う。

 しかし、そうやって原初の過ちと向き合った時には既に遅く、帰るべき世界が失われていた。



 白き双子に出会い、己の中の神様が偽物だと自覚した。

 紅き姫君に出会い、大切な者は連れていけないと錯覚した。

 昏き若王と出会うことで、大切な者は連れて行きたくないと思い直した。





 そこからさらに年月を重ね……。


 とある世界で独りの天災と出会う。

 幼子にして異様とも言えるその“才能”は人知を超えていた。

 そして同時に気が狂いそうなほどの年月を経た俺でも初めて見る異質さだった。


 誰にも理解できない。

 誰にも理解されない。

 誰にも理解して欲しくないと言う彼女を嗤い、俺は可能な限り彼女と遊び倒した。


 その果てに彼女が付いてくると誰が予想しただろう。

 その上で、俺が彼女の手を取ったのも不思議な出来事だ。

 あれほどこの悪夢に誰も付き合わせてはいけないと決めていたのに……。





 そこから比較的少ない時を重ねる。


 次に出会ったのは、厄災の魔王。

 人族を滅ぼさんとする魔の王。

 人の国に生まれ、人に飼われ、人と共に成長し、人を殺すと誓った者。


 誰も彼女を殺せない。

 誰も彼女を止めない。

 誰も彼女を止められないと言う人族に同情し、俺は彼女と敵対し、彼女を殺しかけた。


 その果てに彼女が付いてくると誰が予想しただろう。

 時間切れのせいで魔王討伐を成せなかった俺に対し、彼女は付いて行きたいと叫んだ。

 最初は嫌だと拒んだが、彼女が泣き崩れ、自分の想いを吐露したことにより彼女も同行させることにした。





 こうして三人の旅路が始まる。

 『天災の騎士』と『厄災の魔王』を連れて歩くのは『ただの人間』。

 それも身勝手な勘違いで迷子になった愚かで脆弱な男。

 騎士は俺を王と崇め、傅(かしず)く。

 魔王は俺を王と呼び、寄り添う。


 何も持たぬ俺は今日も裸の王様気分で世界を渡る。

 まるで俺が二人を御しているような錯覚に溺れながら……。


「だぁかぁらぁ!世界中を相手にする時はまず相談しろって言ってんだろ!?」

「ですが、このままでは私の気が収まりません!」

「そうだそうだ~!ミレちんの敵を取るぞ~!」


 住んでいた国の軍や他国のミサイル・核兵器から耐えつつ暮らす日々がまた始まる。

 頭を抱えてももう遅い。全国ネットで二人が宣戦布告をし、同時に28もの都市がそこにあった命と共に壊滅している。


「なんでも暴力で解決しようとするな!犯人と事件に関わる奴らだけ闇討ちと拷問すればいいだろうが!」

「人一人の命が不当に失われたのです」

「人類単位で反省しろ~。こんな世界は滅んでしまえ~」


 二つの災いは今日も絶好調。

 なんでいつもは喧嘩したり、互いに距離を取ってたりするのにこういう時だけ仲良く協力してんだよお前ら。


 二人とも世界中の命を滅ぼせる力を持っている上に、荒廃した世界を見捨てるという選択肢も存在するので、頻繁ではないが割とこういう暴走を起こす。

 失われた命を戻して欲しいわけじゃない。

 犯人に反省を促したいわけでもない。

 むしゃくしゃした気分を適当に攻撃に変え、事もあろうに世界中に向けて発散しているだけの迷惑極まりない子供じみた行為だ。この事は、喜ばしくない事に本人たちも理解している。

 だからこそと言うべきか、気が済んだらその時点でやめる。ただし、自分たちが仕出かした破壊行為の責任は取らないし、その後の復興に力も貸さない……。


 この二人に比べれば暴力反対・平和主義を貫きたい俺はこの事態をどうやって収束させようかいつものように頭を悩ませる。

 同時にさっさと世界の管理者に見つかって外に放り出されないかな~とか希望を抱いていた。

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