第3話 迷子の旅人
幼少期はただのいじめられっ子。
少年時に神様を自身に宿したと勘違いし、青年期にはめでたく中二病。
成人して青春時代を黒歴史として封印し、仕事に打ち込む。
職場で出会った女性と普通に恋に落ち、交際期間もなく結婚。
子供を二人授かり、仕事の役職も順調に上がっていった。
孫は五人まで増え、妻との金婚式も互いに欠けることなく祝うことができた。
と、言えば普通で幸せな人生を送ってきたただの人間だ。
しかし、俺の中にはすべての人生の中で共通する言葉が存在した。
“孤独”
数少ない友人との他愛のない会話も、愛する妻との情事も、子供を愛でる時も、孫を可愛がる時も……俺の心は独りだった。
少年時に出会ったと勘違いした神様は顔にくっきりと皺のできた頃にも心の中に存在していた。
それが自分の心が生んだナニカと自覚しており、彼女が本物の神様であると信じているわけではない。
なのに、俺は彼女を切り捨てることができなかった。
だって唯一の心の拠り所だったから。
誰かに理解してほしいと願うこの心を、誰にも理解してほしくないと願うこの本性を、自分すら気づいていなかったこの不思議な力を知っていたのは彼女だけだったのだ。
今、俺は様々な世界を渡り歩く旅人だ。
孤独に耐え切れず、九十歳近くになって自分を除くすべてを捨てて旅に出た愚か者。
すべてを自身の中にいる神様を理由にして自分の世界(こきょう)から逃げた大馬鹿者。
既に帰る世界を失い、迷子のように数多の世界を渡り歩き、不法入国者のように追い出される。
そんな生活を天に瞬く星の数を超えるほど続けている。
それでも心が壊れていない俺は……、果たして人間と言えるのだるか。
いや、自分だけはそう信じよう。どんなに酷く醜い魂でも俺は人間であると背筋を伸ばそう……。
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