1-21. 魔獣の群れ
それは突然だった。ダンジョンの入り口の近くに、たくさんの魔獣が出現しているのを、力による探知能力が知らせて来た。と同時に警報音が聞こえて来た。ダンジョンの入り口が破られたのだろう。ダンジョンから魔獣が群れを成して出て来たようだ。何が起きているのだろうか。
警報の音が鳴ったこともあり、私は舞台の控室を出て、有事の際にはと言われた通りに、御殿に向かった。こういった問題が発生したときは、南森家が島の人たちをまとめて事に当たることになっている。だから、南森家の人間は、分家も含めて御殿に集まることになっていた。
舞台の控室から外に出てみると、警報が鳴ったため、祭りの奉納舞いは中断されて、訓練通りに10個の班に分かれて並ぼうとしていた。また、風の分家の浩一郎叔父さんが中心となった一団が、観光客に一時避難場所を知らせ、そちらに集合するよう誘導していた。私はそうした光景を横目に、御殿に入った。
御殿の中には、既にお母さんとお父さんが居て、ホワイトボードや座布団を出したり、会議の準備をしていた。
「お母さん、魔獣がダンジョンから出て来たみたい」
「そうね、いま義之さんが偵察に行ってくれているわ。義之さんはバイクで行ったから、10分くらいすれば帰ってくるのではと思うけど」
義之さんとは、土の分家の叔父さんのことだ。
「義之叔父さん大丈夫かなぁ、今回は相当な数だよ」
「あら、柚葉、あなた分かるの? 何頭くらい?」
「動いているから正確には数えられないけど、中型の大きさのが中心に50~60体くらい」
「そうなのね」
私が根拠なく言っているのではないと分かっているのか、信じてくれているようだ。
「北側の草原の終わるところに魔獣避けの結界を張ってあるけど、それだけの数となるとそう長くは持たないわね」
お母さんは考え込んでいた。
そうした会話をしているうちに、火と水の分家の叔父さん、叔母さん、それに瑞希ちゃんがやってきた。
「状況は分かりましたか」
水の分家の叔父さん、つまり瑞希ちゃんのお父さんである蒼士叔父さんが、お母さんに尋ねた。
「どうやら、これまで遭遇したことのない事態になっているみたい。現場は義之さんが見に行ってくれているけど、柚葉によれば50~60体ほどがダンジョンから出て来ているそうよ」
「そうですか」
蒼士叔父さんの顔色が少し悪い。
「あと5分したら会議を始めて対応を決めましょう。それまでに義之さんが戻ってきてくれると良いのだけど」
お母さんが言った。
ちょうど5分後に会議が始まった。その直前に義之叔父さんが戻ってきて、お母さんに報告をしていた。
「ダンジョンの入り口近くは木が生えていて双眼鏡では見難かったけど、中型の魔獣が沢山見えた。ざっと見た感じでは50体は超えていそうだった」
私が伝えたのと同じ報告だった。当然だけど、これで皆も本当であったと確信が持てただろう。そうした皆の様子を見ながら、お母さんが言った。
「それで、これからなのですけれど、浩一郎さんには、既に7班の人と観光客の会館への避難誘導をしてもらっています。彼らには、そのまま会館の護りに入ってもらおうと思います。それから、祐太さんは、8班と9班とで島の戦えない人をここに集めて、ここを護ってください。10班は私に付けて伝令とします。なので、真治さん、蒼士さん、義之さんの3人で、1~6班を2つずつ担当して、前線に立っていただきたいと思います。瑞希ちゃんは、前線を主に防御障壁でサポートしてください」
「紅葉と柚葉はどうするんだ?」
お父さんがお母さんに尋ねた。
「私と柚葉は、左右から群れに攻め入って、数を減らします。一人目標15体で」
「それって大丈夫なのか?」
「でもやるしかないのですよ。前線の60人で対応できるのは30体くらいと思います。なので、残り半分は私たちで対処するしかないでしょう。大丈夫です、無茶はしませんから」
お母さんは、お父さんにニッコリ笑って、そう言った。
「そうだな。議論している時間も惜しいから、それでやろう。紅葉と柚葉は、くれぐれも無理をしないように。危なくなったら、前線の後ろに下がって欲しい」
「はい」
お母さんと私は、お父さんの言葉に頷いた。
話が決まり、決定事項はすぐに御殿前に並んでいた人たちに伝えられた。そしてそれぞれ与えられた役割に従って、行動を開始した。
「お母さんは、すぐに出られるの?」
「そうね、祭りのお手伝いでちょうどパンツを履いていたから、このまま出かけるので問題ないわ」
私の問いかけにお母さんが答えた。私は巫女の舞いの衣装のままだったが、動きやすいように御殿の像の裏にある部屋で、袴を脱いでいた。
「お母さん、それでなんだけど」
「なあに?」
「魔獣のうち、10体くらいが群れに入らずにバラけているみたいなんだ。だから、側面からの攻撃の時のノルマは10体で大丈夫だよ」
「バラけているという10体はどうするの?」
「私がノルマを果たしたら、そっちもやるから」
「え? バラけていたら大変じゃないの?」
「問題ないよ、転移を使うから」
お母さんに、若干呆れた目をされた。
「分かりましたら、そちらは任せます。くれぐれも安全第一にしてくださいな」
「はーい。あ、そうそう、伝令係の10班の人は、前線の後ろで待機ですよね?」
「そうですけど、それが何か?」
「ハグレた魔獣を倒したら、伝令係のところに転送するから、急に魔獣が現れても驚かずに、死んでいるか確認するように伝えてね」
「はいはい」
やれやれと言った体で返事された。
お母さんと私は、御殿の北側にある開けた草地に向かった。そこでは、お父さんたちが盾で前線を組んでいた。結界の向こうに魔獣が見える。魔獣たちは結界を破ろうと暴れている。結界は魔獣の勢いに負けて歪みかけている。
「お母さんは西からで良い? 私は東から行くから」
「私は構いませんよ」
即座に話を決めて、お母さんと分かれ、私は前線の東側に回り込んだ。
結界が破れ、魔獣たちが雪崩れ込んでくる。魔獣たちが前線に取り付く前に10頭減らすぞという意気込みとともに、私は身体強化して、呼び寄せた剣に力を乗せ、魔獣の群れに駆けこんだ。
何頭かが私に気が付いて、体の向きを変えて向かってきた。お誂え向きだ。
私は走った勢いのまま剣をこちらに向かってきた先頭の一頭の顔に剣を叩きこむ。そこから剣を抜きつつ回転し、反対側に来ていた魔獣の頭に剣を打ち込む。続いて来たもう一頭には、右手の掌底破弾をお見舞いし、と一気に三頭を倒した。
さらに剣を抜き取り、一体、二体、剣を振って対処する。ノルマ達成まであと半分。他の魔獣は私を置いて前線に取り付こうとしているので、背後から敵の腰に向けて剣で攻撃する。それで二体倒したところで危機感を持ったのか、反転して私に攻撃しようとしてきたのが三体いたので、それらを剣と左手の掌底破弾で斃してノルマを達成した。血糊が飛び散っていたが、防御障壁を張っているので体を振れば落とせる。ということで、体を振って、血を落とした。
「お父さん、ノルマ達成したから、後はお願いしまーす」
盾越しに私の戦いを見ていたお父さんに後の処理をお願いして、どこに転移しようか考える。お母さんの方を見ると、大体ノルマの半分くらいまで進んでいるようだった。ハグレの一体がお母さんに近付きそうなので、まずそれから斃そうか。私は自分の足下とお母さんに近付きつつあるハグレのそばに転移陣を作ると転移しようとした。
「え、おい、柚葉」
転移直前にお父さんが私に何か言おうとしていたみたいだけど、魔獣の対処が先と思ってそのまま転移する。そして目の前に現れた魔獣を剣で斃す。斃した魔獣は予告通り伝令係が待機しているところの側に転送し、次のターゲットにする魔獣を決める。西側に来たので、そのまま西の端から順番にやるか。私は転移して、攻撃して、転送してを9回繰り返し、ハグれていた魔獣をすべて対処し終えた。お母さんの方もノルマをこなして、前線の後ろに戻ったようだ。私はお母さんの側に転移陣を作り、転移した。
「柚葉、お疲れ様。早かったわね」
「お母さんもお疲れ様でした。それで、何とかなりそうかな」
「ええ、前線の人たちも、軽いけがをしている人はいるけど、対処はできそうよ」
「良かった」
「こちらは良いのだけど、幻獣の封印が心配ね。柚葉、見てきてもらえるかしら」
「はい、任せて」
私は封印の間に行くため、御殿に向かった。
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