第5話 窮極の騎士

 私はその人と体を重ねたいと思った。

 私はその人に愛して欲しいと願った。

 私はその人が私だけを求める夢を見た。

 私は絶対に彼だけは失わないと心に誓い、私のすべての才を懸けて戦を学んだ。



 学ぶことなど何もないと冷たく世界を見ていた私は彼と出会って、私の有り方を全て変えた。

 剣を学び、魔術を学び、戦術を学び、攻撃を学び、防御を学び、生を学び、死を学んだ。

 すべての行動は彼のために有り、自分は彼の存在を守るための盾でいいとさえ考えるようになった。

 自分の内より溢れ出る抑えきれないほどの独占欲。

 城で静かに暮らしていただけのあの頃には決して手に入らなかった鮮やかな色。



 あの日、私が彼を除く全てと決別した時、私は私の恋心さえもその身の刃へと封じた。


「私は貴方の剣となり、盾となります。どうかお側に置いて、自由に扱ってください」


 彼と共に居続けるには“女”ではダメだ。

 愛を与え、愛を受け入れ、常に横に立っているだけでは彼の進む道に耐えられない。

 だから私は迷わずに選択する。


「私はどんな時があろうと貴方を裏切らない。だから、貴方の背を私に任せてください。貴方の旅路が終わるその日まで……私は貴方の騎士となりましょう」

「わかったわかった。連れて行くからそこまで気負う必要はないっての」

「ですがッ!」

「はぁ……もう少し肩の力は抜いてくれ。あと、これは地獄への入口だ。覚悟してくれよ、相棒」





 絶対、私はあの日間違えた。

 何も考えず彼の手を取ったあの日。私は選択を誤った。


「はぁ……。素直に“女”でいれば良かったです」

「どうした急に?」


 彼は気づかないだろう。

 私は彼のとなりで寝ている恋敵とも言える王の妻に強烈なデコピンを放ち、彼に抱きつく。


「なんだ?甘えん坊の時期か?」

「その通りです。だから、今は私を甘やかしてください」


 窮極の騎士は今日も溜息を吐く。

 天災から騎士になったことをちょっと後悔しながら。

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